46.透明な共犯
「……――」
少しばかりの沈黙の後、嬉しそうに清人が手を打った。
「じゃあ、これからは堂々とるいちゃんと遊べるね。
昔は途中で中断しちゃったぶん、今度こそたくさん遊ぼうね」
「………」
爽やかに笑みを浮かべる清人を累は睨む。
「いいえ、清人くんと遊ぶことはもうないわ」
「――?」
清人が面白そうに頬を弛め、続く累の言葉を待っている。
清人を睨んだまま累は言葉を放つ。
「あなたは、捕まる」
「へぇー?」
余裕の笑みを浮かべたままの清人に、少しの苛立ちを抱えながらも言葉を紡いだ。
「椿さんにあなたの事を警察に話してもらう。
椿さんが自供してくれれば、清人くんだって全くの無関係だとは言えないはず」
「……そうだね。実行した正犯ではなくとも、僕にも捜査が及ぶだろうね」
「――椿さんにしたことがわかれば、清人くんは殺人教唆ということになる」
「ふふ、累ちゃん詳しいね。
お父さんの影響かな?」
「……」
遠くの方で、パトカーのサイレンが聞こえる。父は、警察官だった。
口元に手を当て笑う清人を見つめる。
(父が警察だったことを、清人くんは知っているーー?
あの時、お父さんの職業まで話したっけ?)
疑問に思ったが、今はそれよりも共犯の疑いが自分にかかるかもしれないというのに、余裕そうにしている清人の様子が引っかかる。
不思議そうな顔をしている累に、清人は優しく微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫だよ。
教唆煽動するには、明確な指示を出さなければならない。僕はなにも誰かを殺せと言ったわけじゃない。ただ、『娘さんはいるのだ』と教えてあげただけ。この言葉のどこにも、殺しにつながる言葉は含まれていない。その上音声による証拠もないのであれば、その事実すら立証するのは難しいんじゃないかな」
「…………。
――清人くんは……」
そこまで見越した上での犯行、ということなのだろうか。
そうであれば余程タチが悪い。自分の手を汚さず、犯罪を誘導する。
絶対に、許すことはできない。
「だから言ったでしょ。
僕は目的のためなら全てを利用する。僕自身ですら、ね」
目を細め、猫のように滑らかな動きで身体を翻す。
軽い足取りで、清人は数歩踏み出した。
風のようにパッと消えてしまいそうな清人に、引き止めようと累は声をかける。
「なんの罪に問えないのだとしても、椿さんの証言さえあれば
警察は清人くんのことを捜査してくれる。警察だって清人くんが言うような全くの無能じゃない。しっかりと証拠を見つけてくれる」
「……それは楽しみだね。けれど、僕は捕まるなら累ちゃんがいいな」
振り向き、清人はそう言って艶やかに笑った。
パトカーのサイレンが徐々に近づいてくる。もしかしたら、ここにくる途中に会った怜が、心配して鬼原さんに連絡を取ってくれたのかもしれない。
清人の冗談のような発言に眉頭を寄せる。
「からかわないで」
「からかっているわけじゃないんだけどな……」
「……とりあえず、椿さんには清人くんのことを話してもらう」
「いいよ」
変わらず余裕の声を発して、明るくなった空を見上げながら清人は「そういえば」と言葉を続けた。
「でもあの人、大丈夫かなーー?」
「なにが――?」
首をかしげる清人の言葉を反芻する。
椿さんがどうしたと言うのだろうか。
「あの人、今まで心の支えにしてきたものを壊されたんだよね。追い詰められた人間は何をしでかすかわからない……。
彼女は今一人なんでしょーー?
変なこと、考えてないといいけれどーー」
「――っっ!?」
清人の言葉を聞くや否や累は倉庫へと続く扉へと走った。
そういえば、清人を追いかける時、椿は放心状態だった。すぐ戻ると言ったのに、気絶していたのもあり結構経ってしまった。
この場に残す清人のことは気がかりだったが、今はそれよりも椿さんだ。
滴る汗も構わず累は走った。
私事ですが、最近は誕生日があり投稿ちょっと休み休みになったりしました。汗
が、もう最後近いのでラスト駆け抜けたいと思います!