第40話 最後の晩餐ってなに?
「終わった……終わった……私はもうモフモフパラダイスに帰っていいと思う」
疲れたと私は、長椅子に横たわります。
お昼すぎにアンラフェルに到着して、昼食をとってから、再び馬車に乗って移動し、まるで観光している貴族のように町の中をぐるぐる回っていたのです。
そう馬車の中から町の中を浄化するという荒業。
『おい、寝るなら夕食をとってから寝ろ』
そして、ここはアンラフェルの町の中心にある教会です。
その教会の敷地の奥には巡礼する聖職者のための宿舎があり、その一番奥の棟の一室を使わせてもらっています。
いわゆる聖職者の中でも高い位にいる人が使える部屋です。
簡単にはその棟にはたどり着けない構造で、聖華会が行われるときは、教会組織から聖騎士が警備としてあてがわれるのです。
そう、部屋にたどり着くまでが大変だったりするのです。
『おい。寝るな』
ぷにっとした肉球が私の頬をパシパシ叩いてきます。
「にきゅきゅぅぅぅぅ!」
眠たさよりも肉球を楽しみたい!眠気が吹っ飛び目を開けます。
私のモフモフアーク!
「あ。浄華の聖女様。起きた?」
しかし、私の視界に映ったのはべルルーシュでした。なに? この残念な感じは?
「待って! 待って! 寝ようとしないで!」
揺さぶられますが、モフモフを堪能できないのなら寝ます。
『起きろって言っているだろうが!』
頭にぷにっとした感覚が当たったと思えば、ガシッと爪が頭に突き刺さる痛さに襲われました。
ぐふっ! これもまたいいです。
目を開ければ、金色の瞳と目が合いました。
「モフモフ!」
私の癒やしのモフモフ。
手を伸ばして、全身でモフモフを堪能しようと思えば、モフッと感じられたのは一瞬だけ。
「いきなり長椅子から落ちてくるな」
落ちたのではなくて、モフモフに飛びついたのに、何故か俺様皇子に抱えられていた。解せない。
「浄華の聖女様。ジークフリート様からの伝言をお伝えしていいかな?」
そこにべルルーシュが話しかけてきました。
神父様はお昼にアンラフェルに到着してから別行動となっているのです。ええ、聖華会の準備の方がありますからね。
「聖華会は十日後に開催予定だね。その間に周辺を巡って順次浄華を行う予定なので、本日は早めにお休みになるようにだって」
「今、寝ようとしていた」
だから、そのまま寝ようとしていたのに、起こしたのはそっちじゃない。
「食事は取れ、それからここで寝るな」
俺様皇子に抱えられ移動させられて、ダイニングテーブルの席に座らされてしまいました。
テーブルの上には今の私には重いこってりな料理が並んでいます。
そこの果物だけでいいです。
「はぁ……いつもと違う料理だけど、なぜ?」
教会では豪華な食事は出されることはありません。いわゆる貴族が好む、油を沢山使った料理とか、砂糖を沢山使ったデザートだとかです。
それは王都の教会でも同じで、パンとスープと野菜と少しのお肉です。これはどこの教会でも出されるものはほぼ変わりません。
「怪しすぎるよね。治癒の聖女様も食べないと言っていたぐらいだからね」
これが、何処かの貴族の屋敷に泊まっているのであれば、普通に受け入れますが、私がいるのは教会という場所です。
アン様が拒否するのもわかります。
「だから慌てて、シスターたちが果物を外から買ってきたんだよ。これなら聖女様のわがままで通せるからね」
果物を食べたいと突然言い出したので買いに出たという口実を作ればいいと。
「で。これはなに?」
普段は教会では出されない料理を指しながらいいました。怪しすぎて、口にはできません。
「最後の晩餐かな?」
凄く嫌な言葉が聞こえました。なに? 最後の晩餐って?
「僕だけ早めにアンラフェルに入っていたんだけどね」
そう言えば、アスタベーラ老公のお屋敷に戻ったときから、姿が見当たりませんでした。
しかし、べルルーシュが私のところに顔を出すときは神父様が不在のときなので、私は全く疑問にも思っていませんでしたが、
「あちらさんはとっくにアンラフェル入りしていて、もう万全ていう感じ」
「それは、私を誘拐するということ?」
法国へ連れて行く準備が万全ということなのでしょうか?転移がどうとか言っていましたので、私だけ転移させられてしまえば、戻ってこれません。
「誘拐は無理だと考えているだろうね。ジークフリート様が聖女の護衛の任についてしまえば、ジークフリート様の結界を聖女様が越えることはできないからね」
「聖女を閉じ込める檻ね」
王城は結界の聖女様の結界があるので、悪意を持つ者は出入りが不可です。それによって、聖女の安全は確保できているのです。
しかし、このように聖女が務めに出る場合は、先日のように悪意を持つ者が近づいてくることもあります。
ブライアンは物理的に対象者を排除しますが、神父様は魔法で対象者を排除します。
はい。私が神父様に魔法を教えて貰わなかった理由がこれです。
息をするように魔法を扱える神父様は、私が魔法を使えない理由が理解できないと、下賤なモノを見る目をむけてくるのです。
魔法は私に解決策を提示した俺様皇子に教えてもらったほうが、断然マシというものです。
「檻ではなくて、結界だよ。それでここからが本題なのだけど、浄華の聖女様、取り敢えず死ぬってことでいいかな?」




