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第6話 まさか魔獣とは抱きつくと人化する物体だったとは

 お友達のような関係になれればいいのでしょうが、同じ人であるエリザベートでさえ、私を敵視していますものね。

 難しいものですわ。


 しかし、このままここに居続けるのも可哀想……と思いつつ大きなもふもふに触りたい。ビロードのような毛並みをナデナデしたい。顔を毛に埋めてモフりたい。


 オリヴィア。考えるのです。どうすれば魔獣とお友達になれるのかを……そうです!


「あの……浄華をさせてもらってもよろしいかしら?」

「え? あの? 何をでしょう?」

「あの魔獣をです」

「魔獣の浄華? よくわかりませんが、聖女様がお望みであれば……」

「ありがとう」


 浄華。それは清めること。私にはそれしかできません。


「汝の心を結ぼれる万障を、この浄華の聖女が清めよう。聖浄なる神の加護は汝に平穏なる心神を《エヴァンギリイ》」


 人を敵視しているのか、私にはわかりませんが、わだかまりを無くして、少し心を開いてくれれば、友達になれる可能性があるのでは!

 もふもふという欲に溺れた私の浅はかな考えです。


 すると黒い毛皮が動きました。

 頭を上げて金色の瞳を私に向けてきます。


「黒豹さん。私とお友達になってくださいませんか?」


 私を一瞥した黒豹は前足の上に顎を置いて、長い尻尾をバシバシと檻の床に叩きつけました。

 苛ついていらっしゃる!


「あの……私と一緒に来ていただけませんか? ここにいるより、広いところですよ。許可があれば中庭で自由にできると思いますし、悪い人からは絶対に守ってあげられる自信はあります。あ、私が良い人の証明は……神の恩恵を受けた聖女ということで……はぁ、魔獣に良い人も悪い人もありませんわね」


 もふもふ欲に負けて、魔獣相手に何を話しているのでしょう。人の言葉なんてわかるはずありませんもの。


『いいだろう』

「ふぇ?」

『お前が聖女というのなら』


 魔獣が人の言葉を話しています!

 それよりも私と一緒に来てくれるということでいいのですよね!


「オーナーさん! 聞きました? 私と一緒に行っていいと」

「は? 浄華の聖女様。流石に魔獣が人の言葉など話しはしないでしょう」

「え?」


 先程の言葉は聞こえていないってこと?


『これは念話だ。お前以外には聞こえない』


 念話。私の脳に直接話しかけているということですか。

 しかし、話せるのであればお友達になれる可能性が大です。


「オーナーさん。この黒豹さんにします」

「しかし……」

「調教はしなくて大丈夫です。ということで檻を開けてもらえませんか?」

「ですが……」

「オーナーさん。別に襲われたりはしませんよ。だって私は『浄華の聖女』ですもの」


 そう、私は浄華の聖女。清め存在そのモノを抹消することもできる聖女なのですから。


「はぁ。聖女様がそうおっしゃるのでしたら……しかし、何かあっても私どもはその責務は負いません」

「かまいませんわ」


 オーナーの手によって檻の鍵が開けられ、中から大きな黒豹が出てきました。立ったら背後にいるブライアンより絶対に大きいですわよね。


「黒豹さん。よろしくお願いしますわ」


 そうして、私はもふもふの黒豹を購入することができたのでした。





 が、何故にもふもふが人間の男性になっているのですか!


 ちょっと待ってください。そう、今日はうきうきで帰ってきて、ブライアンによくわからない謝罪を再びされ、神父様にきちんと管理をするように何度も言われ、美味しいご飯を食べて、さぁ寝ようとしたところです。


 黒豹さんが床で寝ようとしているので、ベッドが広いから一緒に寝ていいと誘いにいったのです。

 しかし返事がなく寝たふりをされたので、イタズラ心が働き、もふもふの背中に抱きついて、首元に顔を埋めたのです。


 何故かボフっと音がしたかと思うと、もふもふの感覚がなくなり、布地の滑らかな手触りの下にゴツゴツとした感覚が……


「おい、お前何を考えているんだ?」

「か……可愛い黒豹さんが消えた!」

「黒豹は俺だ……って元の姿に戻っている……が、何故に尻尾が生えているんだ!」


 くっ……どう見ても貴族っぽい服を着た黒髪の男性の背後から見える黒くて長い尻尾が、この人が黒豹さんだと証明していました。

 そしてその人物に抱きついている私。


 まさか魔獣とは抱きつくと人化する物体だったとは……私はそのまま床に倒れ込む。

 なんという理不尽。


「おい、中途半端な解呪をするな。するならきちんとしろ!」

「私のもふもふの黒豹さんが〜」

「聞いているのか? 聖女だったら、呪いを解呪できるのだろう? そう聞いたぞ」


 ……呪い……呪われた人。

 そう言われて、のろのろと視線を上げます。

 黒髪に金目。血筋の良さそうな顔立ちですが、とても不機嫌そうに眉間にシワがよっています。

 二十五歳ぐらいでしょうか。


 そして似たような人物に心当たりがあります。


 隣国ガレーネ帝国のアークジオラルド・ファルガレイ第一皇子。

 五年前。この国の王太子殿下が成人を迎えられたときに、貴賓として招待されていました。そのときにエリザベートと共に挨拶をした記憶があります。


「呪いですか?」

「そうだ。俺を蹴落としたい奴にな」

「呪いの解呪は呪いをかけた人か。魔導に長けた魔女にお願いしてください」

「は? 俺はハイエント聖王国の聖女なら可能だと聞いたと言っただろう」


 ……無理です。できないことはないのは確かですけど。無理なんです。


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