前世
私の名前は佐々木小春。
身長低めの小太りな体型がコンプレックスのいわゆるスクールカースト最下位の地味系オタク女子だった。
それでも中学校では美術部でイラストを書きつつ、気の合う女友達とマンガやネット小説の話をして楽しく過ごしていた。
幸いなことにいじめらしいいじめに遭うこともなく、毎日がそれなりに楽しかった。
その中でハマったのが大手メーカー勤務のOLが過労死して悪役令嬢に転生し、活躍する小説『悪女は最後に微笑む』。
元になったゲームをプレイした記憶をもった主人公が、処刑エンドを回避しようと、悪役令嬢らしい振る舞いを改めて立ち回るうちに、本来の攻略対象をどんどん落としていくストーリー。
いじめてこない主人公に対してシナリオをもとに戻そうと空回りしてくるヒロインや、ヒロインに浮気した末に勘違い発言ばっかりするうざい第一王子へのざまぁ展開はスッキリするし、第一王子以外の攻略対象のイケメンたちがどれも個性的でカッコよくて女子を中心に人気があった。
特に私は騎士のシュタイン様が大好きで主人公のローザスに惹かれつつも、彼女の幸せのために身をひく様子にキュンキュンした。圧倒的に強いのも、ピンチに駆けつけて相手を倒すシーンも、女慣れしてなくて無骨な物言いも高ポイント!
さらにマンガ化した時に長身で細マッチョ、切長の紫の瞳、長めの黒髪のビジュアルにノックアウト。
部活動ではオタク仲間に熱くシュタイン様について語ったものだ。
(先生には生暖かい表情をされていたが、引かずに付き合ってくれる同志の友ばかりで感謝しかない。)
もちろん、その小説以外も悪役令嬢転生ものは一通り読み漁って充実した中学生生活を満喫した。
当然彼氏はいなかったが、本当に充実した中学校生活だった。
状況が変わったのは高校に入学してすぐの事。
近場の公立高校に親しい友人数人と進学して、変わらない毎日が続くんだろうなと思っていた4月の事だった。
酷い頭痛があり、病院を受診したところ、脳に小さな腫瘍があることが確認された。
頭痛薬をのみつつ経過観察となったが、ひと月もせずに急に右目が見えなくなり、再検査。
なんとひと月で腫瘍が急激に大きくなり視神経を圧迫したとの事だった。
手術のため入院し、点滴を打って腫瘍を少しでも小さくしてから手術に入るとの説明をされて
2ヶ月ほど入院した。体調の悪い日が多かったけど、友人たちがお見舞いに来てくれたし、ネット小説を見たりしてそれなりに楽しく過ごせた。
そもそも私はまだ若いし、手術すれば治ってすぐ高校生に復帰できるって軽く考えてた。
お父さんもお母さんも担当の先生も簡単な手術だし、若いから術後の経過も良いだろうって言ってたし。
でも、手術前に麻酔を打たれた記憶を最後に佐々木小雪としての記憶はない。