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幕切れ

いつも読んで下さっている方、本当にありがとうございます!

『サイコパス青年に執着されたので、彼を止めることにした』も全50話となりました。恐らく、次回で最終話になります。

メインの話的には今回でほぼほぼ完なのですが、少しだけ入らなかったので次回で最終にしました。

長かったような、短かったような、、、。感慨深いです。

ここまで書けてこれたのも、読んで下さる方、いいねやブックマーク登録してくださった方、そしてありがたいことにレビューしてくださった方がいたからです!

感謝を言い出したらきりがないので、この辺にしておきますね笑

あともう少しですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。(最終話の後書きではご連絡もあるので、ぜひチェックして下さいね!)




 錆びた扉を開く。

倉庫の中へ走りこむ。

乱れた髪が視界の邪魔をした。


「――っっっ!!!!」


 飛び込んできた光景に、目を大きく見開く。

縺れそうになる足を懸命に動かした。


「……椿、さん?」


 響くのは累の声のみ。

目の前にある現実を受け入れることが難しい。


「――どうして……」


 手に花鋏を持ち、胸元から夥しい量の血を流し横たわる椿がいたーー。

累はその場で腰を抜かし、尻もちをつく。


 呆然としていると、にわかに外が騒がしくなった。

そういえば、先ほどからしていたパトカーのサイレンがすぐそこに聞こえる。

倉庫の正面の扉が勢いよく開かれた。


「警察だ!大人しく……」

「――!?」


 天沢の言葉が途中で消える。現場の惨状に、鬼原は大きく目を見開いた。

天沢も状況を把握できず、動きを止めた。

 椅子に括りつけられ意識を失っている木下彩芽、頭から血を流し気絶している國枝元基、血を流し横たわる女性、座って放心状態の糸川累。


「……いったい、なにが」

「――」


 一瞬の沈黙の後、隣にいた鬼原さんが木下彩芽の拘束を解くようにアイコンタクトをし、ゆっくりと糸川さんに近づいていった。天沢は一つ頷くと、木下彩芽に近寄り拘束を解く。それから、数歩離れた先に倒れている國枝の脈を測った。


(大丈夫、生きている)


 手に感じる鼓動に、とりあえずホッと一息つく。

どうしてここに國枝が居るのか。もしかして、國枝が犯人なのか。疑問が残るが、それは彼女、糸川さんに聞くしかない。

 天沢は鬼原と累の方を窺い見た。それから、近くに横たわる女性を見る。


(あちらの方は、きっともうーー)


 木下彩芽が誘拐されたことは糸川さんからの電話で知っていたが、

あの血を流して倒れている女性は……。


 数年前の資料で見た気がする。

確か、女子高生バラバラ遺体の被害者の母親――。



 鬼原が累の肩に触れると、累の瞳が揺れ、ようやく正気に戻る。


「累、なにがあった?」

「――っ」


 鬼原の問いに、累はクシャッと顔を歪めた。

俯き、呟く。


「……私の、せい、だーー」

「えーー?」


 聞き返す鬼原の言葉が遠くに聞こえる。

拳をいくら握り込んでも、痛みなんてまるで感じない。


 なにが自分のために、他人を巻き込みたくない、だーー。


 自分のせいで何人が犠牲になった?

 知らなかった、私がやったんじゃない、じゃ済まされない。


 それくらいの人が犠牲になった。


 清人くんが言った。私のために用意したのだと。それが本当なのだとしたら、今までの『華になった少女達事件』の被害者達も、椿さんも、みんな私のせい……。


 私のせいで、たくさんの人が死んだ……。


「それは、どういう意味――」

「わぁぁぁぁ!!うぁぁああああああ!!!!」


 耳を手で覆い、仰向いて累が慟哭する。

あふれる感情を抑えることができなかった。

鬼原は驚いた顔をした後で、強く累を抱きしめた。


「大丈夫。もう大丈夫だ、累」


 包み込む暖かな感覚に、涙が止まらなくなる。

止めどなく涙が溢れて、このまま干からびてしまうのではないかと思うほど累は泣き叫んだ。

 倉庫には、累の泣く声だけが木霊していた。



 しばらくした後、落ち着いた頃合いを見計らい、鬼原が累に声をかける。


「なにが起きたのか、話してくれるね」

「……」


 累は小さく頷く。

それを見た鬼原が強く頷いた。


 鬼原に支えられて、倉庫の外へ累は移動する。

倉庫の外には、すでに規制線が張られ、外側には人が集まっていた。その中に、春香や怜の姿も見える。

累の様子に違和感を感じた怜が、春香も連れてきたようだった。


「累!!」

「春香、怜……」


 遠くから手を振り心配そうに声を上げる春香。規制線を飛び越える勢いの春香を抑える怜が隣にいた。その怜も、不安気な顔をこちらに向けている。


(椿さんが犯人だったこと、亡くなったこと。

春香が知ったら、悲しむだろうな……)


 詰まってしまいそうな息を、無理に吐き出す。

小さく、肺が痛んだ。

安心させたくて、春香たちに笑顔を向ける。

まだ混乱しているため、うまく笑えているのかわからない。


「ごめんな、累。今はーー」

「わかっています」


 事情聴取が先、なのだろう。

鬼原の言葉に頷いて、累は春香と怜に小さく手だけ振り返す。

自分のことは心配いらない、大丈夫だと。ちゃんと伝わっただろうか。

二人とも、心配性だから……。


 鬼原さんと天沢さんが乗っていた警察車両へ乗り込む。

遠くでは今も不安そうにこちらに何か言っている春香の姿が見える。

昏く沈んだ目をした怜の姿もあった。


「天沢、出してくれ」

「はい」


 鬼原の言葉で車が発進する。

車の外の景色がゆっくりと流れて行く。


 すっかり夜が明けた7月終わりの空は、眩しいくらいの青空で、

凄惨な事件があったとはとても思えないものだった。

後部座席から、青く澄みわたる空を眺めて、累は考えていた。


 椿さんが亡くなったことで、清人くんの証言は完全に取れなくなってしまった。

清人くんが事件に関わった痕跡はなにもない。

これでは調べようにも、材料がなさすぎる。

きっと警察は一連の犯行を、小賀野椿、そして模倣犯として國枝元基を犯人と断定し、『華になった少女達事件』は幕を下ろすのだろう。

 犯人が見つかり、証拠が揃った以上、証拠もない一青年を調べるほど警察も暇ではない。


『僕は捕まるなら累ちゃんがいいな』

『僕を捕まえてごらん。

ーー君は僕の唯一なんだ。君だけが僕のことを見つけてくれた』


 清人の言葉が脳内に再生される。

楽しそうに、本当にゲーム感覚で彼は私と遊ぼうとしている。

他人(ひと)の命をかけてーー。


(元々は自分が撒いた種でもある。

警察が捕まえられないというのならーー)


 膝の上に置いた拳を、累は強く握りしめた。


「――私が、清人くんを捕まえてみせる」


 そのためならば、私は私のこの性質を最大限利用する。

彼に引導を渡すのは、きっと私の役目だから。


 強い眼差しで、累はこの青空の下、どこかに居るであろう清人に宣言した。



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