side ローザス2
応接室の窓から外を眺めていると、黒い装飾のない馬車が屋敷に入って来るのが見えた。
そろそろかしら?
先ほど侍女に用意させたティーポットのキルトを取り、ティーカップ3つに紅茶を注いでいく。
注ぎ終わるのを見計らったようにドアが荒々しく開けられる。
アベルらしくない開け方だけど、大丈夫だったのかしら?
ドアの向こうから、特徴的なピンク色の髪の人物をかついでアベルが入ってきてギョッとする。
「どういうこと、アベル?ミモザさんを丁重にお迎えしてと私は言ったはずよ?拉致しろなんていってないわ。」
アベルはこっちをみて微笑みながら、3人掛けのソファーにミモザを下ろす。
「誤解ですよ、ローザス姉様。
ミモザ嬢はどうやらお疲れだったようで馬車の中で寝こけてしまったんです。
ミモザ嬢は羽毛のように軽い姉様と違って重かったので、非力な僕ではこういった運び方しかできなくて…。
決して彼女に乱暴に接した訳ではありませんので信じて下さい。」
嘘くささを感じながらも、眉毛を下げながらこちらを見てくるアベルを見るとぷるぷる震えるロップイヤーのようであまり強く言えない。
我ながら弟に甘いとは思うけど仕方ない。
「まあ、それなら仕方ないわね。お疲れ様、アベル。」
今淹れたばかりのティーカップを差し出すと目を細めて1人掛けのソファーに座り紅茶を飲み始めた。
「ローザス姉様の淹れた紅茶をいただけるなんて、今日の疲れが吹き飛びます。」
「まあ、アベルったら。」
未だ寝ているミモザの前にティーカップを置き、私もアベルの隣の1人掛けソファーに座り紅茶を飲み始めた。
改めて目の前のソファーで眠るヒロインを眺める。
鮮やかな発色のピンクのふわふわした髪に小ぶりな鼻と口、今は閉じられている大きな金の瞳。ふっくらとしたバラ色の頬。
まあ、可愛いわよね。庇護欲をそそるというか。
ローザスに転生した時はこの顔が整いすぎててびっくりしたし、この容姿に不満はないけど、少し顔立ちがきつくて冷たい感じがするから万人うけはしないわよね…。
その分振る舞いは上品でも高慢にならないようにかなり気をつけてきたけど。
対してミモザは自由奔放で誰にもフレンドリーな振る舞いをしていた。
ゲームシナリオではそれが攻略対象に受けてたみたいだけど、私がシナリオ通りに動かなかったせいか、第一王子のリエト殿下以外には逆に下品に映ったようなのよね。
ゲームシナリオは学園在学の3年間だけど、リエト殿下以外の攻略対象に相手にされず、焦った様子で最後の1年間は私がミモザをいじめるように自ら動いてきて正直疎ましかった。
ローザスは平民であるミモザのことを見下していると遠回しに言ってきたり、教科書を破かれたり、歩いている所に植木鉢が落ちてきたりしたのを私のせいじゃないかと陰で言ってたり…ローザスが攻略対象に嫌われるようシナリオの修正に必死になっているように見えていた。
だから、ミモザも前世知識がすでにあるか、もしくはシナリオの強制力が働いていたのかの2つの可能性を考えていたけど、前者の方が濃厚だと思ってた。
でも、あの卒業パーティーの様子がどうしても引っかかる。
目が合った瞬間からの突飛な行動がそれまでの彼女らしからぬ感じがした。もしかして後者で、あの瞬間に前世知識が戻ったのでは?
この仮説を確かめたくて公爵家を抜け出そうとしたけどアベルに止められて、アベルが代わりに彼女を連れてきてくれたのだ。
10分はミモザを眺めながら考えていただろうか。
髪と同じピンク色の長いまつ毛が震え、まぶたがゆっくりと開けられた。
「あれ? …いてて…」
とミモザが不思議そうな声をあげ、首の後ろを擦りながら上半身を起こした。
「目が覚めたようね。」
声をかけると弾かれたようにこちらを見て、金の瞳をこぼれんばかりに見開かせた。
「…夢じゃなかった…」
ぼそっとつぶやいたかと思うと、ミモザはソファーから降りて、正座して両手を前につける。
「今まですみませんでしたーーーー!」
元気の良い声と共に床に頭をこするように下げる。
この世界にはない土下座を久しぶりに見れたのもあり、つい口の端が上がる。
隣のアベルはギョッとした顔で私とミモザを交互に見ている。
「ミモザさん、頭を上げて頂戴。」
おそるおそるといったようにミモザは顔をあげ、上目遣いでこちらを見てくる。
「ミモザさん、『トキマジ』をご存じかしら?」
瞬間、金の瞳がまた大きく開かれる。
「記憶が戻ったのは断罪中かしら?」
口をぱくぱくさせたかと思うと頭をブンブンと上下させる。
…確定ね…
「私は東条友梨愛。化粧品メーカーでOLをしていたの。あなたは?」
「…佐々木小春です。山形県に住んでて、高校生になったばっかりでした…」
ミモザこと小春ちゃんは金の瞳に涙をためて縋るように私を見つめていた。
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