第33話 嘘だったの?
「近衛騎士団長。私は貴方に後を任せたはずですが?」
「いかなる処罰も受ける所存であります」
神父様と近衛騎士団長がこのように話していると、双子と知っている私から見れば茶番にしかみえません。
「アスタベーラ老公とアスタベーラ公爵の意図は別だと言ったはずです。アスタベーラ老公の顔を立てるよりも、この時期に不信な者を近づかせるなど、職務怠慢と言わざるをえないですね」
あ……それは違います。
「ジークフリート様。あの坊っちゃん、御禁制の睡魔の香を使って法国に行くつもりだったらしいよ」
「べルルーシュ。その情報を持っていて何故このようなことになっているのです」
「いやいやいや。僕が知ったのはついさっき。それにアスタベーラを否定することはできないでしょ。建国から国を支えてきたアスタベーラを拒んだ聖女だなんて噂をながされたら、困るのはこっちだよ?」
このような話が行われていますが、護衛の方々は慌ただしく動いていました。
どうも一人は転移で逃げられたらしいのですが、アスタベーラ公爵家の護衛と思っていた人たちは法国の者だったらしいです。
その者たちは皆一様に自害したと。
それもあり、私の移動手段が無いため、この場で待機です。え?誘拐されていた時に使っていた馬車ですか?
馬車というより荷車と言っていい幌馬車ですが、何故かバキバキに破壊されています。
おかしいですわね。私がいたときには荷馬車の形は保っていましたよ?
「はぁ。法国の手は相変わらず汚いですね」
聖女は平等でなければ、ならない。権力も身分も関係なく……とはいいますが、人の社会で生きている以上、そうならないことは目に見えています。
ああ、何故ここにモフモフがいないのでしょう? ケモミミ皇子のケモミミが無くなったアークに抱えられているなんて……。
「そう言っているジークフリート様だって、この御仁の存在を隠していたじゃないですか? こんなヤバい御仁を聖女様に近づける自体間違っているでしょう?」
べルルーシュがアークを指していっています。本人を目の前にして『ヤバい』とか言ってしまう辺り、べルルーシュの方がヤバいと思います。
「私が知ったのはテルアス商会の事が起こった時ですよ。それまでオリヴィアが隠していましたからね」
「神父様。隠していなかったら、新しいモフモフが私の元にきましたか?」
中身が俺様皇子だけど、モフモフさせてくれるのです。それって大事じゃないですか。要は私がモフモフで満たされるかどうか……なのに、ケモミミが無くなってしまうなんて……。
「このオリヴィアに根気よく付き合えるのは、昔からオリヴィアの性格を知っているファルレアド公爵子息か、呪いの浄化の目的があるアークジオラルド皇子ぐらいでしょう」
また下賤なる者を見るような目で見られてしまった。
これは絶対に新たなモフモフは与えられなかったということです。
「一つ聞きたいのだが」
そこに黒い尻尾しかモフモフ部分が残らなかったアークが声を上げます。
「聖女の能力の不可解さだ」
「能力の不安定は、オリヴィアの所為ですよ」
「それは、だいたい理解した。人の望みに応えなければならない聖女という存在だ。何故、断ることに問題が出てくる。何故、聖女の意志が反映できない」
これは私が話した『聖水の聖女』のことですね。だから私は今回の話を受け入れることにしたのです。
「それはどういう意味ですかね? 力を持つのは聖女ですから、嫌だと言われれば我々は聖女の意志を反映するしかありません」
「あ? 天罰がくだるという話のことだ」
「ああ、もしかして『聖水の聖女』の話をオリヴィアから聞きましたか? それは多少誇張してオリヴィアに話していますので、正確なものではないですよ」
「なにそれ!」
『聖水の聖女』の話が嘘だったなんて! それでは、私はモフモフをもっと堪能していいのではないの!
「そうであれば、『治癒の聖女様』はとっくに天罰を受けていますよ」
「はっ! 確かに」
『治癒の聖女』のアン様はお歳をお召しているから神の奇蹟を行っていないと思っていたけど、力が使えないわけではない。
だけど、教会の奥に引きこもっておられる。
言われてみれば、私が教会に出入りしている六歳から聖華会に参加されたとは聞いたことがない。
一番望まれている力はアン様の力なのに。
「多少誇張して言っておかないと、オリヴィアの場合、モフモフがと言って動かないでしょう」
「言われてみれば、その可能性の方が大きいな」
「え? 今まで凄く我慢してきたのに? 嘘だったの?」
色々我慢してきたのに? 天罰が下るからと頑張ってきたのに?
「嘘ではありませんよ。我欲で神の奇蹟の力を使った場合に天罰がくだります。オリヴィアの性格上、その危険がありましたからね。誇張して言ったに過ぎません」
「否定できない私がいる」
本当なら、我欲で力は使わないと言いたいところだけど、モフモフたちには大いに使ってしまう私がいることが簡単に想像できてしまった。
そう、今回のことでも中身は俺様皇子だけど、了承を得ずにモフモフのアークに浄華の力を使っていた。
「はぁ、それなら今回のことは起こるべくして起こったということじゃないのか?」




