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第3話 あぁ、恐ろしき都会


 立ち止まった美少女が、スマホをじっと見たままノロノロと歩き出す。


 しかし、歩いては止まり、フラフラしては止まり、というのを繰り返しており、一向にエレベーターにたどり着く気配がなかった。

 一度待つという選択をした手前、ここで閉めるボタンを押すのも気が引ける。


 それにここは十五階。

 このタイミングを逃せばあの女の子はまたこの階に止まるのを待たなきゃいけない。


 それが申し訳なくて、やはり待つしかなかった。


「! …………なるほど」


 またしても立ち止まる美少女。

 さすがにこれ以上待つのは、下で待っているかもしれない人に迷惑だよな。


「あの」


「ッ!!!!」


 ビクッと体を震わせ、俺の方を見る美少女。

 切れ長で、宝石のように輝く瞳がようやく俺をとらえる。

 その反応だと俺には気づいてなかったみたいだ。


「乗りますか、エレベーター」


「あ……はい。乗ります」


 美少女が小走りでエレベーターに乗り込む。

 

「何階ですか?」


「……一階で」


 開くボタンを離し、ようやくドアが閉まった。 

 広々としたエレベーターに、二人きり。


 美少女は若干落ち着きなさそうに身をよじらせながらも、注意は変わらずスマホに注がれていた。

 そこまで熱中するなんて、一体スマホで何を見ているんだろう。

 思わず気になって、心の中で先にお詫びをしてからちらりと見る。


 縦持ちの画面には向かってくる敵をひたすら倒していくキャラが映っていた。

 それを指で動かし、どんどんグレードアップしていく武器で敵を倒していく。

 

(ってこれ、ラストウォー〇バイバル⁉)


 広告でしか見たことないゲームなんだけど。

 ちなみに、まともにやってる人を俺は初めて見た。


「む……」


 しかも当人は真剣な表情そのもの。

 そんなに思考力が試されるゲームだったか?

 

 もしかして都会だと、やっていたら馬鹿にされる広告ゲームが流行ってるんだろうか。(※あくまでもド田舎者の意見です)

 だとしたら全然ついていけてない。

 

 こんな美人が何も考えずにできるのがいいゲームなのに、すごく考えてプレイしているのがなんだかおかしくて、思わずじっと見てしまう。

 するとふと、女の子が俺の視線に気が付いた。


「ッ!!!!!」


 ビクッと体を震わし、俊敏な動きで俺から距離を取る美少女。

 その様は「シャー!」と威嚇する猫みたいだった。


「えっと……」


 何か謝罪の言葉を口にしようと、必死に頭の辞書を開く。

 しかし、その前にエレベーターは一階に到着してしまった。


 美少女がちらりと俺の方を見る。

 そしてぼそっと言った。


「……入れたばっかりだから」


「え?」


 ドアが開き、一目散に飛び出していく美少女。


「あ……」


 あっという間にエントランスを出て行き、その背中が見えなくなる。

 俺は呆気にとられ、エレベーターの中で立ち尽くしてしまった。


(やってしまった……)


 きっと同じ階に住んでいるんだろうし、近所付き合いとして仲よくしようと思っていたのに……第一印象から最悪だ。

 がくりと肩を落とし、エレベーターから降りる。


 それにしても、最後の一言はどういう意味なんだろう。


「難しいな……」


 必死に言葉の意味を考えながら、俺も遅れてエントランスを潜った。










 マンションを出てすぐにある、人通りの多い道を歩く。


 さすが都会だ。

 行き交う人みんながオシャレで、どこか輝いて見える。

 走っている車の数だって桁違いだし、並んでいる店も華やかさが段違いだ。



「ねぇ! 見てあの人! カッコよくない⁉」

「ほんとだ! モデルかな?」

「絶対芸能系でしょ! もしかしたら俳優とか……!」

「やば……! 顔面強すぎなんですけど……!!」



 ん?

 声を聞く限り、近くに有名人がいるみたいだ。

 でも誰かはわからない。

 俺にとっては歩いている人全員が芸能人に見える。


 でも、さっきエレベーターで会った女の子はその中でも別格だった。


(やっぱり都会ってすごいな)


 妙に感動しながら歩いていると、道脇に立っていたスーツ姿の女性が俺を二度見した。

 そして驚いたように目を見開き、「うわぁああっ!」と声を上げる。


「っ⁉」


 俺も驚いていると、その女性がパーッと俺の下にやってきた。


「はは初めまして! もしかしてモデルさんですか⁉ もうどこかの事務所に所属したりしてますかねどうですかね⁉」


 顔が近い。あと圧がすごい。


「いや、してないですけど」


「なんと……!!! 入社して早三年! 遂に山〇賢人の生まれ変わり……いや、吉〇亮の生まれ変わりを見つけてしまいました!!!」


「全員ご存命ですけど」


 すごい不謹慎だな、この人。


「申し遅れました! 私、こういう者でして」


 名刺を渡される。

 そこには女性の名前と……。


「芸能事務所?」


「はい!! ぜひうちの事務所で芸能活動してみませんか⁉」


 芸能活動って、モデルとか俳優とか、そういうことだよな。

 それこそ人前に出る、イケメンとか美女がやるような……。


 いやいや、俺だぞ?

 人格形成に大事な時期をすべて田舎で過ごした、生粋の田舎者だぞ?


 確かに同じ田舎者でも突然現れて大活躍する人はいるだろうが、俺はそんな特別じゃない。

 だから芸能人なんて、ありえるわけがない。


「きっとあなたならすぐに売れます! 間違いないです! 絶対に佐〇健の生まれ変わりです!!!」


 だから全員生きてるって。


 明らかに怪しい。

 ……もしかしてこれ、詐欺か?

 いや、そうに違いない。


 沙也加先生が言ってたじゃないか。

 女の人には気をつけろって。


 それって、声をかけてくる詐欺師の女性に気をつけろってことだったのか。

 早速、沙也加先生の教えが役に立ちそうだ。


「今、手持ちほとんどないので」


「……へ?」


 そう言って足早に女性の横を通り過ぎる。

 すると女性は慌てて俺についてきた。


「ちょっ、待ってください! 手持ちとか子持ちとか荷物持ちとかよくわかりませんが、とにかく! あなたは芸能界に風穴を開けられる逸材で……!」


「壺と英語教材は間に合ってるので。あと廃品回収も」


「詐欺かなんかだと勘違いしてます⁉ ちょっと待ってください! ほんとに芸能事務所なんです! いわゆるスカウトってやつなんです!!!」


「ほんと、大丈夫なので」


 歩くスピードを速める。

 そしてあっという間に女性から距離を取った。


「ってはや⁉」


 そのまま女性を置き去りにする。


「ほんとに待ってください! いやマジで、ガチで……あなたは百年に一人の逸材なんですよぉおおおおおおおおおおおお!!!」


 それ絶対、詐欺の常套句だろ。


 見た目で田舎者だとわかってカモろうとしたのかもしれないが、俺は簡単に引っ掛からないぞ。



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