#7「光射す場所で【1】」
ハロウとエグラントは院長室に消え、オリアネッタは女司祭の案内役を担うことになった。ハロウの意向を受け、女司祭が修道院内を見学したいと言ったためだった。院長室に入る前、エグラントは怪訝な顔で女司祭を何度か見やった。女司祭は無言だった。エグラントが何を思って女司祭を見ていたのか、オリアネッタには分からなかった。
ご案内します、と女司祭に告げてから《聖者の間》を振り返ると、修道士や修道女がこちらを見ているのが見えた。その表情はこれまでとは違う、中途半端なものだった。勇者ベリアスと王女シルヴェリカの娘として育ったオリアネッタは、これまで彼らから崇拝にも似た敬意を向けられていた。しかし今はまるで違う。彼らは怯えているような、それを隠そうとしているような、ちぐはぐな表情をオリアネッタに向けていた。
待っていなさい、と女司祭は小声でオリアネッタに言ってから、修道士と修道女の輪の中に入っていった。その足取りに迷いはない。彼女は聖遺物台のそばで足を止め、一同をぐるりと見回した。
「……いいですか、皆さん。魔王オルディミールの血を理由に、あの娘、オリアネッタに危害を加えてはなりません」
静かな、しかしよく通る声だった。修道者たちは無言だった。彼女に触れた聖杖が赤い光を放った理由も、オリアネッタの血筋について彼女が断定した根拠も、彼らは何一つとして説明を受けていない。彼らの内心を知っているのかいないのか、女司祭は冷ややかに、せせら笑うように付け加えた。
「人として当然のことくらい、わきまえていただかなければ。もっとも、わたくしの軍勢に加わりたいというのなら、話は別ですが……」
己の軍勢に加える。ネクロマンサーのその言葉には、殺してアンデッドにする、という意味がある。
それだけ言い終えると、女司祭は靴音を響かせ、オリアネッタの元へと戻った。彼女は修道者たちの反応を確認しようともせずに、案内してもらえるかしら、それだけをオリアネッタに伝えた。オリアネッタは頷いて、壁に居並ぶ扉の中でもっとも豪奢なものを開く。奥には暗く厳かな回廊があり、初代勇者とルヴァニアのレリーフが壁に刻まれている。オリアネッタは客人を先導しながら歩いた。知らず知らずのうちに足早になる。自分の足取りに現実味を感じない。まるで雲の上を歩いているかのようだ。……後ろにいる女司祭は何者なのだろう。彼女の言葉でエグラントや修道者の態度が変わった。だけどそれが本当のことかどうかは分からない。それ以前に、彼女は安全なのだろうか。聖杖は赤く光ったのに。すべてが半信半疑だった。それでもオリアネッタの心にはかすかな喜びがあった。今、ここに一緒にいるのがエグラントじゃなくて良かった──視界が開け、光が溢れた。《聖者の間》よりも遙かに広く、高い天井が現れる。
オリアネッタは女司祭を振り返り、誇らしげに口を開いた。
「ここは《灯火の祭壇》……再生と復活、そして導きを象徴する場所です」