第2話 大金をください
そもそもです。聖女というのは神から与えられた役目なのです。
聖女は突然現れます。
幼い子供が高熱を出して寝込んだあとに、身体の何処かにアザが浮かび上がることがあるのです。
それも不思議な紋様が現れるのです。
私は六歳のころに熱で寝込み、心臓の上あたりに青い色のユリのような紋様が浮かび上がりました。
その時から私は『浄華の聖女』としてあるのです。
そしてエリザベートも同じ六歳のときに『祝福の聖女』としての役目を与えられたのです。
六歳からなのでエリザベートとは幼馴染みと言っていい関係ですわね。
昔は仲が良かったのですが、あるときからその関係は変わってしまいました。
聖女は神から与えられた役目ということは、普通ではない力も持っているのです。
エリザベートの『祝福』は相手に何かしらの力を与えることができるのです。
与えられる力を選ぶことはできません。
ですが、病弱な者が健康な身体を得られたり、剣術が突然上達したり、運命の人と出会ったというのもありましたわね。
聖女としてはかなり人気の力になるのです。
そして私の『浄華』は、そのままの意味で清めることです。聖女仲間からは不人気と言っていいです。
だって、汚水の浄化とか嫌ではないですか。ほぼ毎日していますけど。
これでどこにエリザベートが、私にこれほどきつく当たるようになったのか疑問に思うことでしょう。
聖女仲間ということは、私とエリザベート以外にも聖女の役目を与えられた方々がいらっしゃいます。
『治癒の聖女』『結界の聖女』『聖水の聖女』それはもう、私が幼い頃から聖女をやっている方々です。
そして、その聖女が集まって人々に神の恩恵を与えるのが聖華会なのです。
年に四回行われる聖華会なのですが、御三方はご高齢でもあり、参加されないことが多く、出席するのは私とエリザベートのみとなるのが恒例となっているのです。
そこで問題になるのが、人々がどの聖女から神の如き恩恵をもらうかになるのでした。
はい。エリザベートは初っ端からやらかしたのです。
『わたくしが平民に祝福を与えると思っていますの!』
十歳のときに初めて聖華会に参加をしたのですが、エリザベートは貴族しか祝福の恩恵を与えなかったために、近寄りがたい聖女のイメージがついてしまったのです。
そして悪い噂というのは一気に広まり、貴族以外エリザベートの祝福を望む者はいなくなったのです。
そうなると、『浄華の聖女』ってよくわからないけど、恩恵を受けてみようかという人の列ができてしまったのです。
丸三日行われる聖華会で、すぐに暇を持て余してしまうエリザベートに対して、私には長蛇の列。
三日間では終わらず延長することも多々あり、エリザベートが私に対して嫉妬することになってしまったのです。
私から言わせれば、自業自得なのですけど。
それからというもの、何かとエリザベートは私と比べだし、言いがかりをつけてくるようになったのでした。
「神父様。私に大金をください」
そして私は教会の書斎で本を広げている人物に頭を下げます。
「なんですか? 突然」
「エリザベートが……」
「またですか。そんなお金はありません」
まだ何も言っていません。
ここは私が今住んでいる家になります。
幼い頃は、両親と共に王都で暮らしていましたが、父が伯爵位を継ぎ領地に帰らなければならなくなったのです。そのため、私は教会でお世話になることになったのでした。
一人でリオネーゼ伯爵家のタウンハウスで暮らすことも考えたのですが、聖女という特殊な力を持っているため、教会でお世話になることに決めたのです。
そして目の前にいる三十代半ばの金髪の男性は、王都の中でも王城の中にある教会の神父様になります。
美人と言っていい容姿に、笑顔を浮かべて優しそうではありますが、ハラグロ神父です。因みに国王陛下の末の弟君になります。
「今日のお茶会で、二回もぶたれたので見返したいです」
「お金のかからないことにしなさい。あと両頬が腫れているので、アンに治療してもらいなさい」
頬が腫れているぐらい知っていますわ。冷やすものぐらい、くれてもよかったと思いますわよ。
仮にもハイラヴァート公爵家の使用人であるなら、主人の後始末ぐらいしてもいいはずよ。
神父様は厳しいですが、優しいところもあります。十回に一回ぐらいですね。
「一角獣を見せられて自慢されて、次の聖華会で私も聖女らしい魔獣を連れてくるようにと言われました」
「そもそも一角獣は凶暴ですよ。聖女らしい魔獣とはなんですかね?」
「さぁ?」
魔獣ですからね。人が襲われたとか作物の被害かとか聞きますわね。
一角獣がどういう生態なのかは知りませんが、聖女らしいという基準が不明確ですわ。
色かしら?