第31話 睡魔の香
つまらないですわ。休憩を挟んだ第三幕。
魔王だか。邪竜だかとの戦いのシーンです。
光の魔法での演出。うるさいほどの大音量の音の魔法の演出。
派手さで言えば、人気なのでしょうね。
ああ、アークのモフモフがなければ、この穢れた空間に耐えきれなかったでしょう。私の周りは浄華しているとしても、切りが無い穢れ。嫌になります。
あら? アークの身体に力がなくなっていっています。つまらなくて寝てしまったのですか?
背後からドサッという音。振り向くと護衛の姿が一人見当たりません。
「せい……じょさま……お……にげ…」
私に逃げるように言って倒れるブライアン。これは何が起こっているのですか!
ま……まさか珍しいという黒魔豹種のアークを手に入れて、老公への手土産にしようという魂胆? それとも高値で売ろうとしているとか!
モフモフは私の癒やし!
私は隣の席で力なくいるアークに浄華の力を使います。毒ですか? 眠りの魔法ですか? とにかく害になるものを浄華するのです。
「やはり、浄華の聖女様には利かないというのは本当のことのようですね」
その言葉と当時に私の身体に雷が落ちたような衝撃が走りました。
あれ? アークが目的でなくて私?
そして意識を失ったのでした。
*
アークSide
歓声と拍手の音で意識が浮上した。なんだ? 俺が意識を失っていた?
『オリヴィア』
隣を確認するといるはずのオリヴィアの姿がなかった。今日は聖女らしい白い衣服にベールまで被って誰がわからない姿になっていたオリヴィアの姿がない。
身を起こすとクラリと頭が揺れた。
これには覚えがある。睡魔の香だ。
ちっ! あの男の香水が酷すぎて、睡魔の香の匂いに気づけなかった。
劇場に入ってから気分が悪そうにしていたオリヴィアを強引にでも連れ帰るべきだった。
まさか、こんな人が多くいる場所でオリヴィアを攫うとか……いや、何が目的かわからないが、追いかけるのが先決だ。
座面を触ってみるが、冷たい。
時間が経ちすぎている。
扉の外に出ようかと床に降り立てば、鎧共が倒れていた。しかも、アスタベーラ家の護衛がいない。
お粗末だな。これでは犯人が誰か示していると言っていい。
『おい、起きろ。お前王族っていうなら、毒に耐性ぐらいあるだろう』
「うっ……」
『オリヴィアが攫われた。俺は先に行く。てめぇは部下を叩き起こしてから来い』
扉を魔法でぶち破って部屋から飛び出した。
「うわっ……聖女様の魔獣? って何があったのですか!」
扉の外にいる護衛には気づかれていないということは、何処かに隠し通路があったということか。
劇場から出ようとするも、劇が終わったあとのため、人々が出口に向かっていっていた。
ちっ! これは厄介だ。
*
ガタンと揺れた振動で目が覚めました。
あれ? 私は寝ていたのでしょうか?
「もっと速くならないのですか?」
「申し訳ございません。最短で国境を越えるとなりますと、このルートしかなく、道が悪いためこれ以上のスピードは、馬車が壊れてしまいます」
国境を越える? どういうことですか?
道が悪いということは、整備されていない道ですか。
背中からガタガタと痛いほど振動が伝わってきます。
しかし暗いですわ。手を伸ばすと壁にぶち当たりました。横に伸ばします。壁が両側にあります。頭の上、すぐ壁です。
……もしかして、棺に入っているとかいいませんわよね。私はまだ死んでいませんわよ。
「これに成功すれば、法国は私をそれなりの地位に取り立ててくれると言ってくれているのです。失敗するわけにはいかないのです」
また法国ですか。
ということは、アスタベーラ公爵家が国を裏切ったということ?
「父に浄華の聖女の婚約者にしてやると言われましたが、私が聖女の影に隠れるような存在でも、田舎のツヴェリース伯爵という地位に甘んじる存在でもない」
……えっと、話を聞くとレイモンドとかいう青年は、今ではない地位を得るために、法国に私を売ったということですか。
困りましたね。
このまま法国に行くなんて嫌ですよ。
神父様に何と言われることか。
「揺れ動く波。囲う壁。雨の雫が……」
『聖女様。聖女様』
小声で私に話しかけてくる声があります。この声はべルルーシュです。
それも念話です。
『今、動かれると森の中なので、魔物の餌になりますよ』
それは嫌です。
『団長にこちらの位置は送っていますので、迎えはくるでしょう。ジークフリート様にも連絡を入れたら、こちらと合流すると言われました』
うぇ? 神父様に連絡しちゃったのですか?
これ絶対にグチグチと私が言われるパターンではないですか。
何故、全てを浄華しなかったのかと。
『因みに僕に状況の解決を求めないでくださいね。戦闘には不向きですので』
わかっていますよ。王家直属のベルア部隊の方。




