第14話 危機感を持て
今日から馬車の中に詰め込まれるのかと、憂鬱な気分で目を覚ましました。
まだ暗い。でも今日は王都を立つので早めに起きなければ……イヤイヤな気分で寝返り打ちます。
フワッとモフモフの肌触りが……。
思わずギュッと抱きつきました。もふもふぅぅぅぅ!
「相変わらず積極的だな」
もふもふの感覚が消失し、全然もふさがない抱き心地に……。
「モフモフ。私にはモフモフが足りないのに、何故ケモミミ皇子」
「なんだ? 寝ぼけているのか?」
「ああ……これから数日間、神父様と同じ馬車の中って憂鬱過ぎる。私には癒しのモフモフが必要なのに〜!」
この残念すぎる気持ちはケモミミ皇子にはわからないでしょう。私のモフモフを返せと言いたくなります。
「これが聖女の実態とは残念すぎるな。まさか、魔力循環で挫折するとは」
「アークのやり方が駄目なだけです」
結局、夜にも魔力制御のための循環を試みたものの、一人ではどうしたらいいのかわからなかったのです。なので、アークが魔力循環を教えるために、魔力を私に流せば、私は怪しい悲鳴をあげる始末。
全く進まなかったのです。
そしてアークに魔法を使うのを諦めろと言われ、そのままふて寝したのでした。
「幼子に教えるやり方を否定されたら、どうしようもないな」
くっ……これは私が、幼子以下と言われていませんか?
しかし、今日は時間がないので、いい加減に起きましょう。
嫌がらせに抱きついたままでいたのに、全然動じないなんて、意味がありませんもの。
起き上がろうと、身体を起こしたところで、何故か引っ張られて元の位置に戻ってしまいました。
「別の方法がいいなら、教えてやってもいいぞ」
何故に私は、ケモミミ皇子から見下されている格好になっているのですか?
「嫌な予感がするので遠慮しておきますわ」
「なんだ? 方法も聞かないのか」
「聞かないほうがいいと、私のもふもふ直感が言っています」
「そんなものはないだろう」
くっ、そうですわね。あれば、呪われたケモミミ皇子を購入することなんてなかったはずですもの。
「しかし、この状況には悲鳴をあげないんだな」
「は? もしかしてベッドに押し付けられて……首を締められるということですか?」
「何故に、その発想になる」
え? だってシスターたちの噂話で、どこどこの伯爵夫人が、伯爵の愛人問題に終止符を打つために、伯爵と愛人が寝ている部屋に押し入って、愛人を絞め殺したという話をしていたのです。
それは寝込みを襲われると、抵抗することができませんわよね。
「はぁ、守られすぎているのも問題だな」
「何がですか?」
「もう少し危機感を持てということだ」
「もちろん、持っていますわよ。今日から神父様と同じ馬車の中で、気が休まらない日々が訪れることに」
「そういうところだ」
そう言ってケモミミ皇子は私を起こして、何処かに行ってしまいました。
あの……ケモミミ皇子の方が危機感ないと思いますわ。誰かに見つかったらどうするのです。
いないケモミミ皇子に文句をいうこともできずに、私は仕方がなく朝の支度を始めるのでした。
「中核都市レエンダルまでの日程を説明しておきます」
朝のお務めを終えて、私は馬車に乗り込み王都を立つことになりました。
そして私の向かい側には、美人と言っていい神父様が、笑顔を浮かべて日程の説明をしてくれています。
私はそれを笑顔で聞いていますが、だいたいいつもと同じなので、聞き流していました。
その私の横には、黒豹のアークが座席の上に乗って丸まっています。ええ、この笑顔でいるものの、頭の中ではお金のことしか考えていなさそうな神父様の向かい側にいる私はモフモフを撫でることで、ストレスを解消していました。
「聞いているのですか? オリヴィア」
「はい。いつも通りということですね?」
私が笑顔で答えると、ピクリと神父様の笑っている目が動きました。あ……これ、失敗しました。
「聞いていなかったということですね。その耳はなんのためについているのですか?」
「可愛らしいニャンコちゃんの鳴き声を聞くためです。若しくは、喜び勇むワンコくんの鳴き声を聞くためです」
私はにこりと笑みを浮かべて、ハッキリと言います。
「それはオリヴィアの欲望ですよね」
その私に呆れる神父様。
私のモフモフ好きを知っている神父様を、呆れてものも言えない状況にできるのです。
これで、ぐちぐちと言われることがかなり減ります。
「はぁ、もう一度言いますよ。今日は途中のラバリエーダで宿泊しますが、魔獣を教会内に入れることを拒否されたので、ラバリ離宮で宿泊します」
これはアークがいるために、いつもならその町にある教会に宿泊していたのですが、まさか王家の離宮を私に解放してくれるというのですか!
「その代わり、幽霊が出ると言われているので、浄化しなさい」
「嫌ですわ」




