第48話 襲われたって?
エリザベートには仕事があると言ったものの、今日の予定はないです。昨日の内に予定していた浄華場所は全部まわってきたのです。
だから今は大人しく充てがわれた部屋に戻っているところでした。
その私の前方から何やら慌ただしく、複数人に足音が聞こえてきました。何かあったのでしょうか?
廊下の角を曲がると、アン様と複数人のおつきのシスターたちがコチラに向ってきています。
「オリヴィア!」
私を探していたようです。どうされたのでしょうか?
それも何かお困りなのか、焦っておられる様子。
「オリヴィア! あなたは無事?」
「え?」
アン様が私の身体をパタパタと触ってきて、私が無事かどうかを確認してきました。何が無事なのですか?
「オリヴィアの身代わりの子が襲われたのよ」
「べルルーシュが!」
何かと怪しい噂を聞いていたけど、まさか本当に襲われるなんて!
「無事なの?」
「ええ。無事よ。綺麗にお腹に貫通していたわね。オリヴィアは怪我はなさそうでよかったわ」
何が! それとどの辺りが無事なわけ?
「綺麗に治しておいたから、心配しなくてもいいわ。だから今日はもう、部屋から出たら駄目よ」
私に、なにごとも起こっていなかったことを確認したアン様は、ホッと安心したようにため息を吐き出しています。そして、来たときとは違い、シスターたちとゆっくりと部屋の方に戻られました。
本当に私の無事を、確認しに来てくれただけだったようです。
このような騒ぎが起こって、部屋から出ることも厭うアン様が私の為に……。
「浄華の聖女様の浄華って、凄い効果だよね。今までだったら、絶対に治癒の聖女様は、部屋から一歩も出なかった状況なのに」
「ひっ!」
ここに居ないはずの人物の声がすぐ後ろから聞こえて、思わず悲鳴を上げてしまいました。
振り返ると、先程名前が上がったべルルーシュがいるではないですか。
それも普通にピンピンしています。
「怪我をしたって……」
「ん? いやぁワザと受けるって案外難しいんだね。こう、腹にブズって!」
ワザと怪我をしたというべルルーシュは、剣に刺される動作をして、あははははと笑っています。
笑い事ではないです。
「アン様は治したと言っていたけど。本当のところはどうなの?」
「別に痛くも痒くもないよ。流石浄華された治癒の聖女様って感じ」
そこは浄華されたとか必要ないと思います。
っていうか、論点をずらされた感じを受けます。私はアン様の能力を疑っているわけではありません。アン様は素晴らしい治癒の聖女です。
「そうじゃなくて!」
「オリヴィア。部屋に戻ってからだ」
「アーク。部屋に戻る前に……って手を引っ張らないでよ!」
私はべルルーシュのことを聞きたいのに、今の私の部屋に連行されていっています。
アーク。ちょっと歩くのが速いわよ。
廊下を早足で歩いていると、怒られるのです。
それから、そこの木偶の坊!さっきから黙っていないで、堅物らしく『廊下はゆっくりと歩きなさい』ぐらい言いなさいよ!
はい。うんともすんとも言わないブライアンが。図体だけはデカい鎧が、背後につきしたがっているのです。
ここはアークに、勝手な行動は困りますぐらい、いつもなら言っているところじゃない!
もしかして、あんなに口うるさく言うのは、私だけってことないよね?
そして、大人四人が入るには、手狭だろうという大きさの部屋に戻ってきました。私の部屋仮です。
本当に寝るためだけの部屋という感じなので、アークは私をベッドの上に座らせ、その隣にアークが座ってきました。
扉の側には鎧をまとった木偶の坊が立ち、私たちの前にべルルーシュが立っています。
あの? 何か座るものを持ってきたほうがいいのでは?
「今後の話をする前に……さっきから、思っていたんだけど、なんでずっと手を繋いでいるのかな?」
「はっ!」
べルルーシュに指摘されて、アークと手を繋いでいることに気がつきました。これはエリザベートの部屋から出ていくときにアークを強引に連れ出したからであって、仲が良いわけではありませんよ。
「別に婚約者なんだから、問題ないだろう」
「そうなんだけどね。モフモフしか目に入らない浄華の聖女様にしては珍しいと思ってね」
本人を目の前にして言わないでほしいです。私は別にモフモフしか目に入っていないわけではないですよ。
「それは俺がオリヴィアにとって理想の婚約者ってことだからだろう?」
「え? どの辺りがです?」
思いっきり俺様皇子ですが? モフモフ度が消えたアークに、なんの魅力があると?
「こういうところだ」
そう言ってアークは右手の指をパチンと鳴らしました。すると、今まで存在していなかった丸みを帯びた黒いケモミミが顕れたではないですか!
「ケモミミ!」
思わずケモミミに手を伸ばします。
久しぶりのケモミミ! 可愛いです。
「あ……うん。ナントナクワカッタヨー」
何故か棒読みのべルルーシュの声が聞こえてきたのでした。




