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19.容疑者



 これでは肯定しているように見えてしまう。しかし、焦れば焦るほど言葉が出ない。冷や汗だけがどっと出てきて、鼓動がうるさい。

 視界が遠ざかりそうになったとき、凛とした声が武蔵の尋問を遮った。


「武蔵先輩、そんな怖い顔で問い詰められちゃ、なにも答えられないですよ」

「……鬼原」


 間に入った鬼原はまぁまぁ、と武蔵をなだめた。

それから、と体を後ろに捻って、オフィスにいる全員に声をかける。


「詳しいことは個別でお聞きしますので。

自分の番が来るまでは、いつも通り、仕事をしていてくださーい」


 鬼原の軽い口調に、今まで緊張していたオフィス内が、微かに弛緩するのがわかる。

累は握りしめていた拳をほどき、ホッと胸をなでおろす。武蔵の背中を押していた鬼原が顔だけこちらに向け、小さく笑った。

 その不敵な笑みに、累は心底感謝した。



 

「鬼原さん、あの子って……」


 小さく囁く、天沢に思わず苦々しい顔になる。


「ああーー」


 なぜ、よりによって、あの子のいる会社なのかーー。


「……先程の女性が言っていたことってーー」

「累はそんなことはしないよ」


 きっぱりと言い切る鬼原に、律は二の句が継げなくなる。

 困惑した顔で小さく呟く。


「でも、こんなに立て続けに彼女の周囲で事件が起こるなんて、そんなことーー」


 あるのでしょうか、と律が言い終える前に鬼原が手を掲げて制止する。


「お前まで、あの子を疑うのか?」

「……疑うのが、刑事の仕事なので。

ーーそれに、犯人と通じていた場合、僕は犯罪者を許せない」

「……」


 律の強い口調にため息が出そうになる。

社内の暗い廊下の隅に、身を潜める闇があった。




 ドキドキしながら、自分の番を待つ。

とてもじゃないが、仕事に集中できそうにない。

キーボードを打ちエクセルへ入力しながらも、頭の中は先程のことと、自分の事情聴取のことでいっぱいだった。


 さっきのあれは、まずかったよねーー。


 すぐに返答できなかったことが悔やまれる。

確実に疑われた。

 まさか木下さんがあんな風に言ってくるとは思わず、つい反応が遅れた。

みんなの視線が集まっているということもあって、言葉が出てこなかった。


「はぁーー」


 思わずため息をつく。肩を落としていると、男性警察官が一人オフィス内にやって来た。


「次、糸川さん、どうぞ」


 オフィス内の社員の視線が累に集まる。その視線から逃れるように、デスクから立ち、早足でその警察官の元へと向かった。


 デジャブ……。


 そう思いながら扉の前に立つ。

あの神社の事件のときも、確かこんな風に扉の前でドキドキしていた。

こんなデジャブはいやだな、と思いながらドアノブを握る。

 

(大丈夫、私はなにもやっていないもの)


 心を決めて前に進む。


(以前は扉を開けると、鬼原さんの顔が見えて心底安心したっけ)


 今回もいるであろう顔を思い浮かべて、累は勇気をもらった。




「ーー……」


 扉を開け、見えた顔ぶれに身体がピタっと止まる。

てっきり鬼原がいるだろうと思っていた場所には、先程の高圧的な年配の警察官と、前に一度会った天沢という若い警察官の二人だけだった。


「――どうぞ」

「あ、はい……」


 天沢に声をかけられて、席につく。

浅く腰掛けると、天沢が微笑んだ。


「こんにちは、糸川さん。

あれからお変わりないですか?」

「はい……」


 天沢に返事をするも、その隣で腕を組み目をギュッと閉じて聞いている武蔵が気になって仕方がない。


 天沢さんは、鬼原さんのパートナーだったはずだ。

それなのに、どうして鬼原さんがいないのだろうーー。


「はじめに簡単にご挨拶だけ。

僕はーー以前お会いしたのでわかりますね、天沢です。そしてこちらが、武蔵さーー」

「――挨拶はそれくらいで、お話、お聞きできますかね?」


 天沢が言い終わる前に食い気味で、閉じていた目を開いた武蔵が質問する。疑っていることを隠さないその物言いに、思わず俯く。犯罪者を見ているような鋭い視線が怖かった。

 一つだけ聞きたい、と累は震える声をあげた。


「あの、鬼原さんはーー」

「あなた、鬼原の身内なんですよね?

ーー鬼原には、外れてもらいましたよ」

「え?」

「身内だとどうしても、捜査に支障をきたしてしまう。それを防ぐためです」

「そんなーー」


 もしかして、私が鬼原さんの足を引っ張っているのだろうかーー。


 その事実に思考がたどり着き、泣きたくなる。

心配や、負担をかけたくないと言っておきながら、自分はなにをやっているのか。



「ーー先程、木下彩芽さんが仰られていたことは、事実ですか?」

「えーー?」


 鋭い視線を弱めることなく、武蔵は訊いた。




読んでくださっている方、いつもありがとうございます!

いいねや評価、ブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます!

すごくモチベーションになっております。

少しでもいいな、と思っていただいた方はチョチョイと押していただくと、私の執筆スピードが上がりますので、ぜひよろしくお願いします。笑

もうすぐ20話なので、お礼を述べさせていただきたい、と思い後書きにて失礼しました。

お話はまだ続きますので、(暗い話ですが)読んで面白いと思っていただけたら嬉しいです(*´ー`*)

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