第10話 ですから解呪は私の精神状態の影響を受けるのです
『空間まで浄化するとは凄いな』
そして私はさっさと教会の自室に戻ってきたのでした。ブライアンが珍しく寄り道をするかと提案してきましたが、却下しました。
五日後にはここを立つことを告げられたということは、準備をしておくようにという神父様からの命令ということです。時々、ルートの変更により遠回りをしなければならないことがあり、予定より早めに出立することがあるからです。
目的地に早く着く分には問題ありません。しかし遅れるのは絶対に許されることではありません。
私はクローゼットから大きな四角い旅行カバンを引っ張り出して、必要な物を詰めていきます。
「今も浄化はしていますよ」
私は存在しているだけで、周りを浄化し続けています。
大したことはありません。
ただの空気清浄器ですわね。
『何故にすでに準備を始めているんだ? まだ先の話しだろう?』
「よく、別の場所に行くように言われることもあるので、日程より早く出ることもあるのです」
いわゆる貴族に恩を売って、お金をせしめようという神父様の考えです。あ……お布施でしたわね。
『これほどの力があれば、そのような要望も出てくるだろうな。それじゃ魔法を教えるのは後でいいか』
そう言われて、カバンに詰めていた手が止まります。魔法……魔法ですって!
「本当に魔法を教えてくれるのですか?」
今までエリザベートに馬鹿にされていたことをドヤ顔で言い返せるのではないのですか?
あら? 風の魔法で涼めばいいのではないですの?まぁ!できませんの?とか。
こんな暗いところで誰かと思えば光魔法も使えないオリヴィア様ではありませんの。とか。
言われてきたのをドヤ顔で見返してやれるではないですか!
「まずは光魔法を教えて欲しいですわ」
神父様に魔法を使いたいと言っても、必要ないとの一点張りでしたもの。
『だったら、人に戻せ』
その言葉に尻込みします。
え? 人に戻すのですか?
「無理です」
『前回ぐらいの姿でいい』
ああ、黒い尻尾つきの第一皇子でいいのですわね。そ……それであれば……ぐっ……改めて言われると勇気がでてきません。
「心の準備に時間がかかりそうです」
『早くしろ!』
床に寝そべっているアークが苛ついているように、黒い尻尾を床に叩きつけ始めました。
ぐっ……わかりました。もふもふの背中に顔を埋めればいいのですわよね。
そして私は黒い毛並みの背中に顔を埋めました。バフッという効果音と共に呪が解呪されます。
「おい。これはなんだ?」
「ふぎゃっ!」
に……肉球が私のほっぺにぷにっと当たっているではないですか!
「何故、劣化している」
そう話す第一皇子の頭の上には丸みを帯びたモフモフの耳が!
そして私は肉球パンチをされています。
「答えろ」
「爪が出ています!チクチクと痛いですわ!」
「こんな中途半端な解呪をしたバツだ」
なんてご褒美! ぷにぷににくきゅぅぅぅぅ!
チクッとくるアクセントもいいですわ。
「聞いているのか?」
「はっ! ……以前言ったとおり、私は第一皇子への愛は全く持ってありません」
「それはわかっている」
「先程今も浄化していると言ったとおり、私の力は普段からダダ漏れです。それは聖女の力の制御が甘いからと言われています」
「それは駄目だろう」
「はい。なんといいますか。幼い頃からストレスが多く、それが原因だったのではと言われました」
その原因は勿論エリザベートです。
仲がいいとはいっても、所詮公爵令嬢と伯爵令嬢です。
お茶の飲み方一つとっても歩き方にしても、それ以前の教育が違ったのです。
それにより、エリザベートの『まぁ、こんなこともできませんの?』攻撃がくるのです。
エリザベートに見放されないように頑張る私。しかし、また別のことを言われるという繰り返しだったのです。
ですが、一人前の聖女と言われるころには、エリザベートから注意されることはなくなったので、私の努力は無駄ではなかったということでした。
「ということで、心神の状態に影響を受ける聖女の力ですが、私にはそれが大きく出てしまっただけです。これは、モフモフなのに中身が第一皇子という状況に残念感が出てしまっただけですわ」
「オリヴィアの方が残念だろう」
眉間にシワを寄せるケモミミ皇子。これはこれでいいかもしれません。
「さっさとやり直せ」
「え?」
やり直すってなんですか? もしかしてケモミミ皇子に口づけをしろとか言いませんわよね。
そんなこと絶対に無理ですからぁぁぁぁ!




