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2.猟奇殺人事件とストーカー



「らららら〜ララ」


「深い夜空に浮かぶ 星のように散りばめて、

あの子の好きな真っ赤なお花を飾りましょ〜」


「どう?」


「・・・・・・」


「そう?良かった」


 大きく手を広げて、暗く濃い空の色を仰ぎ見る。

 重い雲に阻まれ、そこにいるであろう星たちの姿を見ることは叶わない。


 それでもいいーー。


 ここにあの子がいてくれる。それだけで心が満たされていた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++



『華になった少女たち事件に関する速報が入ってきました。四件目は富山県砺波市のチューリップ公園です。5月にはチューリップを見に多くの人が訪れる公園で事件が発生しました。前回までの三件と同様に、遺体には頭部がなく、首に花が植えられた状態で発見されていたとのことです』


 テレビに映っている報道キャスターのお姉さんが、今世間で騒がれている異常な事件の速報を話している。事件の猟奇性から、近頃のワイドショーはこの話で持ちきりだった。


「コワコワ〜。

この事件やばいよね。いまだに頭見つかってないらしいし、そのせいで身元の判明が遅れてるって聞いたよ〜」


 小型のTVの前で我が家のように振る舞う春香に苦笑する。

 親しき仲にも礼儀ありとはいうが、幼馴染みならではのこの距離感が心地よくもある。


「お前はまた人の家で勝手にーー」


 リモコンを占拠している春香に、リモコンを取り上げようとする怜。二人のいつもの様子に自然と笑みが溢れる。


「最近は立て続けだね。一件目と二件目の間は一ヶ月半くらい空いてなかったっけ?」


 一件目と二件目の間は一ヶ月半、二件目と三件目の間は一ヶ月、四件目の今回に至っては三週間も空いていないはずだ。

 春香が閃いたと言うように指を立てる。


「あれじゃない?止まらなくなっちゃうんじゃない?

ーーあ、それで思い出したんだけど」


 それで思い出すとは?と思いながらも、話がコロコロと変わる幼馴染みを伺うと、彼女はにっこりと微笑んだ。


「あたし、華道習うことにしたー!いえーい!」

「「………」」


 二人分の沈黙が流れる。


 あれだ。絶対、「華になった少女たち事件」に影響されてだ。

 今回の事件がこれだけ注目を浴びている原因は事件の猟奇性の他に、そのアート性が話題になったからだった。残虐な殺し方なのに、切断された手足が花のように遺体の周囲に飾られていたり、満開の桜が咲き誇る樹々の真ん中に遺体が彫刻のように設置されていたり。大変不謹慎なことだが、ネットではファンクラブもできている、らしい……。


「春香、お前不謹慎……」


 怜の声が呆れている。


「えー、周りでも最近お花習い始めた子、結構いるよー」

「へー」


 口を尖らせて不満を言う春香に怜は適当な相槌を打っている。ややミーハーな春香は流行りと聞けば手を出さずにはいられないところがある。


「でも、生け花自体は私もいいと思うよ。家にお花が置いてあるだけで華やぐだろうし」

「だよね!やっぱりあたしの味方は累だけだよー」


 抱きついてきた春香を受け止め笑う。こういう誰に対してもオープンな性格の春香に、私は助けられることが多い。


「どーせ、俺は敵ですよ」


 今度は、そっぽを向いた怜が口を尖らせていた。


「あれ、拗ねてる?累、怜が拗ねた!」

「ふふ、ほんとだ。拗ねてるねー」


 そう言って誰からともなく笑い出す。

 こういう何気ない時間が愛おしい。このまま、変わらぬ三人のままいられたら、これほど無敵なものはないのにーー。



 一通り笑い終わった後、春香がふと神妙な顔になった。


「あ、あのさ。累――」

「なに?」


 言いにくそうに春香が開いた口を閉じる。その後を、真面目な顔をした怜が引き継いだ。


「前に話してたストーカー、大丈夫なのか?」


 二人が家に来た理由を理解する。初めからそのことを心配して二人は来てくれたんだ。

急にいけばなを習い始めたと春香が言ったのは、場を和ませようとしてくれたからなんだろう。


「う、うん。最近は二人がよく家に来てくれるようになったから、特になにも」

「そっか。よかったー!」


 ほっと胸をなで下ろして春香が伸びをする。一方で、怜の表情は浮かないものだった。


「よくはないだろ。犯人が見つかった訳じゃないんだから」

 

 ぴしゃりと放たれた怜の言葉に、伸びをしていた春香の動きが止まる。


「……それもそっか。そうだよね。

 後つけられたり、差出人のわからない手紙やプレゼントが郵便受けに入ってたりしたんだもんね。そんなの、普通じゃない……」



 春香の言葉に、詳細なデート内容が書かれた、妄想の内容の手紙があったことを思い出す。手紙に書かれていた場所は、どこも実際に累が直近で訪れたことのある場所だった。

 その上、『わかっているよ。君もボクのことを好きなんだろう?』という内容の手紙とともに指輪が贈られてきた時は、叫び出しそうなくらい怖かった。


 けれど相談して以降、二人がひっきりなしに我が家を訪れるようになってからは、これといった被害は受けていない。春香は電力会社の営業、怜はエンジニアでフリーランス。どちらも忙しいはずなのに、それでも交互または二人で毎日のように家に来てくれる。

 こんなに心強いことはない。


 項垂れる春香に、累は笑顔を浮かべた。


「本当に今はなんともないから!」


 大丈夫だと言う累に春香が食い下がる。

強い瞳の春香が、累の手をぎゅっと握った。


「やっぱり警察に相談しよ。――そっちの方が絶対安全だよ」

「それは俺も賛成」


 あとは累の承諾だけだ、と二人の視線が集まる。

 私だって警察に相談することが一番だっていうのはわかる。

 けど……。


「ごめん、それはできない」


 きっぱりと断る。まだ物言いたげな目の二人に、再三言っている言葉を返す。


「二人が心配してくれているのはわかる。有難いし、その点に関しては本当に感謝してる」

「なら……」

「でも、警察はダメ」


ようやく、少しだけですが事件に関して触れられました〜。

次か、次々くらいからはがっつりと事件絡んでいきますので楽しんで頂けたら幸いです。

そして雪ん子の首がしまっていく(事件の詳細、これからちゃんと詰めていきます、、、)。

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