第5話 欺キノ複製体【クローン】
何時まで経っても現れない白馬に乗った王子様…。そんな世界に飽きた。何も変わらない退屈なこの世界に飽きた。そう思っていた主人公雷葉 聖〔らいは ひじり〕に突如として起きた変化。それは、彼女が願った新たなる人生の幕開けだった。
物凄い眼光と魔力を感知した僕、聖は突如として現れた荒廃してから幾年が過ぎた街に吸い込まれるように入っていったのだが...
そこに居たのは、まさかのシャルと同じ見た目をした者であった。
そして彼女に対して聖の放った攻撃がまるで効いていないことに気が付くのだが意外なことを彼女の口から聞くことになった。
‘‘私はあの娘。あの娘は私。‘‘と言う。
攻撃が効いていないことの理由は…
感覚共有みたいな状況下で、複製体である彼女に対して攻撃して彼女が受けたダメージはオリジナルであるシャルにいってしまうという事。
だが、通話の中でシャルが言っていた…。
あることに疑問符が浮かんでしまう。
その様な状況下に追いやられた聖であったが...
複製体の彼女に安易に攻撃をすることができないという事はつまり聖の一方的不利な戦況。
どうにかして打破できないかと頭をフル回転させながら、彼女が繰り出す攻撃をよけつつ導きだそうとしていたのだが…。
それが気に食わなかった複製体の彼女はこれでもかと聖を煽ってくる。
「よけてばっかりじゃ、何も変わりはしないよ。ホラホラ、攻撃当ててみなさいよ。」
そんな言動を取ってくる複製体のシャルに屈辱感を感じていた時だった。
いきなり、僕の身に着けている金のロザリオからオリジナルのシャルの声が聞こえて来た。
「何をやっているの聖。思い切ってやっちゃいなさいよ。私は大丈夫って言ったじゃん。貴女らしくないわよ。」
「でも、複製体を攻撃したらシャルにダメージが...」
「それはもう…。平気よ。だって私...感覚共有切ったから。今後複製体が受けたダメージが私に反映されないわよ。複製体自身が喰らうだけになるから・・・やるなら今しかないよ。感づかれたら終わりだから…。後は頼んだよ聖。」
聖は、シャルから言われたことで覚悟が決まった。
だが、複製体は未だこちらの状況には、気が付いていないような様子で聖に話してくる。
「さっきからこそこそと話してるが...遂に頭おかしくなったか?まぁいい。早く私に攻撃してみなさいよ。」
そう言われた瞬間、聖の中で何かが弾ける。
そしてそれが、湧き上がってくるのを感じた。
「覚悟はできた。僕はもう...迷うことはないんだ。今やるべきことは複製体であるお前を倒すこと。そして、シャルを魔の手か救ってやることだ!!!」
聖が言い放ち叫んだ時...
聖をあの時と同じ感覚が襲う。
執事さんとの戦いで起きたあの感覚が…。
「解放!!!目覚めよ僕の力」
謎の光が僕包み込む。
そんな聖を見て額から冷や汗を流す複製体。
明らかに形勢逆転したまさにその瞬間だった。
焦っているのだろうか闇雲に攻撃を繰り出してくる。
「その程度の力で私に挑むか愚か者めが!!!私を攻撃すればオリジナルにも影響が出るわ。それでもやるかこの臆病者が~。光ノ槍降雨!!」
複製体シャルの周りには幾つもの魔力から作り出された幾千という数の槍が聖の方に向き豪雨の様に降りかかるが...
「僕もやられてばかりでは…シャルに合わせる顔がないじゃない。そんな状況もううんざりよ。これで、終わりにしましょ。」
そう言って聖は魔力で剣を作りだし大きく薙ぎ払うと降りかかる槍に向けて幾千もの斬撃が飛び互いに相殺しあう。
その状況に固まる複製体に聖は追撃を喰らわせる。
「この状態になった僕はもう...誰にも止められないわ。断罪の光!!」
魔力を凝縮したエネルギー波が複製体を飲み込むが...
自身がダメージを喰らっていることにようやく気が付いた複製体のシャルは嘆くが。
聖は攻撃をやめなかった。そしてついに...
「これで、終わりね。さようなら...もう一人のシャル…。」
そう言って聖は...
涙を堪えて目をつぶり複製体の核を貫く一撃を放つ。
すると、核が破壊されたことによって複製体の崩壊が始まり…。
それを見届ける聖。
そして完全に崩壊する直前…複製体である彼女は一滴の涙を流し安らかな笑顔で消えていった。
完全に複製体の彼女の気配が消え去った後、聖は複雑な気持ちで胸がいっぱいになり泣いてしまう。
いくら複製体の彼女でも...
元はシャルであり一人の女の子であった彼女を自身の手で消してしまったことに後悔の念を抱いてしまっていた。
だが、オリジナル体のシャルの事が心配になりロザリオに話しかけてみるが...
そこから聞こえてきたのは
「助けて...聖。」
その一言だった。
ただならぬ事態をシャルに襲い掛かったのだと理解した聖は急いで荒廃した街から出るが目の前には何もなく、後ろを振り向くとつい数秒まえまで居た街さえも跡形も無く消え去っていた。
どうしようというワードが頭の中を埋め尽くすが...
不意にハッと思いついたようにこう叫んだ。
「転移…。シャルのもとへ...」
すると、身体を光が包み込み眩しくなった聖はそっと目を閉じた。
次に目を開けると...
そこは見覚えがある部屋だった。
そして、窓の外を見ると遠くの方で煙が上がっているのが見えた。
「戻って来たのか?」
そう呟いた時不意に頭の中にシャルが何者かに捕まっているというビジョンが見えた。
居ても立っても居られなかった聖は、部屋を飛び出してビジョンで見えた場所に向かうのであった。
兎に角シャルの事で頭がいっぱいだった僕は、急いだ。
その場所に着くと案の定...
捕らえられたシャルが眠らされていた。
そして、遠くから声が聞こえて来た...
「遅かったな…。」
その声がした方向を見るとタキシードに身を包み仮面をつけた人物が聖の方に近づいてくるのであった。
聖〔ひじり〕は、シャルスタ王女の秘書を務めるのと同時に彼女の警護もすることになるのだが、聖とシャルスタ王女に降りかかる数々の試練を乗り越えて行けるのであろうか…。