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たとえ人生をやり直せるとしても俺は同じ過ちを繰り返す  作者: 大神 新
第1章:やり直せるからと言ってやり直すとは限らない
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第5話:黒歴史その1、生徒会選挙に立候補してしまった

 最初の試練は生徒会役員選挙だ。

 当時の俺は何故か生徒会長に立候補した。

 理由は正直言って、あまり覚えていない。

 俺の事だから目立ちたかったとか、人気を取りたかったとかだろう。

 中学時代の記憶はあいまいだけど、片隅に事実だけが転がっていた。 


 しかし、俺には生徒会長になれるほどの器も、人望も無い。

 今ならはっきりとわかる。

 落選するとわかっていて行う選挙活動など完全に無駄である。

 当時と違って今の俺は、人前で無意味に目立つのが何より嫌いだ。


「じゃあ、立候補する人は紙に指名を書いて目安箱に投函するように」

 担任の先生から適当な説明があった後、立候補の方法を聞いた。

 半泣きになりながら用紙に記入し、生徒会室の前に立つ。

 震える手で目安箱に立候補用紙を投函した。


 数ある黒歴史の中でも生徒会選挙は本気で思い出したくない過去だ。

 対抗馬は隣のクラスの人気者。彼は運動会で応援団を務めていたこともある。

 学年では知らない人がほぼいないぐらいの有名人だ。


 対して、俺は男子の友達が二人だけ。

 あとは女子数人と少し話せるぐらい。

 思春期が少し遅かったのか、女子とは普通に話せた。

 けれど、友達と呼べるほどの人はいない。


 ……どう考えても勝てるわけないじゃないか。


 恥をさらさない程度に活動をするぐらいなら良かった。

 だが、選挙活動が始まると俺は必死で頑張ったのだ。

 放課後の正門で演説をしたり、チラシを配ったりと必死だった。

 チラシはプリントの裏紙を使った手書きという痛さ。

 熱意はありそうだけど、字が下手くそだからあまり良い印象は与えないだろう。


 しかも、正門での演説はジャージ姿でしていた。

 何故か制服は着ていなかった。それだけは覚えている。

 何かのアピールだったのだろうか。

 恐ろしいことにまるで理由がわからない。


「清き一票をお願いします!」


 その台詞をやめろおおお!

 自分で言っておきながら、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

 俺はジャージ姿で校門の前に立って、大人の選挙の真似事をしていた。


「絶対に良い学校にします!」

 しかも、演説の内容はクソみたいに中身がない。

 どんだけ痛いんだよ……。だが、当時の俺がまとまも演説をしたとは思えない。


「おお、頑張ってるな!」

 そう言ってくれる寺田(てらだ)には少し感謝だ。


「なるほど、ジャージならネームが刺繍されているもんな。考えたな!」

 寺田は感心した様子で、肩をバンバンと叩いた。


 そこかあああ!

 寺田のおかげで、くしくもジャージ姿の理由がわかった。

 いやいや、たすきかけるとかプラカード出すとか、他にも方法あるだろう。

 普通なら学校指定ジャージで演説するとか、もはや罰ゲームだぞ。


 はっきり言って、すでに死ぬほど恥ずかしい。

 多分、見ている方も辛かったと思う。

 余りにも痛い人って、面白さよりも哀れさが際立ってしまうよね。


 さらに悲しい話がある。

 対抗馬である隣のクラスの人気者は選挙活動をしていない。

 ただ、静かに投票日を待っていた。王者の貫禄?

 いや多分、違うと思う。


 俺の痛々しさを見て、同列に立つことを避けたに違いない。

 ピエロは常に孤独である。


 選挙活動は選挙当日までの2週間だ。俺はそれを目一杯使った……。

 絶望しかないが、毎日毎日、校門の前に立ち続けたのだ。

 こういう努力をするところは評価してやりたい気持ちもある。

 けど、やっぱりただの馬鹿だったのだろう。


 応援演説は数少ない友人の一人である小林(こばやし)の担当だ。

 正直な話をいうと、小林はかなり嫌がっていた。

 しかし、俺には他に頼める人が居なかったのだ。

 事情を察して渋々だが了承してもらった。

 本当に申し訳ない。


 ――そして、ようやくやってきた生徒会選挙当日。


 体育館に全校生徒が集まっている。おそらく300人はいるだろう。

 その視線は全て壇上に向けられ、空気は静寂に満ちている。

 

 そんな中、檀上に上がって話す。

 普通なら緊張するし、そんなシチュエーションはごめん被るだろう。

 けれど、小林は堂々としていた。


 ツカツカとマイクの前まで歩いて行って、無造作に手に取る。

 すぅっと、息を吸い込む音が静かな体育館に響いた。


「――高木君は月並みな男です」

 おい、小林! でも、この第一声は受けが良かった。

 静寂だった体育館に、笑い声が混じる。


「彼は、この学校を愛しています。

 それだけはこの学校でも1、2を争うと思います。それは私が保証します。

 学校を愛しているが故、彼は選挙活動中も敢えてジャージを着ていました。

 授業中も積極的に先生に質問します。

 そのおかげで彼の所属するクラスは毎年、学年で1番、テストの平均点が高い。

 座右の銘は、1日1善。

 少しずつ、小さな1歩で学校を良くしてくれるでしょう。

 誰より学校を愛しているからこそ、彼は良い生徒会長になれると私は思います」


 うう……、ありがとう小林。お前のスピーチ、凄く良かったよ。

 そして、俺はそれをこれから台無しにしなくてはいけない。

 最悪だ、最悪過ぎる。本気で死にたい。


「ありがとうございました。

 それでは続いて候補者の高木さんからの演説となります」


 嫌だ、やりたくない。だが、しかし。

 これもすべて一ノ瀬にもう一度逢うため。

 そのためだけに力の限りを尽くす。俺はそう決めたんだ。


「どうも、高木です。

 私が生徒会長になったら、とにかく楽しい学校にしたいと思います。

 みんなが学校に来たいと思えるような、そんな感じです」


 ……我ながらクソみたいなスピーチだ。

 小林の見事なスピーチで柔和になった空気が重たくなった。

 なお、過去のスピーチの内容は流石に覚えていない。

 なので当時と同じかどうかはわからないが、こんなものだろう。

 クソみたいな内容だったことは容易に想像がつく。

 当時の自分の思考回路や精神年齢から予測したスピーチの内容だ。


 今ならもっと他のやりようがある。このスピーチには突っ込みどころしかない。

 まず「楽しい学校」という公約だ。具体的に何をするのかが全く見えてこない。

 これでは誰も「この人にやってもらいたい」などと思わないだろう。

 たとえば新しい行事を作るとか、文化祭に何か違った催しを企画するとか。

 そういう何かが無ければ、票をとることなど出来ないのだ。

 わかっていながら未来を変えないように、繰り返す。


 そして最後の最後が本当に致命的だった。


「清き一票をよろしくお願いします!」

 そう言って、俺はマイクに向かってお辞儀をした。


 ――ごりっ。


 嫌な音が響く。

 全校生徒、ドン引きの瞬間だった……。



 この話の恐ろしく恥ずかしいところは、事件そのものではない。

 マイク衝突が()()()()()()という件だ。

 脳が未成熟だった当時の俺は、アピールになると思ったのかもしれない。

 選挙当時の演説の最後でマイクに頭ぶつけるとか、面白いよね? 

 そんな風にウケを狙いに行ったのだ。


 だが、良く考えてみろ。自分がそんな立候補者を見た時、どう思うか?

 嫌だ、もはや見ているのも恥ずかしい。

 そんな客観的な視点が、とにかく欠如していた。


 思い出したくもない過去だがこれが現実なのである。


 そして黒歴史はさらに続く。

 俺はこれからもそれらを辿っていかなければならない。

 全ては一ノ瀬にもう一度逢うため……。

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