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たとえ人生をやり直せるとしても俺は同じ過ちを繰り返す  作者: 大神 新
第6章:偽れない本当の気持ち
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第64話:結局、文化祭も激務だった

 俺はこの日、文化祭執行部の本部テントに居た。

 ある意味で忌まわしい場所だ。

 過去の世界でこの場所に入ったことはない。

 そのせいか、ここは「中森(なかもり)と一ノ瀬の場所」そんなイメージだった。


「川場祭にようこそ、こちらがパンフレットです。

 予約済みの金券は……こちらですね。楽しんでください!」

 作り笑いならいくらでも出来る。

 俺は来訪者に楽しんでもらえるように、全力で対応した。


「……高木くんって、悔しいけど接客上手いよね」

 一ノ瀬にジト目で言われた。

 いや、単にウェイターのバイトしてた経験があるだけだから。

 それに中身はアラフォーのオッサンだしな。


「でも、助かるよ、私は初対面の人だとちょっと緊張しちゃうから」

 一ノ瀬の役に立っているのなら嬉しいよ。


 本部テントの主な役割は外来の受付とトラブル対応だ。

 過去の世界では中森と一ノ瀬に任せきりだった文化祭。

 実際にやってみると体育祭以上に大変だった。

 ……これ、一ノ瀬の負担は半端なかったのではないか?

 あらためて過去の自分の不甲斐なさを悔いる。


 俺は結局、自分のことしか考えていなかったんだな。

 今の一ノ瀬を見て思い知った。

 アイツがあの時、どれだけの重荷を背負っていたか。

 俺はそれに寄り添う事すらせず、自分の気持ちを押し付けた。


 球技大会で疲れ果てている時に、的外れなことを言われるようなものだ。

 重圧の中、必死で戦っていた一ノ瀬に俺は水を差した。

 そんなことに、今更になって気がつくなんて……遅すぎる。


「すいません、ここはどうやって行けばいいんですか?」

「あ、そこはですねー、昇降口がここなので、廊下を通って……」

 一ノ瀬も何だかんだ言いながら見事に対応している。

 元々、困っている人を放っておけない性格だもんな。


 良く考えたら体育祭も球技大会も文化祭も、全部激務じゃないか。

 ……生徒会執行部って意外とブラックかもしれない。


 それにしても、一ノ瀬って本当に凄いな。

 俺達の代の文化祭、実はほとんどコイツの功績じゃないのか?

 それなのに、全くとぼけやがって……。


 自分が1番大変な思いをしている。そんな風に思う事は仕方ないとは思う。

 何故なら、自分の見える世界しか知らないからだ。

 あの頃の俺はまさにそうだったな。

 一ノ瀬が自分以上に苦労しているなんて考えもしなかった。


「高木くん? どうかした?」

「いや、一ノ瀬は格好良いな、と思って」

 一ノ瀬は功績を人に自慢することはない。

 そうだな、せいぜい可愛い愚痴を言うぐらいだ。


「えへへー、そう? なんか嬉しいなー」

 何だ、そのリアクションは。

 素直に喜ばれると、何だか照れてしまう。


「一緒に回れなくて、ごめんねー」

 一ノ瀬は寂しそうにそう言った。

「いいよ、俺はここでこうやって話して居られれば、それで十分だ」

 正直、文化祭そのものに興味はない。

 俺は一ノ瀬と話していられるのなら、それが一番だ。


「またそんな事言ってる。まあいいや、後夜祭までは頑張ろうね」

「ああ、いくらでも手伝うよ」

 出来るだけ優しい声で答える。

「おー、なんか頼もしい!」

 そんな風に言ってくれるのが嬉しい。


 今になって思う、あの頃の一ノ瀬にはあまり味方がいなかったのだろう。

 やり直しの世界で一緒に過ごして分かった事がある。

 皆が一ノ瀬に頼っていた。

 だから、一ノ瀬は誰にも頼れなかったはずだ。


 そんな彼女に過去の自分は何も出来なかった。

 いじけていないで、黙って手伝えば良かったのに。

 今ならそんな風に思うけど、仕方なかったんだろうな。

 あの頃の後悔が、今の俺を作っている。

 当時の俺にそんな強さを求めるのは酷というものだろう。


「すいませーん!」

「どうかしましたか?」

 それにしても本部テントにはひっきりなしに人がやって来る。

 これは釘付けになるのも仕方ないな……。


「ちょっとあっちの掲示エリアで揉め事があって……。

 執行部の人、仲裁してくれませんか?」

 あー、これは俺が行った方がいいな。一ノ瀬の方を見て手で合図した。

 こういう案件は優しい一ノ瀬には向いていない。


「分かりました、行きます」


 答えた後、辺りを見渡すと美沙(みさ)ちゃんが居たので声をかける。


「美沙ちゃん、ちょっと手を貸して」

 揉め事の内容によっては女子がいた方が良い場合もある。

 もちろん、荒事になりそうなら即座に教職員を呼ぶべきだ。

 そのためにもひとりで事に当たるのは良くない。

 まあ……、流石にそんな事態にはならないだろうけど。

 我が校は公立の進学校。基本的にみんな真面目である。


「私で良いんですか?」

「うん、一ノ瀬はここを離れられないし。嫌だったら他の人に頼むけど……」

 出来れば今後の為にも後輩が良い。

 でも美沙ちゃんはこういう扱いを嫌がるだろう。


「あ、いえ、嫌じゃありません」

「ありがとう、宜しくね」

 表情を見る限り、大丈夫そうだ。少しほっとする。


 美沙ちゃんと掲示エリアへ向かう道中は楽しく話をすることが出来た。

 やっぱり、この子は話し上手で可愛いなあ。


 揉めていたのはポスターを貼りに来たであろう人達だ。


「うちのポスター、勝手に剥がしたでしょ!」

「いえ、違います、最初からスペース空いていたんですよ」


 うーん、これどっちもどっちのパターンだな。


「美沙ちゃんはここで見てて、何かあったら先生呼んでね」

「わかりました」

 少し心配そうな顔をしている。


「大丈夫、大した事ないよ」

 そう言って仲裁に入った。


「あの! 文化祭執行部です。どうかしましたか?」

「あ、いや、ポスターを貼ろうとしたら何くせをつけられて……」

 まあ、こうなるのは分かる。


「文化祭当日のポスター掲示は基本的に禁止です。

 文化祭執行部長の許可は取りましたか?」

「あ……いや……」

 当日に思い立っての掲示は良くあることだ。


「では、お引き取り下さい」

「……すいません」

 こうしてひとりは足早に戻っていった。


「うちのポスター、剥がされてるんですけど?」

 腰に手を当ててご立腹な様子でこっちを見ている。

「会長印と執行部長の印、捺してありましたか?」

 こういう相手には毅然とした態度で対応しなければいけない。

 ここで変に食い下がられると面倒なことになる。 


「あ……いや……」

「もしもなかった場合、こちらで剥がすことなってます」

 良かった、この様子なら引き下がってくれそうだ。


「……すいません」

 そして、もうひとりも走り去っていく。


 こういった勘違いはよくある事だ。

 どんなに広報しても見てくれない人は多い。

 念の為、掲示エリアの不認可ポスターを確認する。

 数枚のポスターに会長印が無い。そういった掲示物も剥がしておいた。

 該当のクラスには後で連絡をしておかないといけないな。


「すいません、私は役に立ちませんでした」

「そんな事ないよー、ちゃんと見ててくれたでしょ」

 自分で言うのも何だけど、明らかに声色がさっきと違う。

 ちょっと恥ずかしいな。


「高木先輩って普段は優しいのに、仕事だと結構はっきり言いますよね。

 さっきはちょっと怖かったです」

「そうかな?」

 まさか、怖いと言われるとは思わなかった。

 ちょっとショックだ。


「はっきり言わないと伝わらない事もあるからね」

 でも、これは大切なこと。

 隙を見せると、つけこまれる可能性がある。


 1年生や一ノ瀬のようなタイプには出来ないことだろう。

 俺も得意ではないし、出来ればやりたくない。

 でも社会に出たら嫌な事だってやらざるを得なかった。

 お金をもらうためだから、それは当たり前のことかもしれない。


 けど、俺はそれが当たり前だという世の中は嫌いだ。

 やっぱり優しい人にこういう事は向いていないよ。

 他の仕事をしてもらえば良いだけだ。 

 俺は器用貧乏だからな。出来ない事じゃない。

 だからせめて、優しい皆のために泥を被るぐらいはしたいと思う。

 

「おーい、高木!」

 あ、ヤバイ、テニス部の渡辺(わたなべ)だ……。


「げっ! お前しばらく練習来ないと思ったら……」

「違う、彼女は彼女じゃない!」

 良くわからない日本語になってしまった。


「あー、わかってるよ、お前は一ノ瀬さん一筋だもんな」

「ここでそう言われるのは微妙に嫌だけど、そうだよ」

 渡辺は物凄く柄が悪い。でも見た目だけだ。

 練習はいつだって真面目だし、とにかく熱い。

 俺はそういうところが結構好きだった。


「で、そろそろ進展したのか?」

「いやあ、それは全然だ」

 多分、俺と並ぶと絶対に友達同士にはみえない。

 オタク眼鏡とギャル男ぐらいの違和感だ。


「くっくっくっ、せめて後夜祭で手ぐらい繋げよー」

「するか、バカ!」

 いや、まあ多分フォークダンスで繋ぐけどな!

 恋愛事情を人に話すのはあまり好きじゃない。

 けど、合宿の夜に好きな人の話をしないのはフェアじゃないからなあ。


「じゃあ、俺は彼女を迎えに行くから!」

「げっ、お前にも出来たのか……」

 むしろ出来ない方がおかしい。基本的にいいヤツだ。

 ただ、こっちを見ながらニヤニヤしながら去っていくのはやめて欲しい。

 まあ、変に絡まれるよりはマシか。


「ごめん、美沙ちゃん」

「ふふ、あんな風に喋ることもあるんですね」

 はて? 普通に自然に喋っていただけなのだが。


「……生徒会室の時とそんなに変わらないだろ」

「いえいえ、少し違いますよー。なんか男同士って感じ」

 いや、確かに渡辺は男だけども。


「そうかなあ、大場や中森相手と変わらないと思うけど」

「ふふふー、良いものが見れました」

 何だか嬉しそうな美沙ちゃんだった。


「あ、そうだ。折角だからちょっとこっちおいで」

「えっ!?」

 テニス部仲間から貰った食券の事をすっかり忘れていた。

 一ノ瀬を口説くのに使えと言われたけど、残念ながら使えないのだ。

 

「はい、どーぞ。付き合ってくれたお礼」

 バナナクレープ、ありきたりだけど美味しいよね。

「そんな、貰えません! 私より梨香(りか)先輩に……」

 そんな全力で遠慮しなくてもいいのに。


「アイツ、バナナも生クリームも好きじゃないんだよ」

 食べられない、というレベルではないらしいけど喜んではくれないだろう。

 チョコクレープだったら良かったんだけどな。

「うー、じゃあ頂きます。その代わり今度、何かお礼させて下さい!」

 意外と律儀な美沙ちゃんだった。


「ああ、いいよ、それは君の後輩にしてあげて」

 先輩から奢られたお礼は後輩にする。古き良き習慣だと思う。

「先輩、私はそういうの苦手です」

 その気持ちも解る、俺も好意は好意を貰った相手に返したいと思うからだ。

 ……なので俺は大抵、どちらにもお返ししている。


「うーん、じゃあねえ、免罪符を下さい」

「免罪符?」

 とりあえず、思いついたのはこのぐらいだ。

 流石に金銭が絡む要求は出来ない。


「セクハラ免罪符。先輩のセクハラを1回だけ免除して下さい」

「それ、すでにセクハラなんですけど!

 後輩に向かってセクハラしますと宣言しないで下さい!」

 怒られてしまった。


「うーん、じゃあ他に何がいいかなあ」

「……いいですよ。私の身体に興味があるというのなら、一回だけ免除します」

 何だと……!? なんか凄い事をしてしまいそうな気持ちになった。


「それに! 奥手な高木先輩がどんなセクハラをするのか、興味がありますし」

 そこに興味をもっちゃ駄目だぞ、美沙ちゃん。


「じゃあ、契約成立、ということで!」

 何だろう、この響き、凄く危険な香りがする。


 俺たちはその後、見回りをしつつ本部テントへ向かった。


「なんか、普通に回っちゃいましたね」

「そうだねえ。ごめんね、つき合わせちゃって」

 俺は道中で自分の金券を使ってたこ焼きを買っていた。

 マヨネーズ抜き、青のり多めである。


「いえいえ、それより梨香先輩にちょっと悪い気がして」

「それは気にしなくて平気だよ、アイツは俺のことは何とも思ってないし」

 今の一ノ瀬は俺の気持ちを良く察してくれている。

 でも「俺と一緒に居たい」という気持ちまではないだろう。


「そうですかねえ……」

「そうなんです」

 悲しいけど、これが現実だ。


「高木くん! おかえりー!」

 本部テントに戻ると一ノ瀬が出迎えてくれた。

 俺は彼女の声が聴けるだけで十分だ。


「ごめん、ちょっと寄り道しちゃった。これ、食べてて。しばらく指揮代わるよ」

「あ! たこ焼きだー! いいの?」

 一ノ瀬の好きな食べ物は熟知している。

 意外と好き嫌いが多いので気をつけないといけない。

 マヨネーズがかかっていたらアウトなのだ。


「お前のために買ってきたんだ、食べてくれ」

「ありがとー、じゃあ、ちょっと休むね」

 そう言ってテントの奥に入っていく一ノ瀬。

 たこ焼きを冷まそうと一生懸命に息を吹きかけている姿がたまらなく可愛い。


「すいません、コレなんですけど……」

「ああ、それはですね……」

 指揮を代わると言った手前、何とか対応したがやはり激務だった。

 ひっきりなしに来る質問や来客、執行部員への指示に忙殺される。

 本当に、一ノ瀬は良くやっていたんだなあ――。



 下校時刻になると文化祭の熱は一気に冷える。

 本部テントもほとんどの人が教室へ戻っていった。


「お疲れ様ー!」

 一ノ瀬が声をかけてくれた。

「いや、お前の方こそ、お疲れ様だよ」

「あはは、これは言い合いになっちゃうね」


「どうする? クラスに戻るか?」

「うん、そうだねー」

 そう言って、ふたりで帰り支度をした。

 テント内の物は濡れたり、飛んだりしそうなものだけ回収する。

 この辺りは球技大会と一緒だ。


「生徒会室で待ってるね!」

 一ノ瀬はそう言って教室へ戻っていった。


 えっと……、これは一緒に帰るってことで良いんだよな?


 過去の世界において、この時期は一ノ瀬との関係が最悪に近かった。

 良好な今の状況が少し信じられない。

 まるで夢を見ているようだ。


 教室に戻ったところで、俺にやることはほとんどなかった。

 出し物もお化け屋敷なので、仕込みなんかも無い。

 クラスの皆にひたすら謝った後、俺はすぐに生徒会室へ向かった。

 辿り着いた生徒会室には誰も居ない。

 自転車組はもう帰ってしまったようだ。


 でも、ひとりの時間も悪くない。一ノ瀬を待っている時間も幸せだ。

 もう少ししたら一ノ瀬に会える、ただ静かに、その幸福を噛み締めた。

 穏やかな時間がたまらなく嬉しい。

 

 そういえば、やり直しの世界ではほとんど毎日一緒に帰っている。

 何故だか、過去と違って部活から帰るといつも一ノ瀬が居てくれた。

 寝てることも多かったけどな。


 再会してかなりの時間が経った。

 今でも彼女に対する気持ちは変わっていない。

 慣れることも、飽きることも無かった。

 相変わらず、彼女と過ごす時間はかけがえのないものだと思う。


 ――チリンチリン。


 生徒会室の扉が開く音。

 俺はこの音が鳴るたび、一ノ瀬が来ることを期待していたっけ。


「ごめん、待たせちゃった?」

 聴きたかった声が響く。

 その姿を見ると、涙が出そうになった。

 彼女が居なかった過去の15年間がそうさせるのか。

 それとも、一緒に過ごせなかった当時の記憶がそうさせるのか。


「いや、今来たところだよ」

「あははは! 何このテンプレートみたいな会話!」

 そう言って笑う一ノ瀬がたまらなく愛しい。


 ごちゃごちゃ考えても仕方ないだろう。何だっていい。

 俺に出来るのは今、この時間をただ大切にすることだけだ。


 生徒会室を施錠して、電気を消すと一気に辺りが暗くなった。

 昇降口で靴を履き替えて、校舎を後にする。

 外に出ると秋の風が少し冷たい。


 一ノ瀬の身支度が終わるのを待って、校門へ向かって歩き出す。

 少し歩くと、右袖に重さを感じた。

 見ると一ノ瀬が俺の肘の辺りの服を掴んでいる。


「何してんの?」

「んー、何となく。嫌?」

 この仕草は記憶にあった。

 高校生時代の記憶ではない。社会人になってからの記憶だ。


「嫌じゃないよ、むしろ嬉しい」

「そっかー、良かった」

 あの頃、手を繋ぐのは嫌だけど腕を組むのは良いって言ってたな。


 手を繋ぐと、逃げられない。

 でも、腕を組む場合はいつでも離れられる。

 一ノ瀬は、縛られるのが嫌いだったのかな。

 もしかしたら、俺のことが怖かったのかもしれない。


 俺は手を繋ぐのが好きだ。

 離れそうになっても、握れば引き戻せるから。

 そんな気持ちを見透かされていたのだろう。

 俺自身も少し怖いと思う。

 ともすれば、握ったその手を離せなくなる自分がいることを知っている。


「なあ、一ノ瀬。明日も目一杯、手伝うからな!」

「うん、ありがとう、高木くん!」

 俺はこれだけで十分だ。


「絶対にひとりで無理するなよ」

「……高木くんはさ、頑張れって言わないんだね」

 それは、一ノ瀬が別れ際にさよならと言わないのと同じだ。

 俺は、頑張っている人に頑張れとは言わない。

 これは勝手に自分で決めたことだ。


「だって、お前はもう十分すぎるぐらい頑張っているじゃないか」

「高木くんのそういうとこ……嫌いじゃないよ」

 それは、とても嬉しい言葉だった。

 一ノ瀬はいつも、俺を肯定してくれる。


 文化祭の件は元はと言えば、俺が頼んだことだ。

 それを文句も言わずにやってくれる一ノ瀬に感謝する。


 ……でも、こんな思いは横暴で傲慢で、不遜だ。


 俺に頼まれたからやっているわけでも、感謝されたいわけでもない。

 一ノ瀬は、自分がやりたいと思うことをしているだけだ。

 自分で決めて、自分で選んで、その重圧と戦った。

 俺にとっての体育祭や球技大会と同じなんだ。

 この件において、俺はただのわき役に過ぎない。

 俺達の代の文化祭の立役者は徹頭徹尾、彼女なのだ。


 だから、俺は一ノ瀬に「ありがとう」や「ごめん」を言う権利はない。

 ただ隣に立って、一緒に頑張るだけだ。

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