11.生け花教室
後日、春香からLINEがきた。
先日はあんなふうにお開きになったため、仕切り直そうといった内容だった。始めは行こうか悩んだが、春香の「前はあんな解散の仕方だったし……。ね、いこ!」という圧に押され、オーケーした。
行き先は生け花教室だ。
春香が最近習い始めたという生け花教室に、体験に行くことになった。また、今回怜は諸用が入ったということで欠席。累と春香の二人だけだ。
先生の自宅兼教室らしく、場所は住宅街だった。教室は比較的駅の近くにあるらしい。
といっても、田舎の比較的基準なので、少し歩くことになるのだが……。最寄り駅から先生の家に続く道を春香の案内で歩く。脇に公園があるのが見えた。夏の暑さなど何処吹く風といった様子の小学生たちが公園で遊んでいる。公園にある木製の椅子は、ちょうど木陰の位置にあり涼しそうだ。子供は元気だなー、そう思いながら容赦ない日差しの中を進む。その道すがら、目を輝かせた春香が嬉々として生け花の先生の魅力について語った。
「すっごい素敵な、優雅な感じの先生なの!!物腰も柔らかで、優しくて、教え方もすごく上手。
累も会えばすぐ好きになると思うよ!」
「凄い人なんだね。春香は本当にその先生が好きなんだね」
「うん!」
まるで自分が褒められたかのように喜ぶ春香に、笑みが浮かぶ。
ここまで春香が褒めちぎる相手はいったいどんな人なのだろうか。そう思うと早く行きたい衝動に駆られた。
閑静な住宅街を少し歩いたところに、一軒の家が現れる。
すぐにこの家が生け花教室だとわかった。
「すごい……」
思わず感嘆の声を漏らした。
「でしょ?」
なぜか自分ごとのように、春香が得意げになる。
思わず頷いた。
家を取り囲むように様々な花が置かれていた。すごい量のガーデニングだ。ピンク色の可愛らしいタチアオイ、優雅なラベンダー、夏といえばなヒマワリやアサガオの花もあった。中には蕾や、まだなにも咲いていない緑の葉だけのものもある。中庭に植えられたゴーヤの葉は日よけのようにつたを伸ばしていて、夏でも涼しげだった。
春香が早速インターホンを鳴らす。
「せーんせーい。こんにちは〜大林春香です!」
「ああ、いらっしゃい。どうぞ上がって」
凛とした涼やかな声が聞こえた。
声に促され、累と春香はお家にお邪魔した。
家に入ると、一面、白い壁のエントランスがある。大きな花が、エントランスの真ん中付近に飾られているのが目に入った。活け方が関係しているのだろうか、立体的なその活け方はまるで花が飛び出してくるかのような印象を受ける。
「いらっしゃい。暑い中、よくきてくれたわね」
朗らかに笑う女性が二人を出迎えてくれた。
春香がキラキラした笑顔で女性にお礼をいう。
「急だったのに了承してくれてありがとうございます!
今日は友達も連れてきました!」
「あら、いいのよ。生け花に興味を持ってくださるのはとても嬉しいもの」
柔らかく笑む女性を春香が紹介してくれる。
「累、こちらが生け花教室の先生の 小賀野 椿先生。通称、椿ちゃん」
「ふふ、椿ちゃんと呼ぶのは春香さんだけよ」
「あれ、そうでしたっけ?」
笑いながら首をかく春香に、椿も笑う。
そしてそして、と春香が累を指し示した。
「で、椿ちゃん。こちらがあたしの幼馴染兼親友の累です!」
「は、始めまして。糸川 累です」
初対面に緊張しつつ挨拶をすると、椿はまじまじと累を見た。
「あなたが春香さんのお話によく出てくる累さんね。会いたかったわ。
春香さんのお話にはなんども出てくるから、はじめてあった感じがしないけれどね」
「……変なお話ではないですよね?」
「変なことなんて言わないよー」
不平をこぼす春香を無視して椿の顔を伺う。春香のことだ、どんな話をしたのかわからない。ただでさえ幼馴染でなんでも知られているというのに……。
思わず顔を赤らめ椿の様子を伺う累に、椿はにっこりと笑みを浮かべた。
「心配いらないわ。
累さんのことをとても大切にしているんだな、といった内容のお話ばかりだったもの」
「えーー」
思わず春香を見ると、今度は春香が顔を赤らめていた。
「もう!椿ちゃんその話はもういいから!
自己紹介は済んだんだし、行こ!!」
椿がクスクスと笑っている。
春香にグイグイ押され、私たちは室内へと足を進めた。




