第25話 お仕置き中
「魔が迷いし黄昏時」
「止めなさい」
神父様は、最初の言葉だけで私が何をしようとしてるのかわかって、止めてきました。
しかし、私は言葉を紡ぎます。
「人々の時を暮れ泥む。燃ゆる灯火を映すが如く光る星芒の……もご」
「止めなさいと言いましたよ。老公、浄華の聖女様はお疲れのご様子。部屋に連れてまいります」
私はまだ最後まで言い終わっていません。
しかし、口元を押さえられたまま、私は神父様に荷物のように抱えられ、部屋から連れ出されようとされています。
「それであれば、部屋でごゆるりと休まれるがよい。しかし、レイモンドを浄華の聖女様の婚約者候補として考えてくれるとよいぞ」
「御前、失礼します」
神父様はアスタベーラ老公の言葉に答えません。
そして私は何も言うことができずに、モフモフパラダイスから強制退場させられたのでした。
「勝手な浄華はしないと、以前から言っていましたよね」
「はい」
私にあてがわれた部屋は、かなり広く女性用に整えられた明るい色合いの室内でした。
そして強制退場させられた私は、床に足を折りたたんで座るという罰を受けています。
これは後で足がビリビリして動けなくなるので嫌いです。
因みに護衛の近衛騎士は室内にはいません。先に食事をとってくるように神父様から言われていましたから。
『あれは何をしようとしていたんだ?』
そして私から少し離れたところでアークが床で伸びていました。ううう、ずるいです。私も足を伸ばしたいです。
「人の心の内に住む『魔』の浄華。だいたい心が壊れる術」
『え? なんだ? その恐ろしい浄化は?』
別に普通の人は、そんなことにはならない。ただ、心の中に魔を飼っている人は心が弱いから、『魔』に依存しているところがあるのです。
「貴族社会を生き抜くためには、綺麗なままでは生きていけません。一度浄化されてしまえば、今までのように生きていけずに、心が壊れるのですよ」
『……』
「そうですよ。止めた私を褒めて欲しいぐらいです」
え? アークは神父様に何を言ったのだろう?
「しかし、あのたぬきジジイは相変わらず食えないですね。まさかこのタイミングで、オリヴィアに婚約者をあてがおうとは」
「私はモフモフしか必要ありません」
「これは兄上に連絡を取っていて正解だったかもしれませんね」
え? 国王陛下に何を言ったのですか? 神父様。
ま……まさか! 堅物のブライアンを私の婚約者にとか言わないですよね?
「アークジオラルド皇子。我が国に亡命という形であれば、あの提案を受け入れる用意があります」
『おい、オリヴィア。人に戻せ』
「アーク。私は神父様からお仕置き中です。動くとお仕置きが長引くので無理です」
この状態で足を崩そうものなら、プラス一時間増えたことがあったので、私は大人しく罰を受けているのです。
「オリヴィア。アークジオラルド皇子を人の姿にしなさい」
「お仕置きはこれで終わりでいいですか?」
「はぁ、仕方がないので、終了でいいです」
やった! 私の足は苦痛から解放されます。
立ち上がろうとしたところで、ビリビリ攻撃が始まり、そのまま床に倒れてしまいました。
「足がビリビリする!」
そして丁度私はアークの上に倒れ込み、モフモフにダイブを! ……何故に私にモフモフを堪能させてくれないのです。
すぐにボフッという音と共にケモミミ皇子になってしまう残念さ。
「おい、上に倒れ込んでくるな」
「お仕置き後の私は、ビリビリ攻撃を受けているので動けません」
そして残念なケモミミ皇子に抱えられている状況。
「相変わらず、言っていることが意味不明だ。それでその話を詳しく説明しろ」
あの、私は床に転がして置いてくれていいのですよ。
「亡命ということは、帝国には戻るなということか?」
「なんですか? ガレーネ帝国の第一皇子という地位に未練があるのでしたら、この話はここまでです」
話し合いのため、テーブルの席についた神父様とケモミミ皇子。そして私はケモミミ皇子の膝の上に抱えられている状況。意味がわかりません。
「いや、未練があるわけじゃない。奴らに一泡吹かせる機会も与えられないのかということだ」
ここ数日だけどアークの性格上、一泡だけで住むとは思わないけど……それよりも。
「ねぇ。この状況なに? 私は関係ないよね?」
「何を言っているのです。オリヴィアのことですよ」
「今までの検証結果から、オリヴィアを抱えている間は、人の姿になっている時間が伸びるからだ」
え? だから背後霊のようにアークがくっついていることが多かったの?
ケモミミ皇子化している時間なんて、気にしたことなかったよ。
私はモフモフしている時間の方が重要だからね。
「できれば、人の姿になるまで浄化して欲しいところですが、オリヴィアは煩悩の塊ですからね」
神父様。それはどういう意味でしょうか?




