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8.現場検証(警察side)

ラブ味が薄い!気がしてる!!

糖度低めでサスペンス強めにしようとは思っていたんですが、

想像以上にサスペンス度高くて自分でもひゃーっとなってます。

大丈夫、でしょうか??(道言さんの出番が増えると少しは甘くなる、予定。。)


  

 石川県、警察本部内――。

 朝から課長補佐の怒号が響いていた。


 「鬼原ぁぁ!この書類、間違ってるぞ!ココだ、ココ!!」


(どこだよーー)


 舌打ちしそうになるのを堪えて課長補佐の話を聞く。『華になった少女達事件』が発生している今、やるべきことは他にたくさんある。こんな重箱の隅をつつくような暇がよくあるものだ。

 そう思いながら適当に頷く。課長補佐は事務所内のデスクの上に乗っていた書類の一枚を手に、立ちながら指を差して怒っている。鬼原の席は課長補佐から離れた、天沢の向かいの席だ。役職的には課長補佐の近くの席のはずだが、双方からの強い要望で、離してもらっている。そこは融通のきく職場でよかったが……。

 いまだ怒り心頭でなにかを言っている課長補佐をみる。 

どうやら、先日デスクの上にあったお菓子を食べられたことを根に持っているらしい。


(やれやれ)


 そう思いながら課長補佐にバレないように視線を巡らすと、向かいのデスクにいた天沢が言わんこっちゃない、といった顔をしていた。

確かに、あの菓子はうまかった。

先日の菓子の味を思い出していると、イラだった課長補佐が叫んだ。


「聞いているのか、鬼原ぁぁぁぁ!!」


――バンっ。


 課長補佐の怒号と同じタイミングで、勢いよく扉が開かれる。同じ捜一の同僚である長谷部はせべだった。急いできたのか息が乱れ、額から滝のような汗を流している。半袖のワイシャツが汗で張り付いてしまっている。


「発生っ、しましたっ!」

「なにがだ」


 長谷部の吐く言葉の先を促す。嫌な予感がする。

長谷部は肩で息をしながら、強い目で鬼原を見た。


「5件目の華になった少女達事件、発生しました!!」

「――っ」


 唇を噛み締める。5件目が発生してしまった、警察は5件も犯行を見逃してしまった。


「クッソ!」


 舌打ちしてカバンをひったくるように持ち、課長補佐に声をかける。


「鬼原、外でます!」

「……あ、ああ」


 しばらく放心していたのか、課長補佐がはっと返事をする。足早に走り始めながら、天沢に目配せする。


「天沢、行くぞ!」

「は、はい!!」


 天沢は緊張した面持ちで返事をすると、持つものもとりあえず鬼原の後を追ったのだった。



 現場に向かうまでの車内で、現時点でわかっている5件目の詳細について確認する。

 長谷部からもらった書類によると、こういうことだったーー。


 本日、2038年7月3日(土)、金沢市内にある百合野天満宮にて事件発生。場所は境内の神社裏、雑木林の中とのこと。遺体は他同事件と一様に、胴体と頭部、四肢は切り離されており、遺体の周囲には四肢が植えられ、胴体の首部分には百合の花が生けられていた。頭部は現場に残されておらず、被害者の身元は不明。先の4件と同様のその事件現場の様相から、本事件は『華になった少女達事件』の5件目であると断定。


「雑木林の中で、よく発見できたものだな」


 鬼原の言葉に、運転をしていた天沢がちらりと書類を見た。


「なんでも、第一発見者は探検してたそうですよ」

「探検?」

「夏なんで。雑木林にたくさん昆虫がいるんだとか」

「子供、か?」

「いえ、大人の男性です」


 まあ、他人の趣味は色々だしな。そう思い頷く。

しかし、昆虫を見つけに来て遺体を発見したのではさぞや衝撃だったろう。気の毒に思っていると、天沢がそうだ、と声を発した。


「長谷部さんが、書類の最終ページに目撃者の一覧があるんで確認してください、って言っていましたよ」

「そうか」

「目撃者の方には残ってもらっているそうなので、現場の確認後話を伺います」

「ああ」


 発生したばかりなので少ない書類の、最後のページを開く。

一覧に載っている複数人の名前を見ていく。


「――っ?」


 知った名前に一瞬息を忘れた。目を大きく開け、その名前に間違いがないか確認する。


「?どうしたんですか、鬼原さん」


 鬼原の様子に異変を感じた天沢が声をかけてくれるが、それに応えることができない。


(どうして、あの子がーー)


 視線の先にある名を反芻する。

糸川 累、平和に暮らしているはずのあの子の名前がそこにあったーー。



+++


 事件現場の様子を見て、天沢がハンカチを口元に当てる。


「これはまた、ひどいですね」

「ああーー」


 ご遺体に近づく、夏で暑いこともあってもう腐敗が始まっているようだった。構わず見ていく。


 改めて、すごいなーー。


 綺麗に切断された頚椎の断面を見て素直な感想が漏れる。よくこんなにきっちりと切れるものだ。犯行のタイミング的には不規則な印象を与えるのに、現場の処理自体は几帳面な性格が見える。

 頚椎をまるで花瓶に見立てるように、大輪の百合が活けてある。遺体は胴体だけで四肢は切断されているので、セーラー服の袖とスカート部分は下向きに垂れ下がっている。マジマジと遺体を覗き込む鬼原に、天沢は後方で苦々しく声を上げた。


「鬼原さんよくそんなに近づいて見られますね。鑑識の人でもリタイアしてた人いたのに……」


 嘔吐くのを必死に堪えているのだろう天沢が声をかけてきた。


「現場の様子を見るのは犯人を捕まえるために一番だからな。もう5件もしてやられているんだ。

―― 一刻も早く捕まえてやりたい」

「そう、ですね」


 鬼原の言葉に、天沢も少しではあるが近づき観察する。しかし、ハンカチは離せないらしい。


「そう無理はしなくていいぞ、新人」

「少しの無理くらいします。新人じゃないので」


 涙目になっている天沢に笑みを浮かべる。日々成長していく後輩の将来が楽しみだ。


「……これはヤマユリ、ですかね」

「よく知っているな」

「母がこういうの好きなんですよ。ーー続けますね。

ヤマユリはそのまま山に生える百合という意味で、野生化したものが東日本を中心に本州に分布していると聞きます。大きさはユリの中でも最大級で、丈は2m程の高さになるものもあるのだとか。花自体もご覧の通り大きいです」


「ーーそして、白ユリは『聖母マリアの花』とされているそうです」


 遺体の周囲にも植えられた白いユリの花達を見渡す。

趣味の悪さに、鬼原は鼻を鳴らした。


「事件現場に神聖な花とは。犯人も気が利いているね」


 白ユリがその存在を主張するように、太陽の陽を仰ぎ白く輝いていた。


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