生き残り戦略を立てよう!
本来のストーリーであればダメヒロインミモザはもうすぐ死んでしまう。
まだ死にたくないし、死亡回避できるように動かないと。
ストーリー上のミモザの死因は第一王子に刺されること。
ただこれ、細かい時期も状況もよく分からないんだよね。
主人公のローザスはミモザが刺されて死んだことを第二王子との婚約期間中に風の噂で耳にする。
第二王子との結婚式は今から約1年後だからその間に起きたことっぽい。結婚式間近でも、断罪劇直後ってわけでっもなかったから、今から2か月から10か月後ってところかな。
うーん、けっこう幅があるな。
刺された状況も、メインのストーリーでは出てこなくて、完結後のSSで幽閉中の第一王子の回想によって出てくる程度。
過度な重圧の中で育った第一王子はミモザの自由で明るい振る舞いに惹かれて、本人なりに純愛を貫いたつもりだった。
しかし、自分の謹慎中にミモザがさっさと他の男をつかまえてたこと、ミモザが王子の中身ではなく地位に惚れていたことに気付き、かっとなって腰に差していたサーベルで斬ってしまう、ということが王子目線で語られる。
どんなやりとりがあったのか細かくは分からないのだ。
とりあえず本来のストーリーなら、ミモザは浮気さえしなければ死ななかったはずなのである。
それは恋愛偏差値の低い私であれば余裕の状況のはずなんだけど…
今の私のは第一王子をうっかり殴ってきてしまったことから今後の死亡予測に新しい可能性が加わる。
王族に対する不敬罪で裁かれる可能性だ。王子がどの程度の負傷をしたのかわからないけど、この世界では平民が王族を骨折させたとあれば死刑もありうる。
ミモザの破滅の始まりである断罪イベントを回避しようとして逆に危機的状況がひどくなってるんじゃ…
てかあの王子、人の話聞かなさすぎるのも悪いと思う!
死亡回避の方法としては、、、
捕まる前に国外逃亡とか?でもだめだ、お金もないしこの世界の地理に疎すぎる。本来のミモザもあんまり勉強をしないタイプだから全然知識がない…
てかこんなんでミモザは王妃になろうとしていたの?
あとは教会に逃げ込んで修業させてもらって今から聖女になるとか?
聖女であれば王族に次ぐ地位が保障されるはずだから、今回の件があっても重い刑にはならないはず…
これが現実的かなぁ。
不敬罪が確定する前に動いてしまおう。とりあえず明日の朝一で教会に逃げ込もう。
心を入れ替えて修行するといえば、聖魔法の持ち主を教会は無碍にはできないはず!
そうと決まれば荷造りだ!
ノートを閉じて立ち上がり、部屋の奥にある収納のドアを開けて旅行用のバッグと普段着のワンピースを出す。
ドレスのままだと機動力が落ちるからまず着替えよう。
脱いだドレスをベッドに放りなげて膝丈のシンプルなワンピースを身につける。
収納から下着とシンプルなワンピースを3着取り出す。
教会に行くんだから派手な服は置いていこう。
収納に木製の豪華な装飾の箱がある。
中には第一王子から貰ったアクセサリーが入っている。
貴金属はすぐにお金に変えられるし、かさ張らないから全部もっていこう。
本は念のためこの国の歴史や周辺の地理、風魔法に関する本を選ぶ。ミモザはそんへんを全然勉強していなかったから勉強し直さないと。
最低限ものを旅行用バッグに収めきると時計は深夜2時を指していた。
今日は疲れてはいるけど全然眠たくならないし、今から教会を目指してもいいかも。
教会は王都の端にあって、王都の中心にある学園や王城からだと徒歩で2時間ほどかかる。
馬車だと30分程度だけど、こっそり移動したいし、暗いうちに移動して近くで待って、夜が明けたらすぐに教会の門を叩こう。教会の朝は早いし、誰か対応してくれるだろう。
ペタンコのヒールの靴を選んで履き、ドアの閂を抜いて静かにドアを開ける。
寮には低位貴族かタウンハウスを持たない辺境の貴族しかいないから元々人は少ないけど、今は全く人けがない。
卒業パーティー後は家族と過ごすのが通例だから余程のことがなければ戻ってこないのだろう。
静かに抜け出せそうでよかったとホッと息を吐き、荷物を持ち出してそっとドアを閉めると、ドアの影から赤く輝く二つの光と目があった。
「ひっ」
赤い2つの目はドアの影からこちらに近づいてくる。
窓から差し込む月の光に照らされると襟元までの白銀の髪と白い肌、整った鼻梁が浮かび上がる。
悪役令嬢ローザスと瓜二つの美貌の持ち主、
「…腹黒シスコンショタのアベルたん…」
何でここにローザスの弟であるアベルがいるの?
ぼそっとつぶやいた瞬間、頬の真横をアベルの腕が抜け、閉じたばかりの後ろのドアにガンッと強く手がつく音がした。
壁ドンだ…人生初の壁ドンだ。なのに全然ときめかないのは何でだろう?
30センチと離れていない銀髪赤目のイケメンは夜目にも分かるほど青筋を立てながら嘘くさく微笑んでいる。
それ以上にゴゴゴ…という重低音の効果音が聞こえそうな威圧感に血の気が引く。
「腹黒でショタとは随分ですね。次期公爵に面と向かって悪口を言うとはいい度胸をしていますね、このピンク頭さんは。」
主人公の弟は姉の前以外ではにこやかに毒を吐く腹黒キャラとして描かれている。2次元の時は萌えていましたが、3次元だと下手なヤンキーよりこわいです。嫌な汗が背中を伝う。
てかシスコンは悪口じゃないんですね…
「まあ、いいですけど。どこに逃げるつもりかは知りませんが…
私の持っている荷物をアベルがちらりと見て鼻で笑う。
「少し顔を貸して頂けませんか、ピンク頭さん。」
そこにNOという選択肢はありませんよね…
これはまさかの公爵に私刑で裁かれるパティーンですか?
想定外だけど、ミモザはローザス様からのいじめの証拠も捏造しちゃったし、こっちの可能性もあったのか…
アベルたんはローザス様溺愛ですもんね…確か現公爵様もローザス様にデレデレだった気がする…公爵家としてミモザことピンク頭は許せませんよね…
想定外の危機的状況に固まっていると、アベルは舌打ちして私の胴体を持って肩に抱え上げ、俵担ぎにしてきた。
アベルたん、ローザス様と体格が変わらないのに力持ちなのね…。萌え設定なのに現実だと萌えない…。
…じゃなくて、この状況まずくない?公爵家の地下牢にでも直行する感じですか??
ズンズン移動していくアベルにようやく焦りを覚えて足でアベルの胴体と思しき部分を蹴る。
「ちょっと、やめて、下ろして!」
「少し黙ってて下さい、気づかれてしまうでしょう?」
アベルがそう言った瞬間に後頭部に何かが当たる感じがした。
視界が暗くなり意識が遠のくなか、某子牛の歌が頭の中で流れていた。