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時の刻  作者: 悠ノ伊織
第一部 夜桜異聞
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第一話 殺意

 一概に暑いとも寒いとも言えない、寒暖差が激しい秋の季節。闇夜に包まれ、月だけが煌びやかに灯っていた。街の灯りは呼吸をするように明滅を繰り返す。都会よりの町だが、人気の薄い場所に行けば寂れた雰囲気が目立つ。実に心地が良い。そんな感じ私は歩く。


 曖昧な外気の中で着物を纏う、私には温度というものを強く感じない。それは人の温もりも同様だ。温度を感じたのはいつ以来だろうか、と考えるほどに何も感じない生涯だ。


 温度を感じない生活は実に楽で、生きている実感を殺してくれる。生の実感がなければ、他を嘲ることも楽だ。本来なら他とは人に限らず、物質や概念そのものを含むのだろう。


 だが、私の場合、他は生命。即ち動くものに限る。

 この町は生命、人間がうようよと生きている。それを見る私の瞳は、狂っているのであろう。私は病気を持たず、酷似したある種の枷がある。


 闇を抱えた人は衝動的な敵意を他者に向けることがある。一線を越えれば、それは殺意に等しい。衝動的に人を殺すことがこの世にはある。感情という機能がある限り、人は過ちを繰り返す。


 殺人衝動、――殺意。


 私とて例外ではないが、人を殺すことはできないし、殺しは嫌いで一度たりともしたことはない。当たり前だ。


 だが、嫌いという感情を持ってしても、私は常に殺意を抱いている。他、人間を嘲る、殺意。殺意の感情だけが、今の自分を自分たらしめていた。


 だから、ある種の枷とはそういうことだ。


 今日間という友人から誰も殺せない殺人鬼という称号を名付けられたことを思い出す。


 思考していると小道を抜けた。

 私の眼は自然、鋭く。


 都会よりの町は今日も今日とて騒がしい。仲間内で喚く理由を考えてみたけれど、特に深い意味はないのだ。人間とは集団で共感したがる生き物だ。無論、例外もいる。大多数は前者であろう。私だって幼い頃、意味もなく、――笑っていただろうか。

 ふと、昔のことを思い出した。殺意を生まれながらにして持ち、その環境で私は笑っていたのか思い出せない。


 人混みを避けて、再び小道を通る。

 自然、私の眼は落ち着いた。


 殺意を常に抱く。殺人衝動を常に持つ、欲。欲望は我慢できるものだ。しかし、リミッターが外れると、人は欲に食らいつく。私の場合、それが殺人というわけだ。


 自然、再び眼が鋭く。

 人とすれ違う。私は嘆息をついた。


 背後から悲鳴が聞こえるが、気にせず落ち着いた瞳で夜を歩く。

 ――今宵の殺意は過敏だった。

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