商品開発②
よろしくお願いします!
「話を戻すと……お肌が乾燥していたり、皮脂が多めだったり、何かしらトラブルを抱えている肌に直接ファンデーションを塗ると、均一につかなくてムラになったりするのよ。その結果、それを隠すためにファンデーションを厚塗りすることに繋がるのよねぇ」
実際、学園にいる同級生たちの肌を見ても、エリー様のような美肌の持ち主は少数派だった。みんな若いのに残念なことである。きっと有害な白粉の影響も少なからずあるのだろうと思われる。
「ファンデーションって自分の肌色に近い色味を選んで塗るって言っていたじゃない? 白塗りして誤魔化すんじゃなくて、実際の自分の肌に近い色を使って肌色を補正しつつ、それと共に配合されたなんらかの物質が光を乱反射して、肌の表面の凸凹やシミそばかすをぼかす仕組みだったわよね? だったら厚塗りになっても機能的には問題ないのではない?」
「そうね。ファンデーションの役割についていうならその通り。でも、厚塗りはやっぱり避けるべきね」
エリー様のファンデーションに対する造詣が深すぎる。いや、確かに私が説明したのだけれど……。
でも、いくら果たす機能がわかっていても、実際使ってみないとわからないことは存在するだろう。厚塗りダメ、ぜったい! と主張するのにはちゃんとした理由があるのだ。
「厚塗りする一番のデメリットは『崩れやすい』ことなの。表情を動かすと顔にはどうしてもしわが寄るじゃない? 特によく動くのは目元と口元。そこからどんどん崩れてきて、逆にしわが強調されて老けて見えちゃったりするの」
ほうれい線とか、目尻のしわとか、額のしわとかね……。老けて見えちゃうから、その辺りはごく薄く塗るか、塗らないでいいなら塗らないほうが綺麗に長持ちするのよね。
「なるほどね。厚塗りするとその分、皮膚とファンデーションの密着度が落ちるから……。しわが目立つのはいやよねぇ……」
「でしょう? それから、顔にはたくさんの毛穴があって、皮脂腺もついてるから、そこから必ず皮脂が分泌されるわ。汗や皮脂と結びつくと、ファンデーションはとても不安定になってヨレたり落ちたりしやすくなるのよ。テカテカして見た目も悪くなるしね」
「なるほどねぇ……」
「だから、化粧下地でまずファンデーションが崩れづらい土台を作ってあげることが重要なの。一日中全く崩れずキープすることは難しいけれど、少なくとも化粧直しの頻度は減らすことができるわ」
「化粧って奥が深いのねぇ……」
「そうよ。今のはベースの話だけど、ポイントメイクももっとみんなに広めたい技術があるもの」
ポイントメイクで印象を操作する方法とか、「普遍的な美人の顔」に近づけるメイクをするための理論とか、いろいろ伝授できる技と知識がある。
「アイリーン、それなんだけど」
「ん? それって?」
「アイリーンがもつ技術と知識のこと。それ、お金とらなきゃだめよ。立派なあなたの『財産』なんだから」
――財産……! 何も知識がない状態から、一生懸命頑張って頭に入れたから、そういうふうに言ってもらえて嬉しいな……。
「でも、お金とるほどじゃなくない?」
「十分お金とるほどだから。今は宣伝になるからいいけど、無償での提供はいずれやめてもらうからね」
「宣伝?」
「んん、それは今気にしなくていいの」
「ふふ。エリー様ってば秘密が多いよね」
エリー様は全然そうは見えないけれど、実は私と同じ十七歳なのだそうだ。学園に通っていないから年上なのだと思っていたのに、なんと飛び級して卒業したのだという。
だからなのか、彼女の考えることは私の思いもよらないことばかりでいつも驚かされている。名前のことも含めて秘密も多いし。
でも、それが楽しくて、エリー様と知り合えてからの毎日はより充実してしているのだ。怠け者すぎて学園に通わなくなってしまったと噂の第二王子様と大違いだ。
「……でも、そういう技術とか知識とかって、なんか……ちょっと怖くない?」
「どうして?」
「みんながアイリーンの技術を習得したら、男性たちはみんな化粧で騙されることにならない?」
「ふふ。魅力的な女性が増えるなんて男性にとっては嬉しいことではないかしら? 元々の顔を変えるわけじゃなくて、持っている魅力を引き出す手助けをしてくれるのがお化粧だもの。騙すのではなくて、お化粧のおかげでその人が本来持つ魅力に気づきやすくなるのよ。これぞwin-win! 素晴らしい社会貢献だわ……!」
「なんか……うん。アイリーンは女の子たちを心から笑顔にしたいのね」
「そうなの! わかってくれる? 女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
こんなふうに、私は満面の笑みで夢を語ることしかしてなかった気がするのだけれど、その後もいつの間にか私から聞き取った情報を元に、誰に頼んでいるのかはわからないながらもエリー様の手によって商品開発が進んでいて、試作品を渡されるという日々が続いていった。
正直、私は今まで渡された商品を使い、その商品を広める仕事しかしてこなかったから、開発についてはどうしていいのか全くわからなかった。
エリー様がそこをいとも簡単に解決してくれるので、私はいつもエリー様を尊敬の眼差しで見つめていた。本当にエリー様と知り合えてよかったとしみじみ思っている。
イザベラ様から話を持ちかけられたとき、不安に思った日のことが遠く思い出される。エリー様もイザベラ様もとても親切に接してくれるし、私は最高の縁に恵まれたことを心から感謝した。
実は、ファンデーションの開発を急いでもらったのにはもう一つ個人的な理由があったから――。
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