ジョブ『遊び人』な俺は、クランを追放されてその真価を発揮する!!?
本作は家紋武範さん主催の『知略企画』参加作品です。
「ミチル、お前……俺達のクランから追放な」
「…………ふぇ……?」
とある町にある大衆食堂の片隅で。
俺が、注文した夕食……この大衆食堂自慢の特大ステーキ定食をがっついている時だった。
大衆食堂の中央の席で、牛に似た現地生物で再現した牛丼、と呼ぶべき料理……しかもそのメガ盛りを注文した、俺達のリーダーであるタッくんが、俺の向かいの席に移動するなりそんな事を言った。
自分の耳がおかしくなったんじゃと、そんなアホな事を思ってしまうくらい衝撃的な発言だったため、俺は思わず、タッくんの牛丼よりも先に届いたステーキ定食の肉を切るためのナイフを、床に落としてしまった。
落下時、結構大きな音が出たが、それは俺達の周りでこの世界の料理を堪能している仲間達の騒めきにかき消された。
みんな、俺がタッくんに追放発言をされた事に……気づいていない様子だった。
確かに、夢中になるくらいこの食堂の料理はおいしいし、それにこれからの戦いの事を考えると、別の話題に熱中して気分転換しようとか思う人もいるかもだけど……それでもみんな酷くない?
「ど、どうしてッ」
いやそれ以前に、タッくんのクランに散々尽くしてきたっていうのに……なんでその俺が追放されなきゃいけないのさ!? そっちの方が酷いよタッくん!!
「お前が俺達に尽くしてきた事は知ってる。だけどな、お前のジョブは『遊び人』だ。確かに俺達が金銭的な危機に陥った時は、そのジョブを活用して、現地の有力者が集うカジノとかに見事に溶け込んで、さらには……ギリギリだったが、現地の最安値の宿にみんなで泊まれるくらいの金を稼いでくれたりもしたけれど……ここから先、そのジョブじゃ却って足手まといなんだよ」
「ッ!? た、確かに俺のジョブは、タッくん達のと比べるとショボいよ……でもだからって! これから先、また必要になるかもしれないじゃないか!」
足手まといって言われて、思わずカッとなって……机を両手で叩いてしまった。また大きな音が出るが、今度は気にしない。みんなも、一瞬だけこっちを見たけど……悲しい事に、すぐにまた会話を再開したし……。
「それに追放されて、そのあと俺はどうすればいいのさ!? もう俺達に戻る所はないんだよ!?」
それに、悲しい事に……俺は、自分の力不足を痛感してる。
戦いの度に……俺は、みんなから離れていなきゃいけない。そんな、戦闘向けではないジョブだよ。みんなと戦いたいって、何度も思ったよ。悔しかったよ。なぜ俺はこのジョブを授かったんだって……俺にこのジョブを授けたヤツがいるなら、そいつが誰だろうと殴りたいとまで思ったよ。それくらい悔しかったよ。でもそれを……それをタッくんから指摘されたくなかったよ!!
「…………ここに、金貨がある」
そう言ってタッくんは、テーブルの上に、硬質的な音がする布袋を置いた。
「この国じゃ、節約さえすれば、半年は暮らせるだけの額だ。これを使って、近場の安宿にでも泊まってろ。俺達が、この世界を再び平和にするその時までな」
「…………ああ、分かったよ」
まさか、金貨まで用意してるなんて……まさか、そこまでタッくんが本気だったなんて……。俺にクランを抜けてほしいと、本気で思っているなんて……。
「そこまで言うなら出てってやるさ!!」
そして俺は。
タッくんが寄越した金貨入りの布袋を引っ掴むと……まだ半分近くも残っているステーキ定食に目もくれずに店を後にした。
※
大衆食堂を出ると、俺は、近くの路地裏で……声を出さずに泣いた。
タッくん達のクランが好きだった。召喚されてこの世界にみんなと来て、突然の異世界召喚でみんなが混乱する中で、タッくんがみんなをまとめ上げて……たとえどれだけ戦闘向きじゃないジョブを手にしていようとも、誰もがそれで差別意識を持たなくて……それどころか、その戦闘向きじゃないジョブの長所を考えてくれて……活用してくれて……今まで、俺達無敵だったじゃないか。
なのに、なんで……タッくん…………。
いや、俺も、悪いんだ。
戦闘向けのジョブじゃないから……タッくんの言う通り、足手まといだから……これから先の戦いで、死ぬ確率が高いから…………みんなで、一緒に、元の世界に帰れる確率が減ってしまうから…………だから、タッくんは……。
そうだ。
優しく追放を告げれば。
俺が素直にクランを抜けてくれないと思ったから。
だからタッくんは……あんな言い方をしたのかもしれない。
友人想いのタッくんなんだ。
そんな彼が、あんな突き放すような言い方をするハズがない。
…………………………いや、そんなの、分かりきってた事じゃないか。
タッくんは、強いヤツだ。
俺なんかよりも、ずっと……心が強いヤツだ。
たとえチートな能力を手に入れたとしても、調子に乗ったりしないで、ちゃんと……クランのみんなのために使うような強いヤツじゃないか。
…………それに比べて、俺は……俺は……なんて弱いヤツなんだッ!!
「大事な手が壊れるかもしれないから……壁を叩くのはやめといたら?」
そして、俺が近くの壁を……悔しさのあまり叩こうとした時だった。
俺達のクランの、参謀的な立ち位置にいる……タッくんの幼馴染のマーくんが、路地裏の出入口から声をかけてきた。
「…………ほっといてくれよ」
自分の力不足が悔しいんだ。
力がないから、俺は……タッくん達と一緒に戦えないんだ。
そんな俺なんて……そんな俺なんて……いないのと同じなんだよ!!
「…………ミチルさん、そんなに自分を責めないでよ」
そして、改めて……悔しさのあまり壁を叩こうとしたその時だった。マーくんは俺の手首を掴んで、それを止めた。
「あなたは充分、僕達のために尽くしてくれた。僕達には、もうあなたに返せないだけの恩があるんだ。リーダーは、だからこそ、あなたをここで解放したんだよ。あなたとも、確実に……僕達と一緒に、できるだけ無傷で元の世界に帰るために」
「…………それでも、それでも俺は……ッ」
――みんなと……大切なクランのみんなと、最後まで戦いたいんだよ!!
でも、それは……俺の力不足のせいで叶わない願い。
自業自得な事だから……途中で、言葉を噤んでしまう。
「…………そこまで悔しいって思うなら、今度は僕から、退職金代わりの良い情報をあげるよ」
「ッ!? え、マーくん?」
「実はジョブ『遊び人』には……」
すると、どうした事か。
マーくんは……確かジョブは『賢者』だったような気がするマーくんは、突然、深刻そうな顔をして、俺の額に人差し指を向けて――。
※
「ッッッッ!?!?」
――気がつくと俺は、トイレの個室の中にいた。
ちなみに俺達がいるこの異世界では、数十年前に異国で召喚された伝道師――勇者と区別するためそう名づけられた存在の手による技術革新が起きて、それ以来、水洗トイレが主流だ。だから衛生面的に、汲み取り式便所よりはマシな環境だけど……いやそれ以前に!!
「…………ああよかった」
急いで個室から出て……俺は安堵した。
なぜなら、大衆食堂近くの路地裏から、トイレの個室に行くまでの記憶が、一切ないからだ。マーくんが何かやって、俺をここに移動させたんだろうけど……ああよかった。男女間違えて入っていない。うんよかった。間違えてたら変態だよ俺。
「……………………って、いやいやいやいやここどこだ!?」
そうだった!
男女間違い以前に……ここはどこで今はいつなんだ!?
急いでトイレを出る。
すると真上に昇った太陽と、マーくんと話した路地裏があった町の隣の町にある冒険者ギルドの施設が見えた。ついでに周囲を確認し……俺がいたのが、ギルドの施設の前の公園の、公衆トイレの中だった事が分かった。
「…………マーくん、お前……いったい俺に何をして……ッ」
マーくんと最後に話した事を、思い起こす。
すると、その瞬間……どういうワケだか頭に激痛が走った。
まさか、特定の記憶を思い起こさないようにする魔術でもかけられたのか!?
おいマーくん!
お前俺に何か教えようとしていなかったか!?
なのになんでその情報について教えずに俺をここに運んだんだよ!?
教えるって言ったの嘘なのか!!?
「あ、あのぉ……」
とその時だった。
思わず怒った俺に声をかける者がいた。
見ると、そこにいたのは、俺とそう歳が変わらなそうに見える……見た感じ、地元の冒険者パーティ。人間と獣人で構成された、女の子の四人組のようだった。
「あ、あの」先ほどの声の主である、人間に見える赤髪の少女が、頬を染めながら俺に訊いた。「も、もしかしてクラン【ネクサシア】のミチル様ですか!?」
…………なに!? 俺の名前を知って……ッ!?
一瞬、ビビった。
でもよくよく考えれば、ここは俺達の敵の支配下にある町の近く。俺達異世界人の写真がついた指名手配書が巡り巡ってこの町に来ていてもおかしくない。そうでなくとも俺が所属していたクラン【ネクサシア】は、現在進行形で名を上げ続けているのだ。俺の顔と名前を知っている冒険者がいても不思議ではない。
「あ、ああ、そうだけど……?」
「わぁ! やっぱり!」
「だから言ったでしょ、私、写真見た事あるって」
「いやいや胸張るほどの事じゃないゾ」
「……というか……無い胸……張れるの……?」
「ぬわんですってぇ!?」
返事をするや否や、女の子達がワイワイ騒ぐ。
なんだか見ていてホッコリするシーンだねぇ。
「というか、なんでその【ネクサシア】のミチル様がこんな所にいるのですか?」
胸が無い事を気にしているらしい金髪の少女が、なんだか眠たそうな目をした青髪の少女をしばきながら問いかける……って「その子、顔まで青くなってるぞ!? そろそろやめてあげて!?」なんだかヤバそうなので慌てて俺は声をかけた。
「ッ!? あ、ご、ゴメンあそばせモモン!」
どうやら青髪の子はモモンという名前らしい。
そして俺は、モモンの息が整うのを待って……改めて簡単に事情を説明する事にした。
※
「そ、そんな……そんな事で追放するなんて」
「まさか噂の【ネクサシア】がそんなクランだったとは知りませんでしたわ!」
「まだまだ金銭面でも『遊び人』は必要だろうに……酷すぎるゾ!」
「……最ッ……低ッ……」
公園のベンチに仲良く並んで座る四人組が、向かい側にあるベンチに座って話す俺の境遇を聞いて怒ってくれた。
でも、俺としては複雑だった。
そもそもこの追放に至った原因は……近い内に始まるだろう、敵との最終決戦に付いていけるだけの力がない俺だ。俺さえもっと強ければ……そもそもこんな事にはならなかったんだ。
「というかクラン【ネクサシア】は、なんにも分かってないんだゾ!」
そんな風に後悔する俺に、緑色の髪の獣人少女は言った。
「ジョブ【遊び人】は……進化すると、ありとあらゆる勝負の勝敗の確率を操ってしまうトンデモないチートな力を発揮するっていうのに!」
※
まさかの事実に、俺は驚愕した。
――ジョブ『遊び人』は、進化すると確率を操れるようになる。
緑髪の少女……レイハは確かにそう言った。
そしてもしもこれが事実だとするならば……俺ってば、彼女の言う通りトンデモない力を有している可能性があるんじゃ!?
そういえば『遊び人』として金を稼ぐ時はカジノを利用していて……そして時々であるが、少ない確率の勝利を勝ち取った事があるが……もしかすると、すでに俺のジョブ『遊び人』……進化した力の片鱗が出始めているのか!?
「も、もしそうだとするならば……俺はすぐにでも【ネクサシア】に戻れるんじゃないか!?」
こうしちゃいられなかった。
俺はすぐにタッくん達を追おうと動き出そうとするが「待って」と、上着の裾を掴まれ止められた。赤髪の少女ことレンによって。
「ミチル様、すぐに戻っては【ネクサシア】を甘やかす事になりませんか?」
うぅむ、言われてみると……確かにレンの言う通りかも。
「……どうせなら……困った時に……駆けつけた方が……ありがたみがあるし……かっこいい……」
モモンが、俺の琴線に触れる事を言った。
仲間がピンチの時に颯爽と現れる、俺……いいかもしれん。
「ならばミチル様、当分は私達のパーティで一緒に行動しませんこと?」
さらには、金髪の獣人少女ことアンジュがそう提案してくる。
「おお! それは良いアイデアだゾ!」
ついには、レイハにもそう言われちゃあ……却って断れないな。
それに俺としても……進化しかけているかもしれない俺のジョブ『遊び人』の力をもっと極めたいし!
※
それから俺は、一時的に彼女達のパーティ【ユト=メジーク】に入った。
するとさっそく、俺のジョブ『遊び人』の進化が進み始めたのだろうか。今まで成功率があまり高くなかったらしい【ユト=メジーク】の魔獣退治クエストの成功率が上がり始めたそうだ。
ついでに言えば『遊び人』としての仕事も……これまた俺のジョブ『遊び人』が進化した影響か、行く先々でのカジノで勝ちが連発しやすくなり……【ユト=メジーク】の生活水準が上がりに上がり……ついには【ネクサシア】時代でも泊まった事がないようなレヴェルの超高級宿屋に泊まれるように!!?
そしてそれによって【ユト=メジーク】内での俺の株が上がりに上がり……途中でそういうイベントが発生しかけたりしたけど……それは『遊び人』の力を使って起きないようにした。
この世界に、外来種たる異世界人の余計な種をまくワケにはいかない。というか下手をすれば、異世界人の子供を祀り上げる変な宗教とかが生まれて、この世界の様々なパワーバランスを崩してしまう可能性がある。
それだけは絶対にヤっちゃいけない!!!!
…………まぁ、それ以前に、彼女達の好意は嬉しいけど、俺は……。
その代わり、彼女達には……彼女達がなぜか知りたがっている、俺の、俺以外に異世界召喚されたみんなとの思い出を語っている。なぜだかみんなの顔が思い出せなくなってるけど……まさかそれだけ長く【ユト=メジーク】と一緒にいたのか。
…………明日辺り、戻ってみよう。
というか、俺がいないせいで死傷者出てたりしないよね?
いやそれ以前に、浦島太郎みたいに、思ったよりも時間が経ってるとか、そんな事になってたりしないよなぁ?
※
そして、俺は明日に備えて眠りにつこうとして……どれくらい時間が経ったのだろうか。
「「「「――――――ッッッッ!!!!!!」」」」
俺は【ユト=メジーク】のみんなの悲鳴を聞いて目が覚めた。
な……何が起こったんだいったい!? ここは超高級宿屋だ! セキュリティも超一流のハズだ! なのに……魔獣か何かの侵入でもあったのか!?
俺はすぐさま、声がした、彼女達の部屋へと向かった。
もしかすると着替え中にGのような虫が出現した可能性もあるから、とりあえずノックしてから入ろうか、なんて事を考えながら。
そして、いざ彼女達の部屋に行ってみて……俺は驚愕した。
なぜならば室内には、タッくんとマーくんを始めとする、クラン【ネクサシア】のメンバーの内の八人がいて、その彼らが……なぜか扇情的なデザインの下着姿の【ユト=メジーク】の四人を、鎖で、簡単に外れないよう複雑に、厳重に拘束した上で、さらには四人の口に猿轡を嵌めていたからだ!!
「よぉミチル。元気だったか」
「久しぶりだね、ミチルさん」
「ッッッッ!?!? タッ……くん……? マー……くん? それに、み、みんないったい……いったい四人に何をしたのさぁ!!?」
俺はその時、怒りのあまり何も考えていなかった。
ジョブ『遊び人』の能力を使おうとか、そんな事を考えられないくらいに。それだけ【ユト=メジーク】のみんなには良くしてもらったんだ。それに、追放される前までは……【ネクサシア】のみんなにも……でも、でもまさか!!!!
まさか俺がいない間に……【ネクサシア】が奴隷商人のような存在に堕ちていたなんてッッッッ!!!!!!
「おっとミチルさん、僕達を殴る前に思い出そうか!」
そして、後先考えずにかつての仲間を殴ろうとした……まさにその時だった。
確か、ジョブが『賢者』だったような気がするマーくんが……俺の額へと、指を向けて…………。
※
「実はジョブ『遊び人』には……ありとあらゆる勝負の、勝敗の確率を操作できるようなトンデモない能力に進化する可能性がある」
タッくんに戦力外だと告げられ、そしてマーくんに声をかけられたあの夜。
俺はそのマーくんに、レイハに教わる前に、ジョブ『遊び人』の可能性について教えられていた。
「な、なんだって!?」
「しっ。声が大きいよ」
マーくんは慌てて俺の口を右手で塞いだ。
「…………ところでミチルさん、話は変わるけど……最近、僕達の戦い……苦戦が多いような気がしないかい?」
口を塞ぎつつ、小声でそう問いかけるマーくんに、俺は首を縦に振って答えた。
確かにここ最近、俺達が相手にしている悪魔が、まるで俺達の弱点を知っているかのような動きをしているように見えるけど……。
「僕やリーダーであるタケオ、そして召喚者の一人のルーシィも、ここ最近それが気になってね。先日、認識阻害系の魔術を使った上で話し合ったんだけど、もしかすると僕達の行動を遠くから監視しているような、諜報専門の悪魔がいるかもしれない、という結論に落ち着いた」
な、なんだってー!?
「ちなみに、今も認識阻害系の魔術を使って話しているけど、それさえも、あまり通用しない相手かもしれないから、大声を上げるとかの派手なリアクションをしないでね?」
俺は再び首を縦に振った。
するとマーくんは、ようやく俺の口から手を離してくれた。
「それでね、僕達は試しに、一時的に……悪魔を釣るための囮として、仲間を追放してみる事にした。それも、悪魔が近づいて情報を得るにあたって、あまり警戒をしない確率が高いジョブのミチルさんをね」
「な、なんで俺なんだよッ」
た、確かにそういう状況じゃ囮を使った作戦は有効かもしれないけど……ほ、他にも支援職系の……悪魔が油断しそうなジョブの人がいるんじゃ!?
「話は戻るけど」
マーくんは苦笑しつつ言った。
「ミチルさんには進化できる可能性がある。上手く進化ができれば、その近寄ってきた悪魔の行動の確率さえ操れるようなジョブ『遊び人』に進化できる可能性が。他の支援職にはない……限りなく、チートな能力だ。それさえ覚醒できればミチルさん自身で身の安全を守れるし、今後の僕達の戦局を変えうる戦力になる。それにもしかすると……その力は、僕達が召喚される前の、このメルクト王国の民と悪魔達の戦いにおいても使われたかもしれない力だ。悪魔がジョブ『遊び人』の真価を知っている可能性は高い。ならば、これを利用しない手はない。僕達を監視してる悪魔をミチルさんに近づけて。ミチルさんを、下手をすると僕達への刺客として悪魔達が差し向けかねない状況にして。その上で悪魔に、あなたのジョブ『遊び人』の進化を促させるんだ。その前にミチルさんの記憶をちょっと弄って、偽の僕達の情報が悪魔に渡るようにしてね。監視してる悪魔をあぶり出せて、超強力な戦力も覚醒して、さらには偽の情報を悪魔側に流せる。一石二鳥ならぬ一石三鳥の作戦。これが今回、僕とタケオとルーシィが立てた作戦。ミチルさん、あなたにしかできない作戦なんだ」
「ッ!! ま、まさか……獅子が我が子を谷底に落とす的な?」
「…………申し訳ないけど、あなたにしかできないんだ」
そう言いながらマーくんは、悲しそうな顔をして俺に言った。
「全てが終わったらいくらでも文句は聞くし、なんなら殴ってもいいから……今はただ、素直に記憶を弄らせて。あと、もしもの時は助けに入るから安心はしてね」
「え、ちょ、まっ――」
※
…………思い、出したぞ……そうか、だからみんなの事を思い出そうとしても、直前まで顔を思い出せなかったのか!!
「おめでとう、ミチルさん。進化できたみたいだね」
全てを思い出させたマーくん……マコトくんが、俺に笑みを見せる。
心の準備をさせずいきなり記憶弄ったクセにコイツ……とりあえず、グーで脳天を軽く殴っておいた。
「という事は……【ユト=メジーク】のみんなは……」
そして改めて、タッくんとマーくんに俺は言った。
すると二人は頷いて、マーくんが【ユト=メジーク】の四人に人差し指を向けて……なんと四人が、俺達が知る女性の悪魔の姿に!? しかも下着のまま! これはこれでなんかエロい!!
「危なかったな、ミチル」
タッくんは冷や汗をかきながら言った。
「この悪魔共、全然なびかないミチルをなんとか籠絡して、悪魔軍団に取り込もうとハーレムな作戦を考えていたっぽいぞ」
ッ!! そうか、だからみんな下着姿だったのか!!
確かルーシィさん達聖騎士の説明によれば、悪魔は相手を籠絡するなりなんなりして魂を穢して仲間を増やそうとするらしい……下手をすると、俺は悪魔にされていたのか。考えただけで恐ろしいなッ!!
ホント、みんなが来てくれてよかったよ!!
いきなり一時的に囮にして記憶弄った事は当分許さないけどね!!
「というか、悪魔達には悪いけど……ミチルさんはハーレムな作戦でも、そう簡単には悪魔にできなかったと思いますよ」
そしてついでにマーくんは、俺の仲間だった悪魔達に……俺的にはみんなに一生伏せたかったけど……クラスの雰囲気からしてブッチャケていいかなぁ、と感じてブッチャケたあの事実を告げようと、口を開こうとした。
でもそれは、一時的でも仲間として接していた俺にこそ言わせてもらいたい。
だから、俺は。
喋ろうとするマーくんを手で制して……改めて、一時的にだけど仲間だった悪魔達に告げた。
「実は俺、体は男でも心は女なんだよ。小さい頃に親父に、口調を矯正されて……見た目通りな喋り方だけど」
次の瞬間。
俺に近寄ってきた悪魔達は、驚愕のあまり目を見開いた。
※
次の日。
今日もなんとか、トイレの男女を間違えず入り用を足し、そして出てきたところで……近くの木に背を預けていたタッくんに話しかけられた。
「悪魔達を尋問したところ、東国に悪魔が集結し始めているらしい事が判明した。何か嫌な予感がするから、まずはその調査に向かう。そして……可能ならばその悪魔軍団を全滅させようと思う」
「…………分かった」
尋問、とは言うけど。
きっと実際は拷問に近いヤツだろうな。
どっちにしろ彼女達は、放っておくと何をするか分からない敵だから。
仮に、どれだけ楽しい時間を、共に過ごしたとしても……絶対に俺達とは相容れない精神構造をした存在だから。
――最終的には、殺すしかない。
それは、分かっているけれど…………可能ならば、彼女達とは……もしも転生が存在するならば、今度は真っ当な知的生命体同士として出会いたいもんだ。
俺は、今はもうこの世にいない彼女達を思いながら……その両目に滲んできた涙を拭いながら…………ふと、そう思った。
タケオ、ルーシィ、そしてマコトは誰ぞ?
と思った方は、拙作『転移者はクラスをすでに掌握している。』をご覧くださいませ。まぁ読まなくても分かるような話にしたつもりですけど(ぇ