表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/95

第16話 また、学校で


 猫谷さんと並んで歩く。


 住んでいるマンションが同じなので、話し合わずとも一緒に帰ることになっていた。


 まだ慣れない都会の景色を眺める。

 隣にはようやく誤解を解くことができた、最近知り合ったばかりの女の子がいて、俺を取り巻くすべてが真新しかった。


 実たちに今の状況を言ったら、どう思われるだろうか。

 アイツらのことだから、羨ましいとか旭のくせにやるなとか、そういうことを言うんだろう。


「で、最近はスライムみたいなキャラを動かして、どんどんレベルを上げていくんだけど……」


 熱心に語る猫谷さん。

 歩き始めてから、猫谷さんはずっと自分がハマっているゲームの話をしてくれる。


 どうやらよっぽどゲームが好きらしい。


「帰ったらやってみようかな」


「え、ほんと? いいの? ほんとにいいの?」


「すごい慎重だな」


「だって広告ゲームなんて、やってる最中は楽しいけど結局は時間の無駄になるし、他のことやってた方が将来のためになるから」


「ファンなのにめちゃくちゃ辛辣」


 普通そこまで熱中してるなら手放しに賞賛すると思うけど。


「い、いいの?」


 猫谷さんが遠慮がちに聞いてくる。


「俺は思うんだけどさ」


 猫谷さんの方を見て、指を一本立てた。


「そういう時間の無駄とかを含めて、クソゲーって楽しいんでしょ?」


「っ!」


 目を見開く猫谷さん。

 やがてキラキラと目を輝かせ言った。


「うん、そうなの。そこが逆にいいの」


 どうやら俺の発言は的を射ていたらしい。

 ほっと胸を撫でおろしていると、


「……でも、クソゲーじゃない」


「あ、ごめんなさい」


 満点回答とはならなかったらしい。

 これはしっかり反省しないと……。

 

「でも、そっか。わかってくれてるんだ」


 猫谷さんが俯いて呟く。

 それから頬を緩ますと、独り言のように言うのだった。




「ふふっ、そっか」




 猫谷さんの顔が、脳裏に焼き付く。

 今まで避けられていたから余計にかもしれない。


 猫谷さんの何がとは言っていないけど、嬉しそうな表情は上京して一番と言えるほど印象的だった。

 

 やはりよかった。

 猫谷さんと和解出来て。


 そのまま二人並んで歩き、マンションの前でやってくる。

 

「あっという間に着いた」


「そうだね」


 なんてことない会話を交わしながら、エントランスを潜ろうとする。

 しかし、猫谷さんは首を傾げながら俺を見て言った。


「え、いいの?」


「何が?」


「だって桐生くん、持ってないよね?」


「……都会のマンションに入る資格?」


「なにそれ」


 どうやら違ったらしい。

 そもそも俺の家だし、資格とかないか。


 じゃあ一体、俺の持ってないものって……。


「じゃなくてないよね、荷物」


「……あ」


 妙に軽い、というか手に何も持っていない。

 一方猫谷さんは、スクールバックを持っている。

 

 ……あ、俺手ぶらだ。


「か、カラオケに荷物置いてきてた……」


 というかそもそも、カラオケにいたことすら完全に忘れていた。

 それほどに猫谷さんと和解出来たことが嬉しかったんだ、俺。


「ぷっ……荷物……忘れて……ふふふっ……」


「ツボりすぎじゃない?」


「私、たぶん……桐生くん、ツボ……ふふっ……」


「え、ツボ⁉」


 必死に笑みをこらえようとして、それでも抑えきれていない猫谷さん。

 猫谷さんのツボは全くわからないけど、どうやら俺はそのツボをいくつも抑えているらしい。


 ふとスマホが振動し、ポケットから取り出す。


『秋斗:旭大丈夫か? なんか迷ってる?』


『波留:旭くんどこ行っちゃったの⁉ そろそろ捜索隊出ちゃうよ!』


 そのほかにもスマホに二人から何通も連絡が来ていた。


「やば……」


 そりゃそうだよな。

 何も知らない秋斗や波留からしたら、荷物を置いて部屋を出て行ったっきりいなくなったってことだし。


 しかもその直前に俺のとんでもない音痴を晒したことを考えると、自暴自棄になって逃亡したと思われても仕方がない。

 それは心配させてしまう。


 俺は慌てて、訳あって猫谷さんを送っていたという内容のメールを返し、スマホをしまう。


「ごめん、俺カラオケに戻るから」


「うん、気を付けて」


 猫谷さんが顔の前あたりで手を小さく振りながら言った。



「じゃ、また……学校で」



「っ!」


 その言葉が、また俺をたまらなく嬉しくさせる。

 

「あぁ、学校で」


 ぎこちなくそう答えると、急いでカラオケに向かって駆け出した。


 顔が妙に熱かった。

 猫谷さんが俺に手を振ってくれたのも、「また学校で」と言ってくれたのも。


 そもそも仲良くなれた……いや、仲良くなれそうな兆しが見えたことも嬉しくて、思い出すたびに体温が上がる。


「……なんか楽しいな、新生活」


 ふと、俺はそう思うのだった。










 全速力で走り、カラオケに到着する。


「はぁ、はぁ……ごめん、色々と完全に忘れてて」


「お、おう。それはいいけど……」


 部屋の前で待ってくれていた秋斗と波留が顔を見合わせて、困惑した様子で言った。


「猫谷さんを送ってたって、なんで?」


「ど、どういう訳で送ってたのかな?」


「っ! えっと……い、色々あって」


 どこまで言っていいのかわからなくて口ごもる。

 すると二人は俺をジーっと見て、感心したように呟いた。


「……初日であの猫谷さんを手にかけるとは、期待の新人すぎるな」


「大型新人、涼川高校に現る! だね。これからどんな偉業を達成していくのか楽しみでしかないよ……」


「……え?」


 ――その後、深くは追及されなかったが、二人の俺を見る目が少し変わったような気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ