第３５話 私からアークを取り上げようと？
「またしてもコレ」
手に触れるモフモフの感覚に、抱きしめれば一瞬でモフモフ感が無くなる残念さ。
「人の寝込みを襲っていう言葉か？」
「襲っていない。モフモフを堪能しようとしたのに、この有り様。酷すぎる」
「酷いのはお前の思考回路だ」
またしてもベッドにいるモフモフを抱きしめたところで、俺様皇子化するアーク。酷すぎる。
ケモミミすら無くなったアークに何の価値があるのか。
あのあとアスタベーラ老公の屋敷に戻ってから老公から直接謝罪をされてしまったのです。
老公としては、ファルレアド公爵家の護衛の代わりに、アスタベーラ公爵家から護衛を出す体裁として、レイモンド様を紹介したと言われたのです。
老公からも今の護衛体制は些か数が少ないと感じられたのでしょう。ですから、今回の聖華会での護衛の増員としてアスタベーラ公爵家から出すつもりだったと。
しかし、その護衛はいつの間にか法国の者に置き換わり、レイモンド様が聖女誘拐事件の主犯となってしまわれたのです。
因みにアスタベーラ公爵は、本気で息子であるレイモンド様を聖女の婚約者に仕立てようと水面下で動いていたそうです。
アスタベーラ公爵家として、聖女の私に関わろうとしていたのですが、三者三様の思惑によって行動していたということでした。
そして私は聖女らしい笑みを浮かべながら、アスタベーラ公爵子息の独断による行動なので、老公からの謝罪は必要ありませんと言ったのです。
アスタベーラ老公とは、これからもいい関係でいたいですからね。モフモフパラダイスは、なんとしても守らないといけません。
その件はそれで終わったのですが、問題はその後に起こりました。
あの堅物ブライアンです。
「聖女様。その……黒魔豹はアークジオラルド皇子なのですよね」
今日は疲れたので、もう休むというときに、ブライアンがそんなことを言い出したのです。
「ええ。そうよ」
「一緒の部屋とは如何なものかと……」
「アークはアークだからいいのよ」
「しかし……」
「私からアークを取り上げようとしているの？」
私は厳つい鎧を見上げながら頑として言い張ります。新しいモフモフが与えられるのならいいけど、あの神父様の態度からいけば、絶対にそれは無いということです。
中身は俺様皇子ですが、モフモフなのです。
それ以上に重要なことがあるというのですか？
「あー。僕。聖女様の心の声が聞こえてきたよ。団長。別にいいんじゃない？」
「今まで問題なかったのですから、放置しておきなさい。ブライアン」
べルルーシュと神父様は私を擁護してくれています。モフモフは大事ですわよね。
「しかし……」
『ここまで謎に信頼されているオリヴィアも凄いな』
頑なに不満感を顕にしているブライアン。アークは何故か私に対して感心していました。
そのあと、ぶつくさと言うブライアンを押しのけて私はアークを連れて寝室に引きこもったのでした。
そして、朝に発生するこの残念さ。まどろみの中、モフモフを堪能しようとして、何故に私は俺様皇子に抱きついているのか。
「解せない」
「オリヴィアが、俺のことを好きだということだろう？」
「ちがーう！ 私はモフモフを堪能したいだけなのに！」
「オリヴィアの浄化の作用が効いているということだろう？」
「それは認める」
「ということは、俺のことを好きだということだな」
「……」
それはおかしい。私はモフモフのアークが好きなのだ。撫で撫でさせてくれるアークが好きなのだ。決して俺様皇子が好きなわけではないのだ。
「どう考えても、そうならないと思う」
「昨日サインはしたから、それが受理されれば、婚約者という立場になるからな。俺を好きになっても何も問題はないぞ」
サイン。そう、神父様が昨日いなかった理由。
国王陛下から、私とアークの婚約の承認を得るためだったのです。そしてちゃっかりと国王陛下のサインがされた書類を持って帰ってきていたのでした。
あとは私とアークと証人者である神父様のサインを記入して、提出すれば受理されるという物をです。
何故に先に国王陛下のサインがされているのですか！
しかし、この婚約には互いに利点があるため否定はできません。
アークは一日も早く呪いを解くため、私はモフモフを堪能するため……アークジオラルドという庇護者が私の背後にいることを示すためです。
そうなれば、今回のような騒ぎも無くなるというのです。
ですが！ 私は！
「モフモフのアークは好きだけど、俺様皇子への愛は全くありません」
「まぁ、五分五分だからな。それもいいだろう。馬鹿みたいに浄化の力を垂れ流している奴に自ら近づこうという魔獣もいないだろうからな」
「え？ なにそれ？」
「俺ぐらいしかオリヴィアに付き合えないということだ」
いま、とても重要なことをサラッとながしませんでしたか？ モフモフたちが、自ら私に近づかないってどういうことですか！
