第16話 護衛と見張りを混同していないわよね?
本日はテルアス商会のオーナーの屋敷で宿泊するらしく、豪華な食事が私の前に並べられています。
王城内にある教会でも、食べたことがない料理ばかりです。
そして私は部屋で一人食事を取っています。ええ、扉の前には鎧をまとった木偶の坊が立っていますけど。
そしてアーク用にも、人が食べるのと遜色ない料理が出されています。これは私がわがままを言ったという体にされていました。
だってケモミミ皇子でも、帝国の第一皇子に残飯など食べさせられないではないですか!
本人は戦場よりマシだと言って、奴隷商では残飯を食べていたようです。
しかし、あとで何を言われるかわかったものではありませんから、食事は私と同じ物をと頼んでいるのでした。
「はぁ、いつも言っているけど近衛騎士団長。ガン見されると食べにくいのですけど?」
扉の前で置物のように微動だにしていない近衛騎士団長に言います。
私が食べている姿を見てどうするのですか。護衛なら護衛らしく周りを気にしておきなさいよ。
「お口にあったようですので、良かったと思っておりました」
「はぁ、私に毒なんて利かないわよ。事前に浄化しているのを見ていたじゃない」
治癒の聖女のアン様が何度も言っていたのが、教会で出される食べ物以外は気をつけるようにと。
突然眠くなったりしたら、直ぐに護衛に合図を送るようにとも言われました。
どうも貴族の方が介抱しようと言いながら、さらわれかけたことがあるそうです。
怖いですわね。
それから、毒殺してこようとしてくる者もいたそうです。
何度も言っていますが、聖女の力は万能ではありません。
いくら治癒の聖女でも寿命を引き伸ばすことはできないのです。
それを逆恨みしてきて殺されかけたと聞きました。
聖女は本当に名前だけで、いいことなんて何もありませんわ。
だから私には、モフモフの癒やしが必要だったのです。なのに……ちらりと床をみますと、すでに綺麗に食べきっているアークの姿が。
モフモフが食べている姿も、堪能させてくれないのですか!
「浄華の聖女様に、なにかあっては護衛の意味がありません」
そして、この堅物さ。
だから、食事の前に毒類を浄化していたのを、そこで見ていたでしょう。何かあるはずないわよ!
因みに神父様は、依頼者のテルアス商会のオーナーとそのご家族とで食事を楽しんでいるようです。
私は警備上、部屋で食事を取っているのに、何が起こるというのですか!
「はぁ〜」
思わずため息がこぼれ出ます。
さっさと食べ終わって寝るにかぎります。
寝室までは、この木偶の坊は入ってきませんから。
『なんだ。病の浄化とは治るわけではないのか』
寝室に引きこもって、あちらこちらを浄化している私に、アークが声をかけてきました。
だから、私は『浄華の聖女』であって『治癒の聖女』ではありません。
「なんというか、物は使いようだということです。例えば風邪を引いたときに出る症状の熱であれば、体温の浄化とすれば熱は下がるものの、風邪は治ってはいません。ただ身体が楽になるのです」
『そこで何故、病の浄化をしないんだ?』
はぁ、それ疑問に思いますよね。
「病の原因は多岐にわたります。私の能力では病の根源を見つけられません。腰が痛いと言って実は内臓の病気だったりしますから、安易に病の浄化などして全く改善が見られなかった場合どうなると思います?」
『聖女への不信感か』
「はい。だから浄華の聖女は、病を治せないで通しているのです」
そもそも浄華の聖女は清めるだけなのです。勘違いしてもらっても困りますわ。
『それで何をしているんだ?』
「これですか?」
部屋中を浄化していることを聞かれているのでしょう。
「え? だって変な臭いがするじゃないですか」
発生源がどこかはわかりませんが、香のような甘ったるい匂いがするのです。時々気を利かせて香を焚かれることがあるのですが、そういうのは好きではないので、空気を浄化して匂いを消しているのです。
『ん? そうなのか? 俺には何も匂わないが?』
「そうなのですか? 私より鼻が敏感そうなアークが匂わないとなるのも変な感じがしますね」
今のアークは黒豹の姿なので、五感が敏感になっていると思っていたのですが、違ったのでしょうか?
まぁいいでしょう。明日は朝に出発するそうなので、さっさと寝ることにしましょう。
ふと、むにっとしたモノがほっぺに当たり、グサッと頭に鋭いモノが突き刺さって目が覚めました。
にくきゅぅぅぅぅぅ!
なんという目覚めなのでしょう!
『おい、起きろ壁から何かが侵入してこようとしている』
は? 壁から侵入って……普通は、扉か窓ではないのでしょうか?
それとも、闇組織として有名なニンジャがそこに!
『起きろって言っているだろうが!』
ぐふっ! 肉球に両頬を挟まれる私。感無量ですわ〜。




