34.あなたは、ダレ?
累と椿の間に割って入ったのは、猫毛の髪を靡かせた、白いシャツと黒のパンツ姿の道言清人だった。
突然の彼の登場に、累は目を白黒させて清人を見つめる。
「……道言さん」
「……」
累の呟きに、清人はちらりと顔を向けると、何を思っているのかわからない微笑みを浮かべた。
それから、先程突き飛ばした椿に視線を戻し、冷ややかな声を発する。
「やめてくれないかな。
勝手にやってくれる分にはいいけど、自分の獲物を盗られるのは我慢ならないんだよね」
腰に手を当て、苛立たしげに眉を顰める。相手を嘲り見下すその視線は、いつもの柔和な笑みとはほど遠い。
どこまでも冷え切ったその瞳に、累の身体は冷えた。
(獲物、ってーー?)
「……道言、さん?」
「あの子はそこにいるの!あなたがそう言ったんじゃない!!」
累の声は、身を引き裂かれそうな椿の言葉に掻き消された。椿は累を指差し、清人に叫ぶ。
「どいて!ワタシはあの子を、サクラを迎えにいかないといけないのよ!」
金切り声を発する椿に、清人がため息をついて小さな声でこぼした。
「……ああ、面倒臭いな。効きすぎたかなーー」
「――??」
清人の言葉の意味がわからず、累の頭は混乱する。
混乱の原因はその発言だけではなく、二人のやりとりにあった。
道言さんと椿さんは、知り合い、なのーー?
自分の抱えている悩みを全て打ち明け、話を聞いてくれた、心を開くことのできた相手。道言さんは、自分の性質を気にせずに済み、むしろ共感してくれた初めてで唯一の相手だった。そんな彼が、『華になった少女達事件』の犯人であろう椿と知り合いだったことの衝撃が大きい。
これほどまでに、自分の身近にいた人が事件に関わっていることに、ショックを隠せない。
心が軋む音がしたーー。
なんども、そして今も自分を助けてくれた恩人なのに、どうしても清人を疑う気持ちが首をもたげてしまう。
疑いたくはないが、否定しきれていない自分が頭の中にいた。
道言さんは私を助けにきてくれたんだ。そんな人を疑う、なんてーー。
しかし、道言さんはどうしてこの場所がわかったのだろう。
私の身が危険なのだと、どうしてわかったのだろう。
先ほどのやり取りが頭をかすめる。
『あなたがそう言ったんじゃない!!』
『効きすぎたかなーー』
この言葉の意味することは、一体――。
その場に尻餅をついた状態のまま、椿に対峙している清人の横顔を見上げる。
暗い倉庫内、外の明かりによる逆光で、清人の顔には影が降り、その顔をよく確認することはできなかった。いつの間にか、外は僅かに白んできている。
「あなたはいったい……」
――あなたは、誰?
最後まで口にするのが憚られ、最後の言葉は心の中で呟く。
椿と相対している清人は気づいていないだろうが、それでも口にせずにはいられなかった。
累が複雑な心境でいる中、清人と相対する椿がヒートアップする。
頭を押さえて、激しい痛みに呻く。綺麗だった髪をぐしゃぐしゃにして、椿が全てを否定するように下を向き叫ぶ。
「うるさい、うるさい、煩い、ウルサイ!
あの子はいる、そこにいるの!」
髪を振り乱し、涙を浮かべた椿が顔を上げる。鋭い視線でこちらを睨みつけた。
「誰も……。ダレも邪魔しないで!!」
「――っ!」
話の終わりが近づいてきたので、
展開にめちゃくちゃ頭悩ませています。(ーー;)