第21話 何故にケモミミ皇子になるのです!
「そうですね。聖女の術は魔術と違いますからね」
昨晩、離宮全体を浄化したので私は予定通りに、モフモフパラダイスへ向かって行っています。
「おい。やっぱりオリヴィアの安定性の問題じゃないか」
そして私は背後霊のように、くっついているケモミミ皇子に取り憑かれています。
「馬車の中でのモフモフタイムが何故にケモミミ皇子にする訓練になるのです」
「人にしろ。人に」
そう、昨日の浄華を見たアークが馬車の中で神父様に聞いたことが発端でした。
「浄化を安定的にするにはどうすればいい」と。
肉球つきのケモミミ皇子が言ったのです。それに対して神父様は、修行と同じで繰り返すことだと答えたために、先程からケモミミ皇子にするのを繰り返しているのです。
「聖女は魔力ではなく、聖痕の力を使いますので、その聖痕の状況にもよりますね」
「なんだ? 聖痕の状況とは?」
「例えば聖痕を傷つけられると傷が治るまで、奇蹟の御業は使えません。だから聖女を守るために、これほどの護衛が必要なのです」
それ、私の聖痕が傷つくと私は普通に死にますから。
何故なら私の聖痕は心臓の上にあるからです。胸を貫かれると聖痕云々というより死にます。
そしてボフッと音を立てて黒豹に戻るアーク。もうモフモフのままでいいと思います。私にはモフモフの癒やしが必要なのです。
『おい。もう一度だ』
「嫌です! この窮屈な空間でケモミミ皇子に取り憑かれるのは、もう嫌です。モフモフを撫で撫でできないなんて……聖華会をボイコットをしてモフモフパラダイスに骨を埋ないといけません」
「聖華会の出席を断れるほど、オリヴィアは国に貢献したのですかね?」
「ほぼ毎日、浄華しています」
「それを『結界の聖女』に言えるのですか?」
「ぐふっ……」
常に王城に結界を張っている『結界の聖女』様と、張り合うなど烏滸がましいというものです。
そう、国をあげて聖華会は行われているのです。そこで出席しないという選択はできません。
わかっていますよ。しかし、モフモフが……モフモフがケモミミ皇子化するなんて……それも、魔力循環の訓練を強制的にしてくるのです。
『オリヴィアが、魔力循環を一人でできるようになれば、俺がどうこうすることなんてない』
未だに魔力循環なんてできませんよ。それにゾワゾワっとする感覚には全く慣れる感じがしません。
しかし、背後霊のようにいなくてもいいと思うのです。
モフモフを背もたれにしていいなら、喜んで背もたれにしますけど。
『それともそこの神父に変わってもらおうか?』
「それは絶対に嫌! 頑固拒否です」
それは絶対に私の心が死にます。
「独り言を人前で言うのもやめるようにと追加をしておきましょう」
はっ! 黒豹のアークと話していると、大きな独り言を言っているようになってしまっています。
神父様に白い目で見られていました。しかし、神父様の前ではいいのではないのでしょうか?
「そもそも、聖女が魔法を使う必要などないでしょう。周りには常に誰かがいるのですから、無駄な努力をしているだけにしか見えません」
それは本当のことなんだけど、言い方というものがあると思うのです。無駄な努力って……。
確かに生活には何も不自由はしていません。ですが!
「エリザベートに『あら? こんなこともできませんの?』と言われると腹が立つではないですか!」
「言わせておきなさい。そもそも公爵家と伯爵家では、教育の基準が違うのです。そして聖女に求められるのは、聖痕の力を引き出すことであって、魔法を使うことではありません」
教育が違うのは今までのことで十分に身にしみています。だからこそ、今までのことが色々と溜まってきているのです。
それはモフモフで癒やしていかないと、耐えられないというものです!
「アーク! 神父様が意地悪を言う!」
そう言いながらモフモフにダイブして抱きつきます。呪いの浄華をしないように細心の注意を払ってです。
しかし、ボフッという音と共にモフモフの肌さわりが、布地に変わってしまいました。
「何故に!」
何故か私は、不機嫌そうに身を起こしているケモミミ皇子に抱きついていることになっているのです。
「く〜! 何この状況。全く解せない」
「それは、オリヴィアが俺のことを好きだということだろう」
「それは絶対にないです。私のモフモフに戻るのです!」
なぜ私が、ケモミミ皇子が好きということになるのですか。モフモフは好きです。
人型のケモミミ皇子のケモミミと尻尾以外に、何の価値があるというのです。
そう、一部は認めてもいいです。
「モフモフのアークは好きですが、ケモミミ皇子には全く好意はありません」
「どっちも俺なんだがな」
 




