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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第25話 噂をすれば


 四人掛けのテーブル席に座り、注文したラーメンを待つ。


 やけに厨房にいる店員からチラチラと見られているけど。

 ほんと何かしたか? 俺。


「そういえば旭。こないだクッキー食べてたよな。しかも個包装された」


「あぁ、食べてたよ」


「しかもやけに嬉しそうにね」


「……そんなに嬉しそうだったか?」


「それはもう、ただのクッキーじゃないって言わんばかりに」


「右に同じく」


「ま、マジか」


 確かに、あのときの俺は相当浮かれていたと思う。

 もちろん、ただのクッキーではなかったし。


「あれってさ」


 秋斗が水をぐびっと煽り、テーブルに置く。

 秋斗に釣られて、俺も水に口をつけたその瞬間。



「猫谷さんからからもらったやつだろ」



「ぶはっ!!!」


 思わず吹き出してしまう。

 すると慌てた様子で「大丈夫ですか⁉」と店員が駆け付けてくれた。


「だ、大丈夫です」


「何かあったらいつでも呼んでください! 何なら何もなくても……」


「麻里さん! 注文入ってます!」


「っ! うぅ……ごゆっくり」


 店員がしょんぼりした様子で別のテーブルに移動する。

 俺はおしぼりで口元を拭きながら、ちらりと秋斗を見た。


「ぷっ……旭わかりやすすぎ……」


「もはや愛おしいよ……ふふふっ」


「…………」


 どうやら俺は、わかりやすく図星を突かれてしまったらしい。

 誤魔化そうと思ったが、二人の様子だと無駄なようだ。


「なんでわかったんだ?」


「だって旭くん、クッキー食べながらチラチラ猫谷さんのこと見てたし」


「うぐっ」


「それにあの個包装の感じ、めっちゃ猫谷さんっぽいなって思ったんだよ。紫だったし、猫いたし。でもまさか大当たりとはな」


「……はぁ、そんな分かりやすいのか、俺って」


 意外にポーカーフェイスなところあると思ってたんだけどな。


「そうだよ、あのクッキーは猫谷さんからもらったんだ」


「なんでクッキーもらったの? こほん、経緯が気になるところですが」


「それは……」


 経緯と言えば、俺が猫谷さんを一時的に家にあげて、お菓子を振る舞ってあげたそのお礼にクッキーをもらった。

 しかし、それを二人に話すのは猫谷さん的にどうなのかがわからない。


 ここはいつも通り、適当に誤魔化そう。

 二人は変に追及するタイプでもないし。


「まぁ、色々あって」


「ふーん、そっか。でも、あの猫谷さんから転校して一か月でクッキーをもらうとは……さすがの大物っぷりだな」


「特定の誰かと仲よくしてるイメージないもんね。だいぶ好感度高いんじゃない? ねぇ、アキくん?」


「あぁ、間違いないな」


「うーん、どうなんだろうな。嫌われてはないと思うし、話してもらえるくらいにはなったけど……二人が思ってるほどだと思うよ」


「またた~」


「ま、本人に聞かないとわからないけどな」


「それはそう」


 波留が頷いて、テーブルの水滴をおしぼりで拭く。

 

 背後からはカラン、と扉が開いたときの音が鳴った。


「いらっしゃいませー」


「一人なんですけど」


 ん? やけに聞き覚えのある声だな。


「すみません、現在満席でして……」


「そうですか……」


 沈んだ声と放つ雰囲気のすべてに馴染みを感じる。


「なっ……」


「嘘……」


 正面に座る秋斗と波留は俺の背後を見て、口を開けて固まっていた。

 二人の反応を見て、やはり見知った人物なのだと確信する。


 テーブルに手をついて、振り返る。

 そこにはラフな格好をした、紫色の長い髪を珍しく一つにまとめた猫谷さんが立っていた。


 しょんぼりとした様子で口を尖らせ、


「じゃあ、帰りま……」


 と店員に言いかけて、俺たちの視線に気が付く。

 切れ長の目がパチッと開いた。


「あ、桐生くん」


 何度この言葉を、この顔とセットで聞いただろうか。

 

「猫谷さん」


 何か不思議な縁があるとしか思えない、あまりに偶然な遭遇。

 しかし、ちょうど猫谷さんの話をしていたので、どこかただの偶然には思えなかった。


「はっ! ねぇアキくん」


「波留、奇遇だな。俺もちょうど同じこと考えてた」


 二人がニヤリと笑うと、猫谷さんに向かって手を挙げる。


「猫谷さん、よかったら一緒に食べない?」


「同卓しようよ!」


 確かに席は一つ空いている。それも俺の隣の席、波留の正面。


「すみません、もう一人来てもいいですか?」


「はい、大丈夫です」


 店員からの了承も得たうえで、三人で猫谷さんを見る。

 猫谷さんはじっと俺たちのテーブルを見た後、他の客のラーメンを見てごくりと喉を鳴らし答えた。


「じゃあ」


 短く言って、猫谷さんが俺の隣に座る。

 

 なんだか変な感じだ。

 学校以外だとマンションくらいでしか会わない猫谷さんと、ラーメン屋で隣同士で座っている。


 しかもお互い私服で、こんな夜の時間になんて。


「ありがとう、すごく助かった」


「いえいえ!」


「ちょうどいいタイミングだったな」


 波留が猫谷さんの分のコップに水を注ぎ、猫谷さんの前に差し出す。

 猫谷さんはもう一度お礼を言うと、コップを両手で握りしめた。


「すごい偶然だね。桐生くんたちがこんなところにいるなんて」


「それは俺のセリフだよ。猫谷さんがこんな時間に、しかも一人でラーメン屋に来るなんて」


「結構来るよ、私。好きだから」


「へぇ、意外だな」


「意外?」


「あぁ」


「……それは悪口?」


「全然悪口じゃないから。むしろ親近感が湧いたというか……」


 ふと、正面からニマニマと向けられた視線に気が付く。


「って、なんだよ」



「「いや、別にぃ?」」



 秋斗と波留が口を揃えて言う。


 そんなにニヤニヤと黙って俺と猫谷さんを見ておいて、別になわけあるか。



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