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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第14話 コイツ、ただ者じゃねぇ…!


 カラオケを出てすぐの、人通りの多くない小道。


「ねぇねぇいいじゃん。俺たちと一緒に遊ぼうぜ?」


「絶対楽しいからさぁ! 奢るよ? なんか食べたいものでもある?」


「ほんとに大丈夫なので」


「遠慮しなくていいって! ね?」


 猫谷さんにしつこく迫るガラの悪い男三人。

 猫谷さんは心底困った様子で、三人から距離を取ろうと一歩後ずさる。

 

 しかし、三人はさらに距離を縮めた。


「嫌がんないでよ。俺たち、真面目に君と仲良くなりたいだけだからさ」


「警戒する必要ないって! 大丈夫、怖いことはしないからさ!」


「いや……」


 嫌がる猫谷さん。

 しびれを切らした三人は、笑みを張り付けて猫谷さんに手を伸ばした。


「大丈夫大丈夫! 俺たちと来ればきっと楽しいことが――」




「――やめろよ」




 男たちの手を払い、猫谷さんの前に出る。

 三人と対峙する俺。

 

「桐生、くん?」


 驚いたように猫谷さんが俺の名前を呟く。

 俺は猫谷さんの方をちらりと見て言った。


「大丈夫」


 そうとだけ言うと、三人に視線を向け直す。

 訝し気に俺を見る男たち。


「あ? なんだお前」


「同じ制服……チッ、知り合いか」


「ちょっとちょっと、何邪魔してくれてんの? その子、今から俺たちが遊ぼうとしてたんだけど」

  

 男たちに睨みつけられる。

 

 猫谷さんの前に出てきたことに、後悔は一切ない。

 今もこうしているのは正しいと胸を張って言えるし、そんな自分がむしろ誇らしいまである。


 ……けど。


(や、ヤンキーってこわっ⁉)


 表情に出さないように必死に努めながらも、内心めちゃくちゃビビっていた。


 俺の住んでいたド田舎にはヤンキーなんていなかった。

 凶暴なのはたまに出てくるイノシシと作物を荒らす猿くらいで、人間でガラの悪い人と対峙したことがない。


 目の前の三人から発せられる、一触即発の雰囲気。

 今にも三人から殴られそうだ。

 俺はもちろん喧嘩の経験なんてないし、誰かを殴ったこともない。

 だから当然、戦闘となれば俺は絶対役に立たない。


(もちろん、やれるだけのことはやるけど)


 そうならないようにするのが、俺の勝利条件だ。

 後ろには猫谷さんがいる。

 俺一人じゃないんだ。必ず達成しなければいけない。


「テメェ、聞こえてんのか? あ?」


「つか、コイツ顔いいな……ムカつくぜ」


「顔がいい? え?」


「聞き返してくんじゃねぇよ! 余計にムカつく野郎だな……」


 二人が指を鳴らしながら俺に近づいてくる。

 ま、マジか。

 ほんとに始まるのか? リアルクローズが。


 いや、そんな危険な状況にしてたまるか。

 その前に、追い返すんだ。

 

 俺にできるのか?


 ……いや。

 できるかできないかじゃない。

 やるかやらないかだ。


「「ッ⁉」」


 俺も一歩を踏み出し、男三人を睨み返す。

 出来るだけ声を低く、そして戦意を喪失させるような威圧感を多分に含ませて言った。



「この子は渡さない。絶対に、だ」



「「「ッ!!!!!」」」


 怯む男三人。

 ――しかし。


「こ、この野郎……」


「俺たちに向かって……!」


 すでに一歩を踏み出していた二人は苛立ったように顔を歪ませ、俺を睨み返してきた。

 

 俺の威圧作戦はまさかの失敗。 

 むしろ神経を逆なでしてしまった……何やってんだ俺は。


 身の程をわきまえて、所詮自分は田舎者だろうが。

 なのに本当の実力者みたいな、カッコつけたムーブして……!


「覚悟しろよ……!」


「そのムカつく面、ぐちゃぐちゃにしてやる!」


「ムカつく面? え?」


「いちいち聞き返してくんじゃねぇよ! この……!」



「――待て」



 後ろで控えていた男が、二人を止める。


「な、なんですか番場さん!」


「俺たちは今から、あいつを……!」


「――ダメだ。こいつは……やべぇ、ただ者じゃねぇ……!」


「……え?」


 二人の雰囲気から察するに、後ろにいる男が三人の中で一番偉いんだろう。 

 そんな男が、俺を見て怯えている。

 明らかにその人の方が俺より怖そうだし強そうなのに。


「修羅場を何個も潜ってきた俺にはわかる。こいつの立ち振る舞い、目つき、しなやかな手首、長い手足。ただ者じゃねぇ……こいつは俺と同じ、修羅の人間だ!」


「修羅の……」


「人間⁉」


 え? なんだ修羅の人間って。


「お前たちがやっても敵う相手じゃねぇよ。そしてそれは……俺も同じだ。こいつはそれほどに強い」


「番場さん……」


「くっ……まさかこの街に、アイツ以上の強者がいるとは……!」


「アイツ以上の……」


「強者⁉」


 ん? なんかよくわからないけど、勝手に俺のことを恐れてくれてる?

 

「やっぱり。何度見ても隙がねぇ。喧嘩慣れしてるだけじゃねぇ。たぶん格闘技の方もかじってやがるな」


「格闘技⁉」


 いや、全然やったことも見たこともないんですけど。


「とにかく、こいつと戦うのはマズい! い、行くぞッ!」


「はいっす!」


「覚えてろおぉおおおおっ!!!」


 パタパタと逃げていく三人。

 

 手を出さずして勝利した。

 まさに理想的な展開。

 でもまさか、ここまで上手くいくなんて……勝手に勘違いしてもらえてよかった。


「……ふぅ、よかった」


 ようやく体の力が抜ける。

 心底安心していると、俺の後ろにいた猫谷さんがふふっと笑った。


「ふふふっ……あははははっ」


 猫谷さんが声に出して笑い始める。

 俺は思わずぽかんと口を開け、何故か笑っている猫谷さんを見た。


 

 えっと……笑うところ、あった?



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