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18.疑いの眼差し



「いや、それが昨日から家に帰ってないって。連絡も繋がらないまま朝になって、流石におかしいってことで家族が警察に通報したらしいよ」

「……それ、誰が行方不明なの?」

「あー、それねーー」


話していた女性社員の一人の視線が累の方を見る。視線が合うとすぐにそらされた。


「あ、まさか、加藤かとう次長?」


もう片方の女性がはっと口に手を当てて指摘する。その声に、先ほど累を見ていた女性社員が頷いた。

聞こえていた累も目を見張る。

どういうことなのか、わけがわからない。


累がパニックになっている間も女性社員の話は続く。

探偵よろしく、目を鋭く光らせた。


「そう!――なんかさ、タイミング良すぎない?」

「ん、なにが?」

「だーかーら!次長に恨みのある人間といえばーー」

「……え、うそ。まさかそういうこと!?」


累は漏れ聞こえてくるその会話に青ざめた。


(もしかして私、疑われてる?)



黒いスーツを纏った人達が数人、オフィスの入り口に現れたのが累の席から見えた。

その中の一人が胸元から黒い手帳を取り出す。


「お仕事中にすみません。県警刑事部捜査一課の武蔵むさしです。

現在行方不明になっているこちらの社員の加藤さんのことに関して、お話を伺いにきました。ご協力をよろしくお願いします」


年配の精悍な顔をした刑事さんがよく通る声で話す。オフィス内は奇妙な静寂に包まれた。

ついで、会社の管理部の中年男性が、少し緊張感のある声色で続ける。


「ということですので、皆さん、順次警察の方に呼ばれるかと思います。

自分の番が来ましたら、応接室に来てください」


 いつもはもっとハキハキした話し方の男性は、今日ばかりは言葉に戸惑いが感じられる。

 

 少し遅れて、二人の警察官が慌てて一行に混ざっていた。先ほどの年配の刑事さんがやや渋い顔をしている。慣れたように笑って一行に加わる見慣れた姿に、累は絶句する。


(鬼原さんーー)


 捜査一課で、『華になった少女達事件』を担当していると話していた鬼原がここにいる。

ということはーー。


(もしかして、華になった少女達事件に関係しているの?)


 微かな可能性を心の中で呟く。

その考えに至ってからは、そうとしか思えなくなる。

だって、ただの行方不明に捜査一課が出てくるとは思えない。


 初めはTVの中だけだ、自分には関係がないと思っていた事件が、自分の身近に、それも連続して遭遇している事実に冷や汗が出た。

 なにかとてつもないものが迫り来る感覚。恐怖に手が震えた。



 唐突に、甲高い声が言葉を放った。


「……糸川さんが、なにか知っているんじゃないかしら?」


 わざとみんなに聞こえる声量で言う彩芽の声がオフィス内に響いた。

一斉に集まる視線に、累は固まった。仲間内で話していた警察官も、話を中断し、こちらを見ている。急なことに、なにも反論できないでいると、彩芽は困った顔をしなおも続ける。


「同じ会社の同僚だもの、疑いたくはないけれど……」


 口に手を当て少し間を開ける彩芽に、先ほどの精悍な顔をした年配警察官、武蔵が促す。


「なにか、あったのですか?」

「ええーー」


 ちらりと累を見て、彩芽は饒舌に続ける。


「つい昨日のことです。

そこの糸川さんが、仕事でミスをしてしまって、そのことで酷く怒られていたんです」

「怒られるくらい……」

「昨日だけでなく、糸川さんは加藤次長に目をつけられていたようで、何度も何度も叱責されていました」


 警察の言葉に食いつく勢いで、なおも彩芽が続ける。


「それに、アタシ見たんです!

糸川さんが恨みがましそうに次長を見ているところ。

……あの時の糸川さんの目は、とても恐ろしくてーー」

「――え」


 彩芽の言っていることがわからず、声が漏れる。

確かに叱責はされたが、次長のことを恨みがましく見たことはない。憂鬱な目で見ていたことはあるかもしれないが、そんな目で次長を見たことはなかった。


「あなたは日々叱責されていたんですか?」

「……」


 叱責はされていた。しかし、恨みがましい目で見たことはない。

しかし、高圧的な雰囲気のある刑事さんの問いに、早く否定しなくてはいけないのに、喉になにかが張り付いたようになにも言えなくなる。


「――どうなんですか?」

「――っ。あ、あの……」


詰問するような口調に、手を強く握る。孤独感、味方がいない感覚。

信じると言ってくれた國枝は、今日は有給でお休みのようだった。



(はやく、なにか言わないと……)




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