表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/95

第19話 体育館裏


 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。


「やっと昼休みだねー」


「旭、学食行こうぜ」


 秋斗と波留に声を掛けられる。

 どう言ったらいいのか一瞬迷いつつ、変なことは言わない方がいいと思い、端的に言う。


「ごめん、ちょっと用があって。先行っててほしい」


「用?」


 首を傾げる波留。

 しかし、秋斗は俺をじっと見た後、俺の顔を見て何かを察したように「なるほどな」と呟いた。


「わかった。ほら、先行くぞ波留」


「う、うん。またあとでね、旭くん」


「あぁ、あとで」


 秋斗と波留が席から離れ、教室を出て行く。


「ねぇアキくん、どういうこと?」


「たぶんあれだろ。あれ」


「あぁー! でもそっか。旭くんなら全然ありえるもんね」


「にしても早いとは思うけどな」


「すごいね、旭くんは」


 どうやら二人は、俺が今から何をしに行くのか察しがついているらしい。

 それにしても、俺なら全然ありえるってどういうことだろうか。


 まさかほんとにこ……いやいや、まだ転校してきて一か月も経ってないんだぞ?

 なのにもうなんて……。


「まさか、なぁ」


 俺は猫谷さんでも波留でも、秋斗でもない。

 都会とはいえ、いくら何でもそんなことは……。










「あの! 好きです! 私と付き合ってください!!!」


「…………え」


 思わず声が漏れてしまう。


 呼び出されてやってきたのは、人気の少ない体育館裏。

 陰の落ちたその場所で俺は今、女子生徒に告白された。


 告白、された。


(……え、えぇ⁉ 嘘だろ⁉ まさかだとは思ったけど、こんなことって……)


 この子は初日に下駄箱で連絡先を交換した一年の女の子。

 特別会ったりはしなかったが、メッセージが来ていたので返したり、学校で会った時は軽く話はしていた。


 でも、まさか本当に告白されるなんて……あまりに急で頭が追いつかない。


「すみません……急、ですよね。あまり話したこともないのに」


「いや、それはいいんだけど」


「私、ほんとに桐生先輩がタイプなんです! 初めて見たときからカッコいい! って思って……好きになっちゃいました」


 俯き、頬を赤く染めながら言う女の子。

 

 今この子、俺がタイプとかカッコいいとか言ってくれたよな?

 ……え、俺が?


 いや、秋斗や波留といるときに「カッコイいい!」と言われることがあったり、クラスの女子と話したときにも同じようなことを言われることはあった。

 

 その度に「またお世辞かな」と思っていたのだが、いよいよそうではないのかもしれない。


 ……俺、カッコいいのか?


 確かに母さんと父さんは容姿が整ってる方だし、遺伝子的に見れば……いや、でもこの十六年間、全く意識せずに生きてきたし……。


「ダメ、ですか?」


 上目づかいで訊ねる女の子。


 とてもじゃないが、この子が嘘を言ってるとは思えない。

 というかそもそも、告白してくれて疑うなんて間違ってる。


 だとしたら、まずはこの子の告白に答えるべきだ。

 

「えっと……その、ごめん」


「っ!」


 女の子の瞳が揺れる。

 

「誰かと付き合うとか考えたことなくて。それに君のこと、まだよく知れてないから。だから、ごめん」


 女の子が口を押え、俺をちらりと見る。

 

「……わかりました。話聞いてくれて、ありがとうございました……っ!」


「あっ」


 走り去って行く女の子。

 その顔が辛そうで、一瞬追いかけようと思ったが手を引っ込めた。


 俺が優しさで何かしてあげようとするのは間違ってるよな。


「……マジ、かぁ」


 深く息を吐く。


 よく考えれば、告白されたのは人生で初めてかもしれない。

 上京する前は色恋沙汰なんて一切なかったし。 

 

 異性と言えど、みんな家族のような距離感で接してきていたから。

 

「誰かと付き合う、か……」


 今までそんなこと、考えたことなかった。

 でも年齢的に、恋人がいてもおかしくないんだよな。

 

「うーん……」


 それにしても、まさか都会に来てこんなにもすぐ告白されると思ってなかった。

 

 今考えれば、あそこで連絡先を聞かれたのも、俺に好意を持ってくれてってことだよな。


 何気なしに自分の顔に触れる。

 十六年間、ずっと見てきた顔。


(もしかして俺……一般的に容姿がいい方なのか?)


 少なくとも、あの子は俺のことをカッコいいと言ってくれた。

 それはお世辞とか、そういうものじゃない。


 純粋に俺をカッコいいって言ってくれたんだ。


「…………」


 ダメだ、全然スッと自分の中に入ってこない。

 

 誰かと付き合うってことも、全然だし。

 

 なんだか都会に来て、急に高い壁が現れたみたいな気分だ。

 環境が変わると、こうも考えることが変わるのか。


 モヤモヤと考えながら、秋斗と波留を待たせていることだしひとまず学食に戻ろうと踏み出す。



「ごめんなさい。誰かと付き合うとか、考えたことなくて」



 見覚えのある声が聞こえてくる。

 

 ちらりとその方を見ると、そこには顔を真っ赤にした男子生徒と涼しい顔をした猫谷さんがいた。


「っ! わかりました……ありがとうございましたッ……!」


 立ち去っていく男子生徒。

 猫谷さんがふぅと一息ついた。


 ――その瞬間。


 気配を感じ取ったのか、猫谷さんが急に俺の方を振り返る。


「……あ」「あ……」


 視線が合わさる。


「桐生くん」


 猫谷さんが動揺している俺を見つめる。


 嘘だろ……立て続けにこんなことってあるのか? しかも同じ場所で。


 それと、ほんとに猫谷さんは猫なんじゃないかと思えてくる。

 だって俺に気が付くとか、感覚鋭すぎるだろ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ