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22.第6の事件?



 想像していなかった人物の登場に、累はあっけにとられる。

目を瞬かせていると、鬼原が目尻を吊り上げ声を張り上げた。


「そんな目に遭っていながら、なぜわたしに相談をしない!

これでもわたしは、君たち姉弟の保護者だ!!」

「……鬼原さん」


 長く艶やかな黒髪を逆立てて怒る鬼原を見つめる。ここまで鬼原さんが怒っている姿を見るのは珍しい。

 迫力に押されつつも名前を呟くと、その強い眼差しが切なげに揺れた。


「――そんなにもわたしは信用がないか?

君たちの力には、なれないのか?」

「――!」


 鬼原の視線と言葉にハッとする。

負担をかけたくないからと話さないことはつまり、鬼原さんのことを信用していないと言っているようなものだった。

本当はそうでなくとも、鬼原さんに悲しい顔をさせてしまったのは、私だーー。

 

「鬼原さんのことは信頼しています!

大切な恩人だと思っています!!だからこそーーっ」


 握った拳の中で爪が皮膚に食い込む。

その痛みすら、今はなんでもないことのように思えた。


「鬼原さんのことを考えると、余計に……」


 俯いた拍子に水滴が滴り落ちた。

随分としょっぱい水だ。鼻の奥が微かに痛んだ。


「他人だった私と楓を引き取って、育ててくれて。

それだけでもありがたくて、嬉しくて……。

だから、そんな鬼原さんに――迷惑なんて、かけたくなかったから……」


 言葉が進むにつれ小さくなる。

累は思わず顔を手で覆い呟いた。


 俯く累の頭に、ため息が落ちてくる。

恐る恐る見上げると、優しく目を細めた鬼原の姿が見えた。


「ほんっとうに。バカだな、累はーー」

「……バカってーー」


 片手をやれやれと上にあげた鬼原が目をつむり続ける。


「まぁ、捜査が忙しくて君たちのことをよく見られていなかったのも事実だしな。

けど、もっと頼ってくれていいんだ」


 目と鼻を赤くさせた累に、

腰に手を当てた鬼原が微笑んだ。


「血は繋がっていないが、わたしは君たちを家族同然に思っているよ」

「……っ。黙ってて、ごめん、なさいーー」

「――おう!これからはちゃんと言うように」


 昔のように、髪をくしゃくしゃにして頭を撫でられる。

二人して顔を突き合わせて笑った。鬼原さんとこんなふうに笑いあうのはいつぶりだろうか、と累は心が温まるのを感じた。

 鬼原と累のやりとりが落ち着いてから、今まで静かに黙って聞いていた武蔵と天沢が声を上げる。


「――そういうのは、他所でやってくれ」

「いいじゃないですか。こういうのも、たまには」


 いつも殺伐とした事件や人間を相手にしているんですから、と言う天沢に、武蔵がふんっと鼻を鳴らす。


 和やかな空気が室内を満たす中、

天沢の胸元の携帯が鳴った。


「――ちょっと、失礼します」


 天沢が携帯を片手に、応接室を出る。

どうしたんだろう、と天沢が消えた方を目で追っていると、累の頭に手を置いた鬼原が口を開いた。


「――わたしこそごめんな、気付いてやれなくて」

「ううん!鬼原さんのせいじゃないから」

「なにか、他に気になっていることはないか?」

「……」


 道言さんの姿が浮かんだ。

事件には全く関係のないことだけれど、私の特性も知っている鬼原さんには話しておこう。

そう思い、累は口を開いた。


「そんな大したことではないんですけど。

さっき話していた、昨日私を助けてくれた男の人……」

「――ん?」


 首を傾げて先を促す鬼原に、累は続けた。


「感情が、読めない人だったんです」

「へー、累がか?

それは珍しいな。その男の名前はなんていうんだ?」

「彼の名前は、道言……」


「――鬼原さん!!」


 累の言葉は、応接室に駆け込む天沢の声にかき消された。

天沢の手には、先ほどかかってきていた携帯が握られている。


「武蔵さんも。

――お二人とも、これを見てください!!」


 鬼原と武蔵は機敏な動きで天沢に駆け寄る。先ほどまでののどかな雰囲気はどこかへ消えてしまっていた。


「これはーー」


 鬼原が目を見開いて、天沢の手元の携帯の画面を見つめる。

武蔵が低く唸り声をあげた。



 画面は暗がりでの撮影なのか、全体的に黒く見えにくい。

しかし、画面いっぱいに広がる異様な光景と、中心近くにある赤い花が存在感を示していた。


――本日昼過ぎ、会社近くのゴミ処理場にて、加藤慎二の遺体が発見された。

遺体は頭部が切り取られ、首部分には真っ赤なバラが刺さっていた。



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