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21.お話しします



「……帰り道、横断歩道の信号を待っていたら、背中を押されたんです」

「ーーえ!大丈夫なんですか!?」


 驚いた声を上げる天沢を武蔵が制する。


「大丈夫です。押されたすぐ後に、助けていただいたので」

「お知り合いに、ですか?」

「……はい」


 優しく微笑む清人の顔が思い浮かぶ。本当に話してしまってもいいのだろうか、と思うも話し出してしまったものはもう止められない。


「以前、百合野天満宮で出会った男性がいて、その方に助けてもらったんです」

「百合野天満宮……。『華になった少女達事件』の5件目の現場ですね」

「あの時、ですかーー」


 百合野天満宮、という単語に刑事二人が敏感に反応する。彼等が追っている事件の現場だ、過敏になるのもわかる。


「でも、怪しいっていうわけではなくて、ただ……」

「ただーー?」


 急に黙り込む累に、武蔵が怪訝な顔をする。


(はじめて会った、感情の読めない相手)


 しかし、この事実は事件には関係ない。それに、きっとわかってはもらえないだろうーー。

どう表現しようか悩みつつも言葉を濁した。


「人混みに酔って休んでいたら、彼が心配して声をかけてくださったんです」

「…………ナンパ」


 小さく呟く天沢の発言に、武蔵が頭を叩いた。

空気を軽くしようとして失敗する天沢に、苦笑する。

 累は清人とはじめて出会った日のことを思い出していた。


 (そういえば、感情が読めないだけじゃなく、道言さんとの出会いは印象的だったーー)


 アブラゼミの鳴き声が響く境内。

鬱蒼と木々が立ち並び、そのせいで薄暗くなっている神社の奥社から道言さんが現れた。


 (ん?奥社……)


「糸川さん、どうかしたんですか?」


 訝しげに尋ねる武蔵の声で我にかえる。

なにか引っかかった気がしたが、今はそれよりも説明が先だ。


「その方と偶然会いまして、助けられたんです」

「――偶然ねぇ。その彼が背中を押したってことは?」

「それはありえないです!!」


 揶揄うような武蔵の発言に、思わず大きな声が出る。助けてくれた相手を侮辱されたくない。


「背中を押した本人が助けるなんて、矛盾しています!」

「――うむ、それはそうだな」


 累が怒って言い放つと、それには武蔵も降参のポーズをとった。

 道言さんは私の話を真摯に聞いてくれたのだ。背中を押されたことはもちろん、事件に遭遇するようになったことや会社であったこと、それからーー。


「――あ」

「?どうかしました?」

 

 あのことに関しても、道言さんには話した。

声を漏らした累に、天沢が不思議そうに目を凝らして問う。

華になった少女達事件など大きな事件が続いたせいで、意識の隅に追いやられていたことが脳内に浮かび上がる。

なぜそれが今まで頭から抜け落ちていたのか、そっちの方が不思議だった。


「――ストーカーの、仕業かもしれません……」

「ストーカー?」


 武蔵がオウム返しに問う。

鬼原さんに心配や負担をかけたくなくて、今までストーカー被害のことは黙っていた。しかし、現状もうすでに負担をかけてしまっている、それどころか話さない方がかえって鬼原の立場を悪くしてしまう可能性の方が高い。

 覚悟を決めて、累は口を開いた。


「……実は、春頃からストーカーに遭っているんです」

「ーーえぇ?」

「春といえば、ちょうど華になった少女たち事件が発生したタイミングですね」


 武蔵が顎に手を当てて呟く。

天沢が心配そうに累の顔色を伺った。


「大丈夫なんですか?

警察へ相談は??」

「今のところ大丈夫です。

……警察へは、まだーー」


 笑ってごまかそうとするも、天沢の真剣な眼差しに何も言えなくなり、失敗に終わる。

天沢が抑えきれずといったように、熱のこもった声を上げた。


「どうして、警察へ相談しないんです?

事件に発展していないからと甘く見てはいけません!

ストーカーは放置すればエスカレートする可能性が高い。

……たしかに、事件化していないストーカーに対して警察がしてあげられることは少ないかもしれません。それでも、何もしらせないよりマシです」

「……」


 正論に、何も言えなくなる。

まだなにか言いたげな天沢を止めると、武蔵は累に具体的な被害の状況を聞いてくる。


「どのような被害に遭われましたか?それは今でも?」

「最近は、友人が頻繁に様子を見にきてくれるようになったので、特にはーー。

被害、は……」


 手紙が毎日のように送られてきていたことや、指輪の贈り物があったこと。盗撮と思しき写真が大量に送られてきたことを話す。

 話が進むにつれ、天沢と武蔵の顔色が変わっていった。


「どうして今まで……」


――バンっ。


 けたたましい音を立てて、応接室の扉が開かれる。

鬼の形相をした鬼原さんが、そこにはいた。


「なぜ、もっと早く言わない!!!」

「………鬼原、さん」



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