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無自覚ハイスペック男、ド田舎から都会の高校に転校したら大注目される  作者: 本町かまくら


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第12話 ドリンクバー


 猫谷さんと目が合う。


 カップに盛られたソフトクリームとコップを満たすメロンソーダ。

 沈黙が流れる中、先に口を開いたのは俺だった。


「猫谷さん来てたんだ。来ないと思ってたから」


 ――まず初めは、軽い世間話から場を和ます。

 前回の失敗を生かし、雰囲気を整えてからしっかり謝罪しよう。


 とはいえ、ここで教室の時みたいに逃げられたらおしまいだ。

 しかし、俺の方に部屋があるからか、猫谷さんは立ち止まっていた。


「ほんとは来ないつもりだったんだけど、行かない人がほとんどいなかったし、犬坂さんに熱心に誘われて、その……断れなかったから」


 遠慮がちに言う猫谷さん。

 どうやら押しに弱いらしい。


「少しだけいようかなって。これから一年間同じクラスなわけだし」


「あはは、だよね。俺も同じ」


 プラスチックのコップをキュッと握る。


(よし! 逃げられてない! 俺、話せてる!)


 こんなことで喜ぶのもどうかと思うけど、俺にとってはガッツポーズものだ。


「でも、あんまりカラオケとか得意じゃなくてさ。というか今まで住んでたのがド田舎過ぎて、初めてで……落ち着かなくて、気づいたらここに来てた」


「桐生くんでもそうなんだ」


「え?」


「私も、大人数でワイワイするの得意じゃないから。でも桐生くんは、むしろこういうの好きだと思ってた。久我さんとか犬坂さんといきなり仲良さそうにしてたし」


「確かに好きだけど、色々と慣れてなくて。波留と秋斗に関しては、俺というより二人がすごくて」


「波留と秋斗……」


 猫谷さんがボソッと呟く。


「?」


「いや、なんでもない」


 何か変なこと言っただろうか。

 よくわからないが、気を取り直して会話を続けよう。

 

「とにかく、俺も猫谷さんと同じだ。ここは落ち着いてるし、なんか安心する」


「わかるかも」


 猫谷さんが頬を緩ます。

 その手に握られたカップに盛られたアイスクリームは、やけに猫谷さんに似合っていた。


「ソフトクリーム好きなの?」


「え?」


「いや、さっき嬉しそうにソフトクリーム巻いてたから」


「っ!」


 俺の言葉に、頬をほんのり赤らめる猫谷さん。

 

「……ま、まぁそれなりには」


「それなり?」


「そ、それなり!」


 語気を強めて猫谷さんが言うと、照れ隠しをするみたいにそっぽを向いた。

 エレベーターでスマホの画面を見せてきたときといい、意外に無邪気なところもあるみたいだ。


 猫谷さんは容姿だけじゃなくて性格も可愛らしい。


(そりゃ男子から人気出るよな)


 のらりくらりと掴みどころがないところも、追いかけたくなる要素の一つだ。

 実際、俺は猫谷さん翻弄されてるわけだし。


 ふと、猫谷さんと話す機会があったら言おうと思っていたことを思い出し、ポケットに入れていたスマホに触れる。

 これを皮切りに、あの時の謝罪をしよう。


 場は十分あったまったはずだ。

 それにこうなったときのシミュレーションは何度もしてきた。

 今なら……!


「あのさ、猫谷さん。実は……」


 切り出そうとした――そのとき。



「旭?」



 背後から声を掛けられる。

 そこには不思議そうに俺と猫谷さんを見る秋斗が立っていた。


 一瞬、猫谷さんと秋斗のどっちと話せばいいのか迷う。

 その間に、猫谷さんは一歩を踏み出していた。


「じゃ」


「あっ」


 猫谷さんがするりと俺の横を通り過ぎていく。

 またしてもあっという間に行ってしまった。


 スマホをポケットの中で握る。


「ま、マジか……」


「ご、ごめん。今俺、完全に邪魔したよな?」


 申し訳なさそうにする秋斗。

 

「いや、今のは完全に俺の責任だから……ほんとに」


 空のコップを握りしめ、うなだれる。

 ほんと何やってんだ、俺は……。










 やるせない気持ちのまま、コップにジュースを注いで部屋に戻ってくる。


 するとちょうど俺の番が来ていたようで、マイクを渡された。


「お、次は旭の番か」


「っ!」


 マイクを握った瞬間、緊張が全身を駆け巡る。 

 ただでさえさっきの謝罪未遂で落ち込んでるっていうのに、こんなに大勢の前で歌うなんて……。

 それに、



「おい、次は桐生の番らしいぞ!」

「あの桐生くんが⁉」

「よっ! 待ってました!」

「どんな歌声なんだろうね!」

「イケメンで秀才の桐生の歌か……気になるな」

「どうなんだろうね!」

「ちょ~楽しみなんだけど~!」



 さっきまでバラバラだった空気が今、俺の歌を聞くということで一つにまとまっている。

 全員が、俺の歌をしっかり聞く姿勢を見せていた。


(いやいや、そんな歌ったことないんだけど)


 下手したら、人前で歌うのは初めてかもしれない。

 風呂で軽く歌うくらいで、歌うことは嫌いじゃないがいきなりこの人数の前で歌うのはさすがにハードルが高すぎる。


 しかもキラキラした目で見られてるし……ゴクリ。


「んんっ」


 誤魔化すように咳ばらいをし、伴奏に耳を澄ませる。

 画面に表示される歌詞。

 もう「やっぱり歌うのやめます!」は通用しない。


 やるんだな……今、ここで……!


 覚悟を決め、息を吸う。

 緊張で手が震えながらも、意を決して俺はそっとマイクに声を乗せた。



「――――――」




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