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浄華の聖女に癒やしのモフモフを〜皇子への愛は全くないですわ〜  作者: 白雲八鈴


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第15話 病の浄化

 二日後の夕刻。何事もなく私たちは中核都市レエンダルにたどり着きました。


 え? 幽霊の浄化はどうしたのかですって?


 遭遇したらという条件に変えましたので、さっさとあてがわれた部屋に引きこもったので、幽霊に遭遇することはありませんでした。


 だって、面倒ではありませんか。幽霊探しをするだなんて、無駄な時間ですわ。


「ようこそおいでくださいました。浄華の聖女様」


 そして私達は一軒の大きな屋敷の前にいます。貴族の屋敷と言いたいですが、目の前の者から貴族の気品は見受けられず、下品という印象を受けています。

 恰幅のよい身体に合うように作られた、金糸や銀糸を使った綺羅びやかな衣装と言いたいところですが。

 何故か過剰に飾り付けられて目が痛いほどです。


 全ての指に指輪をしているのか。指を装飾しているナックルなのか疑問が湧き立つ指を彩る宝石。

 そしてニヤニヤと笑みを浮かべているこの屋敷の主。


「早速ですが、聖女様の奇蹟の力を受けたいという方は、どちらにいらっしゃるのですか?」


 挨拶も早々に神父様が、本題を切り出してきました。

 いつも通りの笑顔ですが、不快感をまとったオーラがはみ出ています。

 どうやらあまり好かない人物のようですが、きっと寄付金が高額だったのでしょう。


 なんせ、目の前の人物はこの中核都市レエンダルを本拠地としている、大商人と言われているテルアス商会のオーナーなのですから。


「こちらです。娘のレイラは半年前から奇病に冒されているのです」


 テルアス商会のオーナー自ら案内されてきたのは、北側のあまり日が当たらなそうな部屋でした。


 奇病ですか。本当であれば、このようなことは治癒の聖女のアン様が適任なのでしょう。しかし、ご高齢となれば移動もままなりません。


 部屋の中に入れば、病人特有の臭いが鼻を抜けていきました。


 そしてベッドに横たわる人物に視線を向けます。


 娘ということは若い女性なのでしょうが、その頬は痩け目は窪み落ち、唇はひび割れて乾き、その口からはヒューヒューという音が漏れています。


 はぁ、これは……もう……私はちらりと神父様に視線を向けました。

 すると神父様もわかっているという風に頷き返してくれます。


「事前に言いましたとおり、浄華の聖女様の奇蹟の力は病を浄化しますが、一時的なことであり、病が治るわけではありません」

「はい、理解しております。ただもう一度娘の声を……」


 大商人として成功したものの、黒い噂が絶えないテルアス商会のオーナーですが、今の姿を見ると、娘の回復を願う普通の父親のように思えました。


「わかりました。浄華の聖女様」


 はぁ、相変わらず神父様に『浄華の聖女』と言われるのは慣れないですわ。

 何を言われるのかと構えてしまう自分がいるのですもの。


 しかし聖女の仕事はきちんとしませんといけません。

 神父様に頷いて、ベッドに横たわる女性の近くに寄ります。


「主よ。我『浄華の聖女』の捧げし祈りは天上に響き渡る。その恩情をかの者に与えたまえ。身を蝕みし病をその清き力により浄華を願う《エクサシオン》!」


 室内に満たされる白い光。そして、星が飛び散っているかのように、あちらこちらで光が爆ぜている。


 そして室内に満たされる清らかな空気。


 神の御業と言っていい聖女の奇蹟は、女性に降り注いだのでした。



 光が収まりベッドの上に横たわる女性を見るとその姿に変化は見られません。ただ、ヒューヒューと言っていた呼吸の音が聞こえなくなっていました。


 まぶたが動き、淡い水色の瞳が揺れるように天井を見ています。


「リズ!」


 娘の名を呼んで駆け寄る父親。娘も父親を認識し何かを言おうとしたものの、その口からは空気が漏れ出るのみ。


「ああ、無理をしなくていい。リズの病は治ったのだ。聖女様が治してくださったのだ。だから安心しろ」


 父親の嘘に笑顔を浮かべる女性。

 こういう姿を見ると私は無力だと思ってしまいます。私は治癒の聖女ではないので、病は治せない。

 一見改善したように見えても、病状を浄化しただけで、病の根源は治ってはいません。


 私は浄華の聖女だからと、自分にいつも言い聞かせているのです。


 そして安心したかのように深い眠りに入っていく女性。

 父親は先程とは打って変わり、朗らかな笑みを浮かべていました。


「ありがとうございます。これで娘を連れて故郷に移住できそうです」


 どうやら、長距離の移動に耐えれるように、回復を望んでいたようです。

 ここはそれなりに大きな町なので、静かな場所で療養をしようとしているのでしょう。


「おや? それではテルアス商会もそちらに移すのですか?」

「いいえ。これを期に、息子にあとを譲ります」


 血も涙も無い成り上がりの大商人だと人はいいますが、私には娘を思う父親にしか見えませんでした。



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