悪役令嬢を味方につけよう!
『トキマジ』
それは『悪女は最後に微笑む』の中に出てくる架空の、実際は存在しない乙女ゲームの名前だ。
ローザス様からその言葉を聞いた瞬間、びっくりしたと同時に、寒気も走る。
「私は東条友梨愛。化粧品メーカーでOLをしていたの。あなたは?」
それは『悪女は最後に微笑む』の主人公の転生前のプロフィール。
耳の奥でどくんどくんと大きく心臓の音が聞こえる。
『悪女は最後に微笑む』ではなく、『トキマジ』が出てきた。名前も東条友梨愛。つまり、ローザス様は原作小説どおりの記憶しかない。
一瞬ローザス様も私と同じ転生者で、小説の中の世界に転生した人かと思ったけど、どうやら違ったみたいだ。
だけど、ローザス様はきっと、私のことも自分と同じ異世界転生者だと思っている。
…とりあえずローザス様の出方を見てみる?
「佐々木小春です。山形県に住んでて、高校生になったばっかりでした。」
そう答えると、ローザス様は嬉しそうに微笑み、胸の前で両手を合わせた。
「やっぱり。どうも途中から様子がおかしいと思ったのよね。
あなたも、転生者だったの!
仲間が増えてうれしいわ!」
おおぅ、結構フレンドリーだ。
「2人の時は小春ちゃんて呼んでもいい?」
そういった瞬間に隣のシスコンが鋭い目で睨みつけてくる。
「ひっ…」
「?ああ、アベルは私の前世の事を知っているわ。
だから会話を聞かれても問題ないの。気にしなくて大丈夫よ。」
気にするところ違います…
「私のことは友梨愛でもローザスでも好きに呼んで頂戴。」
「…では友梨愛さんで…」
何となく前世の名前で呼んで欲しいのかなって感じてそう言うと、さらに目を細めてにこにこしてきたのでほっとする。
隣のシスコンは更に睨んできてるけどな!
とりあえずローザス様こと友梨愛さんはフレンドリーだし、転生仲間として気にかけてくれそう。
気にいられておけば死刑は回避できるかもだし、色々助けてくれるかも。
思わぬ俺得展開にホッと肩を撫で下ろす。
「私は前は化粧品の開発を仕事にしていたの。
産生堂ってメーカーなんだけど、女子高生だし知ってるかな?」
思わず吹き出しそうになった。
そうだ、この人は架空の転生記憶を持っているんだった。
メーカー名をそのまま小説に出せないから微妙にもじっているんだった。
「私、女子高生ていっても、全然通えないまま死んじゃったし、そもそも地味系だったから、化粧品てよくわからなくて。」
同じ転生者といっても、私は本当に転生しているけど、この人は転生したという記憶を持っている登場人物だから上手く話を合わせていかないと。
もしそんな事に勘付かれたら今のフレンドリーモードが台無しになるかも。
同じ立場だからこそ歩み寄ってくれてるんだろうし。
バレないように接していかないと。固有名詞が話題に上るのは危険だ。
「あ、ごめんなさい。そんなに早く亡くなっていたのね…
私は30代中ばだったし、この人生も含めるとアラフィフなのよね。
そんなに若かったら私以上に不安だったでしょう。
私が力になれることがあるかしら…」
「友梨愛さん…ありがとうございます。」
セーフ!!上手く話を逸らすことができた上に何かいい方向に話が向いてきたぞ。
「因みに、私、王子を殴っちゃったから、不敬罪で捕まらないか心配で…。
あれから卒業パーティーってどうなりました?」
「あのあと、結局リエト殿下は目を覚さなくて担架で運ばれていったわ。
そのあとに陛下が入城されて、若い人同士の痴話げんかだから問題ない、引き続きパーティーを楽しむよう言われて、パーティーは続いたわ。
不敬罪うんぬんはリエト殿下が目覚められてからだと思うけど、あの様子じゃ朝まで起きないんじゃないかしら?」
「大丈夫。リエト殿下の侍従に聞いたら軽い脳震盪でほかに異常はないっていってたからそんな大事にはならないと思うよ。」
アベルも話に加わってきてにこやかに続ける。
「まあ、せいぜい強制労働5年てとこじゃない?」
「えっ!!」
死亡は回避できても、かなり重たいんですどー!!
安心したのも束の間、一気に血の気が引く。
友梨愛さんも眉を下げて続ける。
「どうしても身分差のある世界だから、平民のミモザ、つまり小春ちゃんがリエト殿下に手を挙げた罪は軽くないわ。
私が断罪された時用に念のため貯めていた資金もあるから、資金援助はできるわ。
国外逃亡するつもりだったんでしょう?」
友梨愛さんはソファーの横にあった私の旅行かばんを見ながら言う。
「いえ…朝一で教会に飛び込むつもりでした。今から頑張って教会の修業をして聖女になれば地位も補償されるし、不敬罪も軽くなるかなって。」
そう言うと友梨愛さんは少し驚いたあと、目を潤ませて残念そうに口を開く。
「ごめんなさい、それは無理よ。だってあなたは聖女になれないもの。」




