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番外編「パラレルワールド〜天使と悪魔〜」

【七夕〜ヤンデレ企画〜】

今日は七夕ですね!

普通に投稿してもよかったのですが、せっかくなので趣旨をかえて、本編とはまったく関係のないパラレルワールドという設定で番外編を書いてみました!

このお話を読んで下さる方は恐らくヤンデレ好きな方が多いのではないかなーと思い、少し強めのヤンデレ小話です。


ただ、深夜テンションで書いたので、キャラ崩壊等が無理だよという方は見ないほうがよいかもです。

その点ご了承下さい。。

少し長めですが読んで下さると嬉しいです。

〈登場人物〉

■ルイ :糸川累のパラレルワールドver。

     見習い悪魔。悪魔なのに、素直。

     悪魔は人に嫌われる存在なので、それを気にしている。

     悪魔の自分にも唯一優しく接してくれるセイが好き。


■セイ :道言清人のパラレルワールドver。清人の清をとってセイという名前。

     残虐非道な、高位の天使。用意周到系ヤンデレ。

     天使なのに笑顔で人を油断させといて、思い通りに相手を誘導する。

     おっかない。


■國枝元基:パラレルワールドでもあまり変わりません。

      安定の危ない人。ストーカー型。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈本編〉



 どこまでも青い空が広がる。

もくもくと浮かぶ雲は、人間の食べ物でいうところの綿菓子のようだ。


指で雲をつつきながら、濡れ烏のように真っ黒な羽を広げたルイは大きなため息をついた。


「また、怖がられちゃった……」


宙に浮かびながら、黒に染まる自身の羽を恨みがましく見やる。


(悪魔は、人から恐れられ、忌み嫌われる存在、かー)


 昔からの悪魔の教えを思い出す。

ルイは人から悪魔になってまだ日が浅い。悪魔の世界では見習い、といったところだ。

しかし、悪魔は基本的に一人行動なので、見習いといっても特に誰かについているわけでもない。

人間の呼び出しにたまに応じる、というのが今のところのルイのお仕事だった。

悪魔を呼ぶような人間は他人に恨みを持つ人間ばかりで、そういう人間と会っても消耗する一方。


「あー、でも変な人間もいたなー」


 最近召喚された先にいた、國枝という人間のことを思い出した。妙に懐かれた気がするが……。


(あの國枝とかっていう人間はなんか怖かったなー。

悪魔が怖がる、っていうのも人間相手になに思ってんだ、って話だけどーー)


 伸びをして、屋根に寝そべり、羽を休める。

唯一、悪魔であるルイを嫌わずに対等に接してくれる相手といえば……。


「こんなところで、なにをしているんですか?」


 陽光にあたり、キラキラと眩しいくらいに輝く白い羽が、ルイの視界いっぱいに広がった。


「――セイさん」


目をパチクリとさせ、そのダークブラウンの猫毛の髪の青年を見る。

セイと呼ばれた青年は、その綺麗な顔に微笑みを浮かべた。


「お仕事、サボり中ですか?」

「ち、違います!少し休憩しているだけです!」


 ルイは慌てて立ち上がり、セイさんの言葉を否定する。

このセイと呼ばれる青年は、翼の色の通り天使(翼の大きさから恐らくかなりの高位)なのだが、なぜだか悪魔のルイにも優しく接してくれる悪魔にとっても天使のような存在だった。

そんなセイさんにサボっているとは思われたくなくて必死で否定する。その際に、直でご尊顔を拝見してしまい顔を赤らめる。


(微笑みが眩しい……)


一人百面相をしているルイに、セイが不安そうに声をかける。


「最近、変な人間に付きまとわれているそうですが、大丈夫なのですか?」


 まゆをひそめて話すセイに、心配をかけたくなくて手を横に振る。


「ああ、大丈夫です。きっと悪魔が物珍しいんですよ。

その筋の人間、ってわけではなさそうだったんで」


 ルイの言う『その筋の人間』とはつまり、エクソシストなどの悪魔を祓う側の人間を指している。

セイはなおも不安そうに声を潜める。


「ルイさんは素直なので心配なんです。注意してくださいね。

たとえルイさんが悪魔であっても、人間は時になにをしでかすかわからない生き物ですから……」

「ご心配ありがとうございます。

けど、本当に私のことは心配いらないので、セイさんも大船に乗ったつもりで待っていてくださーー」


 ポケットに入っていたアラームが鳴る。

人間からの召喚はこのアラームを通して、該当の悪魔につながる。一度目の召喚はランダムだが、二度目からは召喚内容が変わらない限り同じ悪魔が担当としてつく。


(それにしても、この呼び出しアラーム、慣れない……)


 まさか悪魔の呼び出しがアラームだとは、自分がなってみるまで想像だにしていなかった。昔は使い魔のような生き物が知らせていたらしいのだが、使い魔の激務が問題になり、労働基準的にどうなのだと騒ぎになって廃止されたらしい。

 悪魔の世界の労働も、見直されているんだな……。


 携帯のようにも見えるその機械をポケットから取り出し、画面を見る。

召喚者の名前を見て、げっと顔をしかめた。

 ――國枝、元基。


「例の人間ですか?」

「ははは。まぁ……」


 頭に手をやり答えると、セイが真剣な顔でルイをみる。


「人間だからと油断したらダメですよ。人間ほど狡猾な生き物はいません。

――ルイさんは、優しすぎるんですから」

「だからセイさん、こう見えても私は悪魔ですよ!

大丈夫ですって!!」


 胸を張って大丈夫だと言うルイに、セイはなんともいえない顔で笑った。

ルイは続けて手を振る。いつまでも召喚者を待たせるわけにはいかない。


「じゃ、セイさん、行ってきます!」

「――はい、行ってらっしゃい。ルイさん」


 セイに手を振り、ルイは元気いっぱいに飛び出した。



 が、その元気は長くは続かなかったーー。

召喚者、國枝元基の部屋に来て早々、身が凍る。

國枝は、ルイの姿を見て満面の笑みを浮かべている。


「ああ、ルイ様、よく来てくださいました」

「……これは」


 部屋の壁一面に、紙が貼らせていた。

お札の形をしたそれらが、部屋の壁のあちこちに、ルイを取り囲むように配置されている。

先ほどから悪魔としての力どころか、翼も思うように出せない。

ルイの額に一筋の冷や汗がつたい落ちた。セイの『人間ほど狡猾な生き物はいません』という言葉を思い出した。

國枝が不気味な笑みを浮かべている。


「ちゃんとルイ様が来てくださって、よかったです」

「なんの、マネだーー?」


 虚勢を張って、声をあげる。脅しの意味も込めて、わざと低い声をあげても、國枝には響いていないようだった。むしろ、ルイの反応に嬉しがっている。


「ルイ様、可愛い。

――肩が、震えていますよ」

「――!!」


 右肩を後ろから触られ、反射的にビクッと反応してしまう。しかし、周囲に貼られた札の結界のせいで、手を払いのけることは叶わない。

されるがままになっているルイに、満足そうに國枝が笑う。


「私に、触るな!!」

「――そうやって、虚勢をはるルイ様も可愛い、けど……」


 耳元に國枝の息が掛かる。

全身に鳥肌が立つが、彼から逃れることはできない。


「本当は、嬉しいんでしょ?」

「――っ」


 くすっと笑ったあと、國枝の両手がルイを包み込む。

ルイが動けないのをいいことに、口づけをしてきた。


「――や、やめ、やめてっ」


 拒絶すればするほど興奮するのか、國枝の息が上がり、口づけが深くなる。


「かわいい、可愛いよ。ルイ様」

「い、いや、誰かーー」


 口づけの合間に発する國枝の声が恐ろしくてたまらない。

とうとう堪えきれず、ルイの目から涙がこぼれ落ちた。



ガタンーー。

バキバキ、バタバタバタっーー。


「う、うわぁっ!!!」


 大きなもの音の後、あれだけあったお札が一斉に割れだす。

最後の一つが地面に落ちた時、その場に大きな白い翼を広げた、神々しい天使が現れた。


「……セイ、さん?」


 いつもは優しげな笑みを浮かべていた顔に、表情はない。なんの感情も持たない顔で、こちらを見る。

ルイは國枝に抱かれている状態で固まっていた。その様子を見た瞬間、何かが切れる音がした。


「――っ」

「――!!!?」


 國枝の体が後方に吹っ飛んだ。体を壁に打ち付け、國枝がうめき声をあげる。セイはそんな國枝に近づき、――天使の力でどうとでもできるはずなのにーー拳を高く振り上げた。


「がっーー!

ごっーー!!」


 なんどもなんどもセイが國枝を殴る。國枝の顔が徐々に腫れ上がる。顔だけでは飽き足らず、國枝の腹を何度も何度も蹴り上げる。


(せ、セイ、さんーー?)


 声を発することができない。もう結界は切れているはずなのに、ルイは縫い付けられたようにその場を動けずにいた。


こんな、セイさん見たことない。

こんな、セイさんは、知らないーー。


 自分の知っているセイさんではないような気がして、うまく脳が処理できない。


「――ごふっ」


 國枝が血反吐を吐く。

それを最後に、鈍く響いていたうめき声が聞こえなくなった。

しかし、それでもセイは殴るのを止めない。セイの綺麗な顔に血が飛び散っている。いつしか、その美しい白い翼が赤く染まっていた。圧倒的な暴力で、一方的に蹂躙するその姿に、ようやくルイは我にかえる。


「……やめて。

セイさん、やめて」


ゴッ、ゴッ、ゴッーーー。


「やめて!!!」


 一定のリズムで殴り続けていたその手が、ようやく止まる。

ゆっくりとした動きでセイが振り返った。恍惚としたその目をルイに向ける。


「ああ、ルイさん。

――無事、ですか?」

「私は大丈夫です。だからもうやめて」


 肉の塊となった國枝を、セイが見下す。


「こいつは、ルイさんをーー」


 再び手をあげるのを、ルイが抱きとめる。彼の頭を胸に搔き抱いて、セイを止める。


「こんなのセイさんらしくない。お願いします、セイさん!

目を覚ましてください!!!」


 血で汚れた彼を放ってはおけない。


「ぼ、僕は一体、なにをーー」


 我に返ったセイが國枝を見て発狂する。そんなセイをルイは抱きしめた。


「セイさん、ごめんなさい。

セイさんがこんなことをしてしまったのは私のせいなんです。私のせいだからーー。

セイさんは、何も悪くない!!」


 

 ――数日後。

 天使であるセイが人間の男を殺したことは問題となったが、高位の天使であったこと、またその國枝という男が罪人であったことがわかり、罰を与えたという風に捉えられ、セイさんはなんとか堕天せずに済んだ。しかしーー。


「セイ、さん。私のせいで………」

「そんな、たいしたことないですよ。

それよりも、ルイさんが無事でよかった」


 あんなにも綺麗だったセイさんの方翼が失われてしまった。

責任を感じたルイはあれからずっとセイのそばにいる。


「私が不自由な部分をサポートするので!」

「そんないいのに。……でもありがとう」

「はい!」


 献身的なルイに、セイが微笑む。


(いつもの、セイさんだ……)


よく知るセイの柔らかな表情に、ルイはホッと息をついた。



+++++



「――あれ、寝ちゃった?

おーい、ルイさーん」


 張り詰めていた緊張が解けたのか、セイの肩に頭を預けてルイが眠っていた。そんな彼女の頭をそっと撫でる。


「ダメだよ。悪魔のクセにそんなに素直じゃ……」


 寝息を立てるルイを見て、顔に笑みを浮かべる。

想像よりもことがうまく運び、今この時もそばについてくれている彼女に心が弾む。先ほどから、弛んでしまいそうになる表情を引き締めるのが大変だった。


 彼女に心惹かれた瞬間から、どうやって手に入れるか、ずっと考えていた。悪魔と天使という立場上、ルイはセイのそばにずっとはいられない。では、彼女を引き留めるためには、彼女の興味を引くためにはどうしたらいいのか……。


 彼女につきまとっていた國枝を利用するのは、我ながらいい案だった。事前に罪人であるということは調べ済みだったし。

 ただ、國枝が彼女に口づけをしたことは予想外だった。思わず本気で我を忘れてしまった……。


 先日のことを思いながら、空を眺める。

あの時のことを思い出して、少しムシャクシャした。

彼女が何処かへ行ってしまうのではないか、そんな不安に駆られたのだーー。


安らかに眠るルイの顔を眺める。

その背中にある真っ黒な翼に、そっと手を触れた。


「この羽をもいでしまえば、

君はもう二度と飛べなくなるのかなーー?」


 そうなったら、ずっと僕のそばに置いておけるのにーー。


 仄暗い感情に、そっと蓋をする。


ルイがそばにいてくれる間は、これでいい。

けれど、彼女が自分から離れていくというのなら、その時はーー。

 

 なにも知らないルイの体温を肩に感じ、目を細める。


 感情を持たない天使だと言われていた自分が、彼女に会って心を持つようになってしまった。感情なんて鬱陶しいものだと、感情のままに行動し失敗を繰り返す人間は愚かだと、そう思っていたのにーー。

自分がその立場になっている、なんて笑ってしまう。

しかしそれは、悪い気分ではなかった。


 セイは弾む気分のまま、真っ青な空を眺めた。



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