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Side ミヒャエル

「えるるーん」


 元気に手を振りながらこちらに駆け寄ってくる姿に思わず口角が上がる。


「こはるん。」


 ふわふわと風に揺れる桃色の髪に、華奢な骨格。

 もちろんそれも私にとって魅力的だけど、何より彼女の心の広さが私にとって一番の魅力だと思う。

 彼女に出会えたことを神に感謝したい。







 暗い穴を滑り、急に脇腹に衝撃が来る。どうやら行き着くところまで来たみたいだ。


「きゃあっ」


「いった…」


 真っ暗で何も見えないけど、私とミモザ嬢の2人が落ちたようだと声から想像する。

 確かポケットに光る懐中時計の魔道具があったはず。


 ずきずきと痛むわき腹を堪えて、ポケットから懐中時計を出して蓋を開ける。


「ミモザ嬢、大丈夫?そんなに明るくないけど懐中時計があるの。こっちが見える?」


「大丈夫ですけど、何かぬるっとするのが落ちた瞬間手についたんです。

 とりあえずそっちに向かいます。」


 少し離れたところから足音が聞こえて、しばらくすると桃色の髪を持つシルエットが懐中時計の弱い光に照らされて浮かび上がった。


「え…ミヒャエル様、ありがとうございます。これだけ暗いと小さな光源でもとても助かりますね。」


「そうね、火魔法や光魔法が使えたら楽だったんだけど、あなたも私も違う属性だし、持ってて良かった。」


「そういえばさっき、何か触っちゃったんですよね…


 ミモザ嬢が手を懐中時計の光にかざすと、そこにはおぞましい物体が…。


「きゃぁあああああああああ!!!!」

「いやああぁぁああああああ!!!!!!!」


 狭い洞窟内に2人分の悲鳴がこだまする。

 思い切り叫んでしまって、さっき打った横腹が尋常じゃなく痛む。

 

 その瞬間、ふわっと爽やかな風が吹き抜けた感じがすると、それまでしていた洞窟特有のこもった匂いがなくなり、森林にいるような爽やかな香りにかわった。


「え?」

「あれ?」


「ナメクジが…」

 思い出すのも憚られる状態だった巨大ナメクジがキレイな緑の宝石に変わっていた。


「…やったーー!」


「…どういう事なの?」


「あ、すみません。ローザス様やアベル様と違って、私の状況を知らないですよね。

 私、聖魔法の適正があるんですけど、まだ使えない聖魔法が多くて、でも今聖魔法の一つである浄化魔法が使えるようになったみたいです。

 聖魔法は習得すると、こんな感じの宝石が現れるみたいなんです。」


 第一王子が熱を上げているミモザ嬢は確かに聖女候補であることは知っている。

 そして教会での修行をサボりまくって聖女としての能力がほとんどないという噂も耳にしていた。

 聖女候補になって3年近く経つのに、いまだに候補のままで教会も困っていると聞いていたけど、聖女の力に目覚めると宝石が出てくるなんて初めて知った。


「聖女の力に目覚めると宝石として出てくるなんて初めて知った。」


「私もローザス様に教えて貰うまで知らなかったです。」


「…知れ渡ってるとフェイクの宝石を用意して聖女だと嘘をついたり、修行をさぼって魔法に目覚めたふりもできるからかしら?」


「そうかもしれないです。さすが頭脳明晰のミヒャエル様!そんな事を思いつくなんてさすがです。

 そういえば、私、身体強化の聖魔法も使えるんです。

 最近特に練習していたから自信あります!

 それを私たち2人にかけたら助けが来る前に、落ちてきた穴をよじ登れるかもしれないです。」


「良い考えかもしれないけど、私はむりだよ。

 どうやら落ちた時に肋骨を折ってしまったみたいで、立っているのがやっとなんだ。」


「ええっ!それは大変です!見せて下さい!!」


「えっ?ちょっと、待って、いたっ」


 女性とは思えない力でジャケットを脱がされる。

 腕が動くだけで痛みが走りまともに抵抗できない。


 まずい…このままだと…!


「痛いのはこっち側ですか?」

 血の気の引く私をよそに、ミモザ嬢は薄いブラウスの上からわき腹に手を添えてくる。


「…え?これってブラジャー?」


 驚く表情のミモザ嬢と目が合い、顔に血が集中するのがわかる。

 ダメだ、バレたーーーーーー!


 男のくせに変態だと蔑んだ目を向けられることを予想していたのに、ミモザ嬢は興奮して少し喜んでいるようにも見える。


「もしかして、えるるんは、おとこの娘ですか!やばい、萌える!」


「え?」


 予想外の肯定的な反応に逆にびっくりする。


「気持ち悪いと思わないの?」


「えるるんはイケメンなんで全然OKです!むしろ美味しいです!!私、オタクとしてBLもおとこの娘も嗜んでましたので!」


 よく分からない単語がいっぱい出てきたけど、どうやら良いと思ってくれているようだ。

 安心したのと、初めて受けた肯定的な反応に涙腺が刺激される。


「ええっ?何で泣くんですか??」


 おろおろするミモザ嬢を見ながら、彼女に会わせてくれた運命の神に感謝した。



「ミモザ嬢、少し私の話を聞いてくれるかしら?」


「はい、えるるんは本当はそんな口調なんですね。おねえ口調もメシウマです!

 でもとりあえず怪我をなおしましょう!」


 ミモザ嬢の手から温かい何かが流れ込んでくる。

 すると今まで強く主張していたわき腹の痛みが治まってきた。

 これが治癒魔法。初めてだけど、すごいわ。


「ありがとう、ミモザ嬢。楽になったわ。あなたすごいのね。

 で、さっきの話だけど、実は私は6歳まで女の子として育てられたの。

 侯爵家に女の子が生まれなかったから、女の子が欲しかったお母様が女の子の服を着せて育てたの。

 それを私はおかしい事だとは気づいてなかったわ。

 転機は6歳になった時。第一王子のお茶会に呼ばれたの。

 その時ようやく家族はこのままではまずいと気づいたのね。そこから男の子としての服装や教育が始まったわ。

 でも、それは私にとって違和感しかなかった。

 元々の私の性質なのか、6歳までの育てられ方のせいか分からないけど、私の中身は女性なの。

 でも、異端だと思われるのも怖いし、成長期で男らしい体つきになってくるしで諦めてた。

 お母様に相談したけど、冗談だと思われた時から誰にも相談できなかったわ。

 せめて外から見えない下着だけでも女性ものをつけて自分を誤魔化してたの。」


「…えるるんにそんな過去が…。貴重な裏設定を教えてもらってむしろありがとうございます。」


「この話をしたのはあなたで2人目、受け入れてもらったのはあなたが初めてよ。

 他の人には内緒にしてもらえるかしら?」


「はい!もちろんです!この世界はLGBTについて理解はありませんから。

 …でも、待って下さい。えるるんはローザス様が好きなんじゃなかったんですか?反応からして絶対そうだと思ってました。」


「ローザスは頭もいいし、良きライバルであり、友達よ。

 ただ、実はローザスは私の理想の女性なの。自分自身がなりたいって意味でね。

 艶やかな長い髪も、豊かな胸も、細い腰も全て羨ましくて仕方ないの。

 もちろん、あなたみたいなふわふわした髪と華奢な体つきも好きよ。」


「…貧乳って言われているようにしか聞こえないんですけど…。」


「ふふっ。ごめんなさいね。」


「ちょっとは否定して下さい!」


「因みにさっきから私のことえるるんって呼んでるけど、何でかしら?」


「え?あっ!無意識ですみません!!心の中でいつも勝手にそう呼んでました!!変なあだ名つけられていやですよね。気をつけます。」


「いいえ、むしろ可愛くて好きよ。ミヒャエルよりも性別を感じないし。」


「じゃあ、えるるんて呼んでもいいですか?」


「もちろんよ。あなたは何か呼んで欲しいあだ名とかある?

 いつまでもミモザ嬢じゃ他人行儀だもの。

 私たち、親友になれると思うの。」


「えるるん…。じゃあわたしはこはるんでお願いします!」


「こはるん?変わったあだ名ね。」


「はい、でもしっくりくるんです。」


「じゃあ、これからもよろしくね、こはるん。

 早速だけど、こんな陰気臭いところ早く出ちゃいましょう。

 身体強化魔法をかけてくれるんでしょ?」


「はい!ほんと臭くて嫌だったんです!早くでましょう!」







 一晩経っても昨日のことが信じられない自分がいる。

 こんな異端な自分を丸ごと認めてくれる人に出会えるなんて。


 この子の事情は何となく察したわ。

 早く聖女として一人前にならないと不敬罪で裁かれてしまうのね。

 ここは魔法研究を極めた私と特訓して、聖魔法を使い慣れてもらうしかないわね。



 屈託のない顔で笑いながら近づいてきたこはるんのふわふわの髪をなでる。


「よし、今日も魔法訓練やるわよ!」


「はい!お願いします!!」

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