第43話 服が回収された?
モフモフ〜……毎朝起こる、この残念具合。
何故にモフモフを抱きしめると俺様皇子化するのか。
「解せない」
私は俺様皇子に抱きつきたいわけではなくて、モフモフに抱きつきたいのに。そしてモフモフを堪能したいのに、この残念さ。
「私のモフモフアークはどこに行ってしまったのか」
「だから、それは俺だと何度言えば理解できるんだ?」
それはわかっている。わかっているけど……私が浄華の力を使うたびに、モフモフ度が無くなっていくのが、残念すぎるのです。
「モフモフ撫で撫でしたいだけなのに〜!」
「馬車の中で俺を散々撫で回していただろうが!」
「それだと私が、変態みたいな言い方だから止めて欲しい」
「どこが違う」
「違わないけど!」
私はモフモフアークを撫で撫でしていただけで、俺様皇子を撫で回してはいない。
「ぐふっ……今日から十日間も、町周辺の浄華をしなければならない私にはモフモフが必要だと思う」
「それ、今までどうしていたんだ?」
今まで? それは……
「ぬいぐるみで心を満たしていたのだけど、エリザベートに見つかって『こんな小汚いものゴミですわね』って言われて捨てられたの!」
モフモフ好きな私に、アスタベーラ老公がくださったものなのに!
たしかに、十歳からずっと持ち歩いていたので、ネコしゃんの目が取れかかっていたり、中のワタがはみ出ていたり、毛が固まっていたりして、かなりホラーになっていたけれど、私には癒やしだったの!
「取り返せば良かったんじゃないのか?」
「できるはずないじゃない」
「何故だ? 聖女という地位には上下がないはずだ。それに、婚約者が公爵家の者なら、オリヴィアの立場は対等だったはずだろう」
それは建前上は、聖女という者に上下関係はないけれど、それを本当にしてしまったら、伯爵令嬢のくせにだとか、聖女だからとご自分の立場を勘違いしているのではとか言われるわよね。
っていうか実際に言われたもの。
私がエリザベートに文句をいうと、エリザベートの取り巻きの人たちが、こぞって私を非難してくるのです。あれは腹立たしいものです。
「色々あるのよ」
すると何故か私の頭が撫で撫でされ始めました。私はモフモフではないのだけど……。
文句をいおうと視線を上げれば、ふと何か気になったものが……ここはどこ?
私にあてがわれた部屋は豪華とはいわないけれど、隙間風など入ってこなさそうな、作りが良い内装でした。しかし今は、年数が経った古びた建物の部屋という感じになっています。
まさかこれは……。
「寝ているうちに誘拐された!」
「夕食を取りながら寝ていた奴が何を言っている。食事前にべルルーシュという奴に言われただろうが!」
「はっ!」
確か部屋を移動するとか。
「あと、オリヴィアが着ていた服は、べルルーシュに回収されたからな」
「へ?」
慌てて起き上がって、私の格好を確認してみると、シュミーズ姿でした。……まままままさか……
「追い剥ぎに遭ったー!」
「おい、普通は脱がした奴は誰だと言うところだろう。言っておくが、着替えさせたのはシスターの者だからな。あと寝間着がないことに呆れていたぞ」
え? 荷物が増えると怒られるから、最低限の物しか持ってきていないもの。それに別に寝間着は重要ではないし。
「浄華の聖女様! 何かございましたか!」
バンッという扉が開く音と共に、部屋に押し入ってきた金属の塊。思わず、枕を手にとり扉に向って投げつけます。
「ノックぐらいしてよね!」
「し……しつれい……しました!」
慌てて立ち去る金属の鎧。そしてアークの呆れた声が聞こえてきました。
「叫んでいたら、何事かと押し入るのは護衛として当たり前だろう」
私は変な悲鳴は上げていないはず。
あれ? そういえば昨日、べルルーシュが何か言っていたような気がする。
「もしかして私の護衛は、あの堅物ブライアンだけ?」
「部屋の前にいるのは、そいつだけだな」
「もう一人ぐらいいないの?」
そう通訳要員の近衛騎士が、一人ぐらいいてもいいよね。
「敵の目を欺くためには、必要なことだと言っていたな。まぁ、力量は十分だから、あいつだけでも問題ないだろう」
だから、ブライアンの素質を疑っているのではなくて、通訳要員が欲しいの。
「あと、俺もいるから心配するな」
また、頭を撫で撫でされてしまいました。べ……別に心配などしていません。




