第13話 そっくりな二人
「はぁ〜。アークの所為です」
私は黒豹を連れて、トボトボと殺風景な廊下を歩いています。
あのあと、私の悲鳴を聞きつけたシスターたちの気配を感じたアークが元に戻したはずの花瓶を倒し、姿を消してしまったのです。
ええ、ケモミミ皇子の姿は流石にヤバいですので。
そしていつもは部屋の中央にある長椅子とテーブルが端により、花瓶が倒れた状況を見たシスターたちが、ニコニコと笑みを浮かべながら近づいてきたのです。
『浄華の聖女様。魔獣を運動させたかったのであれば、ジークフリート神父様に中庭を使っていい許可をとってきてください』
と言われ、黒豹姿で物陰から出てきたアークと共に部屋を追い出されてしまったのです。
『オリヴィアが悲鳴を上げるからだ』
まるで私が悪いと言わんばかりのアークと共に、神父様のところに行っているのです。
シスターたちの言い分もわかる。部屋の中で魔獣を運動させるのではなくて、中庭で運動させるようにと。
ここの中庭は、教会と居住棟の間にあって、高い壁があり外から入れない中庭になっているのです。
いわゆる聖女のための中庭と言っていい場所です。
「だって、いきなりゾワゾワってきたら悲鳴ぐらい上げるわよ」
『だから集中しろと言っただろう』
「いや、事前情報があってもあれは悲鳴をあげると思う」
何ていうか。身体の中に異物が混じりこんできた感じで、悪寒? なんでしょう? 言い表せる言葉が見つかりませんわ。
とにかく、ゾワゾワしたのです。
『それがわからないと魔力制御の感覚がわからないだろう……オリヴィア。角を曲がったところに、神父という者がいるぞ』
アークは目視できない人を見分ける能力があるのでしょうか?
『なんだ? その目は? 人の気配に敏感でなければ、後ろから刺されるだろう』
あ……後ろから刺されるようなことがあるのですね。
きっと私には、一生わからない感覚でしょう。
そして、角を曲がると確かに神父様の姿がありました。それも誰かと話をしているようです……。
「ちっ」
神父様と話をしている人物を見て思わず舌打ちをしてしまいました。
「おや? オリヴィア。どうかしましたか?」
私の舌打ちが聞こえたはずなのに、スルーして声をかけてきた神父様。
「浄華の聖女様」
そして、その神父様の後ろから姿を現した人物が、私の聖女の名を呼びました。
白い神父服を着た金髪の麗人といっていい人物と、そっくりな人物が騎士の隊服を着ているのです。
「これは、近衛騎士団長。朝ぶりですね。まさか聖華会の護衛につくとか言わないですよね?」
「勿論、聖華会は国を上げての行事ですので、任務に携わることになります。そのことをジークフリート様に、報告していたところです」
「ちっ!」
どう見ても神父様とそっくりなこの男。
ということは王族で、神父様と近しい血縁関係ということが、考えることもなくわかることです。
それなのに、神父様のことを『ジークフリート様』と呼ぶ堅物さ。間違いではないけれど、二人っきりのときもそういう態度なので、昔からこの融通の利かなさに呆れていました。
「それで、オリヴィア。どうしたのですか?」
「神父様。アークと中庭にいっていい許可をもらいにきました」
「それなら、破壊しなければいいですよ」
え? どうしてそこに破壊という言葉がでてくるのですか?
普通は、大人しくしているのならとかいいません?
まぁ一応体裁として許可をもらったので、これで失礼しましょう。
「ありがとうございます。神父様」
「ああ、丁度良かったです。オリヴィア」
踵を返そうとしたところで、神父様に引き止められてしまいました。
何だか嫌な予感がします。
「途中でレエンダルに寄ることになりましたので、出発は明日になります」
「はい? それは途中で寄るのではなく、遠回りして行くということですわよね?」
レエンダルと言うのはツベラール侯爵領とは王都を挟んで反対側にある中核都市の名前です。
途中に寄る感覚ではなく、遠回りしてレエンダルに行ってから、ツベラール侯爵領の何処かの町に行くのです。
基本的には領都ですので、領都アンラフェルだと思っています。
「そうとも言いますね。ですから、準備をまだしていないのでしたら、早急にしなさい」
「すでに準備は終わっております」
「ならいいでしょう。明日、浄化の勤めを終えてから出立です。いいですね」
そうですか。恐らく半月以上王都を離れることになるので、念入りにしておくようにと、笑顔で言われているのでしょう。
「わかりました。それでは失礼いたします」
そう言って私は、居住棟の方に戻っていったのでした。
はぁ。今回も長旅になりそうですわ。だからご高齢の聖女様方は行きたくないと言われるのです。




