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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第27話 バイバイ


 え……え?


 なんで俺、猫谷さんに背を向けられてるんだ?

 さっきまで普通に話してたよな?


「ね、猫谷さん?」


「…………」


 声をかけても、猫谷さんは応じない。

 その背中には何も答えないという意志が見えるような気がした。


 ……ダメだ。何度考えてもわからない。

 どうして急にこうなったんだ?


 耐え切れなくなって、猫谷さんの正面に回る。


「あっ」


 しかし、猫谷さんは俺に顔を見せたくないのか、くるりと体の向きを変えた。

 

「っ⁉」


 体に稲妻が落ちる。

 今の行動は、完全に俺を避けてる。

 俺に顔すらも見せたくないほどに、俺を拒絶してる。


「えっと……」


「…………ぅ」


 さすがにこのままじゃダメだと思い、必死に頭を回す。

 一体さっきの発言のどこが、猫谷さんをこうしてしまったのか。


(……はっ! もしかして俺、気持ち悪かったか⁉)


 思えば猫谷さんに、ストレートに魅力的とか仲良くなりたいとか言ったよな、俺。

 それが身の丈に合わない発言だとしたらどうだ?


(……いや、確かに気持ち悪いかもしれない)


 最近話すようになったとはいえ、まだ猫谷さんとの関係は浅い。

 なのにド田舎から来た奴にそんなこと言われたら、引いて当然だよな……。


(身の程をわきまえて、俺は所詮田舎者だろうが……)


 落ち込んでいると、猫谷さんがちらりと俺のことを見た。

 

 目が合い、今まで隠されていた猫谷さんの顔が露わになる。


「「っ!」」


 猫谷さんの顔は真っ赤に染まっていて、まるで照れているような、恥ずかしがっているような感じだった。

 

 今までに見たことがない、クールさが感情にかき消された表情。


(あれ? 気持ち悪がってない……? むしろ猫谷さんの心に深く届いたんじゃ……)


 そう思った瞬間。

 猫谷さんは咄嗟に走り出そうと勢いよく一歩を踏み出した。


「なっ!」


 なんというデジャヴか。

 またしても避けられ、逃げられると思った――そのとき。



「あっ」



 猫谷さんがアスファルトの凹凸につまずき、体勢を崩す。


「猫谷さんっ!!!」


 俺は地面を蹴って、猫谷さんの腕を掴んだ。


 ――その瞬間、まるで時が止まったかのように猫谷さんと目が合う。


 右手に感じる、猫谷さんの柔らかな肌の感触。

 やはり俺とは違って華奢で、女の子であることを変に強く感じさせられた。


「っ!!!」


 胸がドクンと脈打ち、跳ねる。

 なんだか顔が熱い気がしてきた。


 慌てて猫谷さんから手を離し、お互いに距離を取る。


「「…………」」


 地に足が付いていないような、変な浮遊感が付きまとう。


 猫谷さんは黙って俯いていた。

 が、猫谷さんのことを悠長に見ていられる余裕は今の俺にはない。


(や、やってしまった……)


 さっきの発言といい、猫谷さんの腕を強引に掴むなんて嫌だったよな。

 だから猫谷さんは黙ってるわけだし、コケそうだったからって……。


 後悔にさいなまれる。

 相変わらず都会の静けさはピンと空気に張っていて、胸の異常な鼓動の強さをわからせられる。


 謝らないと……。



「……りがとぅ」



「……え?」


 顔を上げる。

 猫谷さんは斜め下に視線を落とし、耳を信じられないくらい真っ赤にして繰り返した。





「……あり、がとう」






「っ⁉」


 猫谷さんの言葉が、顔とセットで飛び込んでくる。


 ありがとうって……え⁉

 ど、どういうことだ⁉










 その後、猫谷さんとほとんど言葉を交わすことなく、夜の都会を歩き。


 気づけばマンションにたどり着いていて、猫谷さんをチラチラと見ながら鍵を差し込んだ。


(な、何かさすがに言った方がいいよな……いや、でも何を言えばいいのか……って、何ウジウジしてんだ俺は!)


 自分に発破をかけ、猫谷さんに視線を向ける。

 

「桐生くん」


 俺が声をかける前に、猫谷さんが俺の名前を呼んだ。

 

 ドアノブに手をかけていて、もう片方の手を小さく振ると、まるで秘密の話をするみたいにコッソリ言うのだった。





「……バイバイ」





 ドアを開け、自分の家に飛び込む猫谷さん。

 バタンとドアが閉まり、俺だけが取り残される。


「……え、えぇ⁉」


 ダメだ、いよいよダメだこんなの!

 

 頭が混乱して、意味の分からないことが多すぎてパンクする。

 なんで猫谷さんは今、俺に「バイバイ」って言ってくれたんだ⁉


 しかも少し上機嫌に、どこか嬉しそうに。

 

「……全然わからない」


 やはり都会はわからないことだらけだ。





     ♦ ♦ ♦





 一夜明け――翌朝。


 結局あの後、猫谷さんの行動を思い返し、ベッドの上で意味を考えていたらあまり眠れなかった。


 あくびを噛み殺しながら、昇降口を潜る。

 相変わらず朝の下駄箱は騒がしく、いつも通りだなと思っていたのだが……。



「ねぇ、あれだよね?」

「桐生くんだよ! 噂の……」

「え、香織も聞いた⁉」

「聞いた聞いた! 昨日の話なのにもうこんなに出回ってるんだよ⁉」

「まぁ人が人だからねぇ……」

「今までそういう話、全然なかったし」

「でもほんとなら大ニュースだよね」



 妙に視線を感じる。

 それだけは全く普段通りじゃない。


 気になりながらも下駄箱に靴をしまい、上履きに履き替えて下駄箱を抜ける。


「あの!」


 すると俺に気が付いた女子生徒二人組が声をかけてきた。

 もちろんこの子たちは知らない、初対面だ。


「き、聞くよ?」


「も、もちろんだよ! そのために声かけたんだし!」


「じゃあ……」


 二人でコソコソと話してから、鞄の持ち手をギュッと握る。

 

「あ、あの!」


 もう一度言うと、俺の目をまっすぐ見て言った。







「桐生くんって、猫谷さんと付き合ってるの⁉」








 ……え?


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