第4話 下水の浄化をボイコットして一週間
そして一週間後……いいえ、下水の浄化をボイコットして一週間。
神父様にお呼び出しをくらいました。
「オリヴィア。誰の手も煩わせないというのであれば、飼っていい許可がでました」
王都の下町からクレームでも上がってきたのでしょう。教会の上から許可が降りました。
「ご飯を用意するのはムリです」
個人の部屋はそれなりに広く、トイレやお風呂まで備え付けられていますが、キッチンは無く、お湯を沸かす設備があるぐらいです。
それに私は料理をしたことがありません。
「それぐらいは用意しましょう。それ以外の世話です」
「飼っていいのであれば!喜んで!」
「はぁ……部屋の中で飼える大きさですよ。一角獣など買ってきた場合、貴女の部屋は馬小屋にしますからね」
馬小屋って酷い。
しかし飼っていい許可が降りたのなら早速!
「お金をください」
私は両手を差し出してお金を要求します。すると、ジト目で見返されてしまいました。
「浄化をするのが先です。それからお金は護衛騎士のブライアンに渡してあります」
「え〜! あのブライアン? 堅物で融通が利かないブライアン? 寄り道すら許してもらえないブライアン?」
「そのブライアンです」
私はガクッと肩を落とします。
この前の私が頬をぶたれたとき、かばうこともせずに、遠くで突っ立っていた護衛騎士という名の木偶の坊。
後で、助けてくれてもよかったのではと聞いたら『聖女様同士のいざこざに、関わってはいけないという規則がありますので』という臨機応変の利かない答えが返ってくるしまつ。
そして教会の表に待っている馬車。その扉の前に立っている木偶の坊。背が高すぎていつも首が痛いと思いながら話しかけるのです。
だいたい全身鎧に覆われた姿で私の前にいることが多いです。
言いたいことを笑顔で押し込めて……
今日もよろしくお願いしますわ。
「他に誰かいなかったのかしら?」
はっ! 挨拶ではなく、本音が出てしまいましたわ。
「予定にはない外出ですので、こちらに回せる人材はおりません」
「わかっているわよ。さっさと向ってもらえるかしら」
護衛騎士は王城の近衛騎士が割り振られているので、私の予定されていない外出には近衛騎士団長のブライアンがつくことになるのです。
ええ、今日の近衛騎士の仕事の割り振りは事前に決められていますからね。あと四人の護衛騎士がつけられていますけど。
因みに本来行う日課の浄化は早朝におこなっているので、護衛につく騎士は仕事として割り振られているのです。
しかし、いつになったら馬車の扉を開けてくれるのかしら? これは自分で開けて入れということかしら?
まぁいいですわ。
馬車に近づき自ら扉を開けようと手を伸ばせば、その手を遮られてしまいました。
下水の浄化に行くのですのよね。そのあともふもふを買いに行くのですよね。買いに行かないとか今更言うと怒りますよ。
「先日は申し訳ございませんでした。ジークフリート様に叱咤され……」
「それは、もう済んだことなので、よろしいですわ」
あのお茶会のときのことなんて、今更ですわ。
聖女に悪意を持つ一般人に対しての護衛であって、聖女から聖女を守る護衛ではないことぐらいわかっていますわよ。
神からの祝福でもある聖女の力は凶器にもなる。過去に聖女の力で聖女を殺そうとした事件があり、止めに入った者たち全員が死んだという逸話が残っているぐらいですもの。
だから護衛についた者は聖女同士のいざこざには手を出さない決まりがある。それぐらい知っていますわよ。
あのときは腹の虫の居所が悪かっただけですわ。
因みにジークフリートとは王弟の神父様のことです。
「謝罪も受け取っていただけないとは、そのお怒りはごもっともです。一週間も心傷のあまり引きこもっておられたほど」
「は?」
私は癒しのもふもふが欲しいとボイコットしていただけですわよ。
「……はぁ、さっさとお務めに行きたいのですが?」
その後のもふもふを!
私はブライアンと会話が成り立たないので、会話をすることを諦めたのです。他の護衛騎士の方とは普通に会話が成り立つので、私の言葉がおかしいというわけではないはずです。
するとやっと馬車の扉を開けてくれました。そしてさっさと乗り込みます。
扉が閉められガタンと揺れて動き出す馬車。
本当に、ブライアンしか手が空いている人がいなかったのかしら?
下水の浄化は一瞬で終えました。
今日は気合が違いますわ。
それを何故か私が激怒しているとブライアンが勘違いして、何処かで休憩をしましょうかと言ってくるしまつ。
いつも帰りに甘いものが食べたいとか、お茶をして帰りたいと言っても却下してくるのに。
しかし今日は一番大事な予定があるのです。
だから『必要ない』と断りましたわ。
そして私は……何故、奴隷商に連れてこられているのでしょう?
私が欲しいのはもふもふであって、奴隷ではありませんわよ。