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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第24話 目が離せない田舎者


 店に入る。


 店内は木材が基調となっていて、ラーメン屋と言ったら古びた内装をイメージしていたのだが、都会らしく綺麗でオシャレだった。

 たぶん俺一人だったら躊躇って入れなかったと思う。

 

 恐る恐る、秋斗と波留の後ろについて行く。


「三人なんですけど」


 波留が店員に声をかける。


「…………」


「えっと……お姉さん?」


 店員は何故か固まっていた。

 しかも、俺を見て。


(な、なんで俺で固まってるんだ? はっ! もしかして都内に一年以上住んでないとダメとかいう入場制限が……って、さすがにそこまで都会至上主義じゃないか)


 もう一か月以上東京で暮らしてきて、そこまで排他的じゃないことはわかっている。

 みんな田舎者な俺にも寛容だし、案外優しい街だとも。


「ど、どうしました?」


「はっ!」


 俺が声をかけると、息をするのを思い出したかのように我に返る店員。

 

「ご、ごめんなさい! ご案内します」


 慌てて四人掛けのテーブルに案内され、波留と秋斗が隣同士に。

 俺は二人の正面に座った。


「空いててよかったね」


「タイミングがよかったな」


 思えば十時にも関わらず、店内は客でいっぱいになっていた。

 

「こんなに混むものなのか? 深夜ラーメンって」


「混むね……並ばずに入れたことがラッキーなくらい」


「へぇ」


 ちなみに、ド田舎にはラーメン屋は当然なかったのであまりよく知らない。

 だから当然、この時間にラーメン屋に入ったこともなかった。


「…………」


「……あの、店員さん?」


「ひゃ、ひゃい! な、なんでしゅか⁉」


 すごい噛み噛みだな……じゃなくて。


「俺の顔に何かついてますか? 俺のことじっと見てますけど」


「はっ! ご、ごめんなさい! ごゆっくりどうぞ」


 ピューっと厨房に戻っていく店員。


「どうしたんだろう」


「あははは……」


「まさか、ねぇ」


「?」


 秋斗と波留が意味ありげに俺と店員を見る。

 よくわからないが、悪いことはしてないので気にしないことにしよう。


「それはそうと、どれが深夜ラーメンなんだ? というか、深夜ラーメンってどんな味なんだ?」


 メニューを広げながら、二人に訊ねる。

 

 普通ラーメンって豚骨とか醤油とか、味がわかる言葉が頭についているイメージがあるが、今から食べようとしているのは「深夜」。


 深夜に味なんてあるわけないし、全く味の想像がつかない。


「んー……」


 パラパラとメニューをめくっていると、秋斗と波留が「へ?」と声を重ねた。

 

「さっきから探してるんだけど、どこにも深夜ラーメンなんてないぞ。あ、もしかして裏メニュー的なやつか?」


「「…………ぷっ」」


「え?」


 吹き出す二人。

 やがて腹を抱えて笑い始めた。


「あははははっ! ほんと旭くんって面白いね!」


「? 深夜ラーメン探してるだけだから何も面白くないと思うけど……」


「もうそれが面白いんだって! あはははっ! やっぱ旭は最高だな」


「え? もしかして都会と田舎で笑いの感覚がずれてる……?」


「ぷっ! あははははっ! もうやめて!」


「ダメだ、面白すぎる!」


「???」


 やっぱり秋斗と波留と色んな感覚がずれている気がする。

 たまにあるんだよな。急に理解できないというか、置いてけぼりにされてるというか。


 きょとんとしていると、ひとしきり笑った二人がやっと深夜ラーメンについて教えてくれた。


「深夜に食べるラーメンで深夜ラーメン……なんだ、そういうことか」


「ほんと、旭くんはそのままでいてね」


「このキャラを都会で殺したら大損失だな。俺たちで大切に守っていこう」


「そうだね!」


 俺のことで謎に一致団結されても困るな。


 なんてことを思いながらも、何もかもがわからない俺は注文は二人と同じものにすることにした。


「すみませーん。注文を……」


「はいどうぞ!」


「っ⁉」


 待ち構えていたかのように、ものすごいスピードで俺たちのテーブルにやってくる店員。

 波留と秋斗は困惑しながらも、注文をしていく。

 

 俺は大人しく黙っていたのだが……。


「…………」


 なんでだろう。

 注文をしているのは波留だし、ちゃんと店員もメモを取っているのに、目はずっと俺に向けられている。


「それと、トッピングにホウレンソウと海苔をお願いします」


「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?」


「はい、以上で」


 注文を終え、店員が下がる……と思ったのだが。

 

「「「「…………」」」」


 店員は何故か厨房に戻らず、俺をじっと見つめていた。

 謎の沈黙の時間が流れる。


「本当に、以上でよろしいでしょうか?」


「え?」


「その……う、裏メニューとか」


「裏メニュー?」


 なんでだろう。

 この店員、さっきから俺だけに話しかけているような気がする。


「今なら特別に……わ、私の連絡先、とか……」


「レンラクサキ?」


 ホウレンソウの仲間?


「もしよければ……というか、むしろトッピングに追加したいというか……!」



「麻里さん! 早く戻って来て下さい!」



 厨房から声が飛んできて、またしても店員が「はっ!」と我に返る。 

 さっきから我を失いすぎだろ、この人。


「うぅ……ま、またあとで」


 店員が残念そうに厨房に戻っていく。

 

 なんだったんだろう、今のは。

 

「都会の人って、不思議な人が多いな」


 水をコップに入れながら、正面の二人に言う。

 

 しかし、二人はどこか呆れたように苦笑いを浮かべていた。


「やっぱり旭、最高だな……微塵も気づいてる様子ないし」


「奇跡的なバランスだよね。ほんと、旭くんがどんな環境で育って、どうやって今に落ち着いたのか知りたいよ」


「誰かドキュメンタリー作ってくれねぇかな、この男の」


「え?」


 よくわかんないけど、俺のドキュメンタリーなんて面白くないだろ、絶対。


「旭くんはそのままでいてね」


「都会に染まるなよ、マジで」


「さっきから何言ってるんだ?」


 やっぱりずれてるな……この二人と。


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