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時の刻  作者: 悠ノ伊織
第一部 夜桜異聞
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第三十一話 現と夢の狭間

 水の中。息苦しいそんな場所で、溺れているような感覚に襲われていた。

 不滅しない肉体と、殺意、殺人欲求で満ちている心。平夜結はこれによって形成されていると言っても過言ではない。


 けれど、私は殺意を否定して、殺意のしがらみから逃れるように必死に生きていた。否、そう生きるしかなかったのだ。彼、と出会った頃から。

 殺意を肯定してくれるから私は安心して否定できるし、しなくてはならないと思った。


 肯定とは視野の拡大に繋がり、私は徐々に殺意に対しての考え方が変わった。

 柔軟になったと言えば、その方が正しいだろう。

 勿論、殺意から逃れることは叶わないが、考え方を変えることはできた。結果、自然と心が楽になっていった。


 そのはずだった。


 殺す。


 自身の胸中で、確かに完全な殺意が芽生えていた。

 いつもと変わらない殺意、けれど何処か普段と違う違和感がある。

 何より、今回の殺意に対して、私は否定していない。それどころか、自ら他者に殺意を向けようとしている。

 どうしてなのだろうか。

 考えても考えても、結論は導き出せない。


 殺す。


 自身の胸中の呟きは無表情の声音だった。

 けれど、その声の奥底に眠るのは、怒りのような気がした。


「…………」


 誰かの声が聞こえる。

 今日間と彩夏が喋っている。


「……殺す」


 その声は誰にも届かない、吐息のようなものだ。薄目を開けて、やっと違和感に気付く。

 ああ、そうか。

 私は今日間が傷ついているのを見て、苛立っているのだ。


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