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たとえ人生をやり直せるとしても俺は同じ過ちを繰り返す  作者: 大神 新
第4章:憧れとの決別を回避する
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第46話:新入生に先輩と呼ばれると妙な気持ちになる

 春休みが明けるとすぐに新学期が始まる。

 入学式が終わった後は一大イベントである新入生歓迎だ。


 この日のために、一ノ瀬と奈津季(なつき)さん、神木(かみき)先輩と沙希(さき)先輩は大忙しだった。

 ……今回、俺は蚊帳の外である。

 初日の司会は神木先輩、2日目は中森(なかもり)が担当だ。

 中森の司会は色々と心配なところはあるが、俺よりはマシだろう。

 嘉奈(かな)先輩は女子メンバーの衣装やステージのデザインを監修していた。

 今回は大場(おおば)平澤(ひらさわ)先輩、吉村(よしむら)先輩で裏方に徹する。

 まあ、華の無いメンバーはこうするしかないよな。


 初日は神木先輩の聞き惚れるような司会で大盛況だった。

 アレはもはやプロの領域である。

 一方俺達、裏方チームは舞台袖で各部の器材準備を手伝った。


 一応、俺にも舞台上での出番はある。

 テニス部の勧誘アピールで、三角コーン目掛けてサーブを打つ、という仕事だ。

 ……精度が高いからと選ばれたが、緊張でいつもより上手く当てられなかった。

 本番に弱いから止めてくれ、とちゃんと言ったのだけど。


 生徒会執行部のバンド演奏は2日目のラストだ。

 都合、軽音楽部の直後である。

 器材の都合でそうなったのだが、なんとも厳しい順番だ。

 ……まあ、神木先輩と一ノ瀬はそんなの気にしないだろうけど。

 キーボード担当の奈津季さんとドラム担当の沙希先輩がちょっと可哀想。

 ステージ上で緊張していることだろう。

 特に奈津季さんはとても心配だ。


 懸念していた中森の司会は、まずまずだった。

 アイツも何だかんだと大きな舞台で物怖じしないところがある。

 そもそも、中学時代に生徒会長だもんな。

 大勢の前で話すのはむしろ好きみたいだ。


「次でラストだね」

 手際よく器材を運んでいた吉村先輩がそう言った。


「ですねえ」

「それにしても、どんな感じなんだろう」


 何故か生徒会執行部のバンド演奏は練習の時から秘匿されていた。

 嘉奈先輩が男子禁制と言って俺たちのことを締めだしたのだ。

 練習はほとんどが軽音楽部の部室で行われていた。

 春休みもかなりの時間をかけたようだ。


 俺は皆が登校していることは知っていた。

 テニスコートに居たので様子をうかがい知ることはなかったけど。

 軽音楽部の部室、防音なんだもんあ。

 もちろん、一ノ瀬に電話をしても内容は教えてくれなかった。

 ただ「楽しみにしてて」とだけ言われている。


 中森の場繋ぎが終わって、照明の色が変わる。

 いよいよ一ノ瀬たちの出番である。

 スポットライトがステージ中央を照らし出した。

 白のキャミソールドレス、背中には小さな羽がついている。

 露出度が結構高いのでドキドキする。

 マジで天使だった。


「うわー……」

 思わず一ノ瀬に魅入る。


 ふと目を落とすと吉村先輩が右手を差し出していた。

 ああ、なるほど。

 意図を理解して、ガッシリと握手をする。


 もちろん、嘉奈先輩も舞台に上がっていた。

 全員が同じ格好をしているので、目のやり場に困る。

 奈津季さんも神木先輩も凄く綺麗だ。

 でも、眼鏡の沙希先輩も捨てがたい。

 普段あまり露出が無いから逆にドキドキする。

 可愛いが全てな嘉奈先輩は衣装との相性が完璧だ。


「尊いなあ……」

「尊いですねえ……」


 一ノ瀬と神木先輩のダブルボーカルがとにかく凄い。

 音程が違う部分も見事にハモっていた。

 何なんだあの人達、神なのか。


 ステージ上から全校生徒を真っすぐに見て歌っている一ノ瀬。

 振り付けも凄く練習したんだろうな。

 まるでアイドルみたいだった。

 凄く遠い世界に行ってしまったように感じて寂しくなる。

 俺は本当にあの子と遊園地に行ったのか?


「あの衣装のまま生徒会室来てくれないかなあ」

 吉村先輩がぼそりと呟いた。

 その言葉で我に返る。

 そうだよ、この後、生徒会室で会えるんだ。


「全くですね」

 かくて、俺と吉村先輩はもう一度ガッシリと握手を交わすのだった――。



 新入生歓迎会の後、すぐに1年生がやって来ることは知っている。

 俺は会場を撤収したら足早に生徒会室へ向かった。


「くそそおお!」

「どうした、高木、何をそんなに悔しがっている……?」

 俺の狼狽ぶりを見て、神木先輩は怪訝な顔をしていた。


「それは神木先輩が制服を着ているからです!」

「当たり前だろ」

 それはそうなのだが……。


「あの衣装、もう着ないんですか?」

「あー、アレはちゃんと記念に取っておくぞ」

 そういう事を聞いているんじゃないんだ。


「あの衣装、もう着ないんですか!?」

「……お前は相変わらずだな」

 俺の魂の声も届かなかった。


梨香(りか)に着てくれと頼んだらどうだ?」

 神木先輩は意地悪そうに笑っている。


「何言ってるんですか、神木先輩がいいんです!

 アイツのスタイルじゃ興奮出来ませんよ」


「ふーん、そういうこというんだ……?」

 えっ!? 嘘だよね、生徒会室の扉が開く音、聞こえなかったよ?


「高木、梨香はお前の後ろにぴったりくっついて入ってきてたんだぞ」

 あーなるほど、そういうことか。


 ――ドスン!


 わき腹にボディーブローが突き刺さった。

 悶絶するが、さすがにこれは言い訳が出来ない。


「ごめんなさい、一ノ瀬さん。俺は貴女にも興奮します」

「最低。気持ち悪いから、近くに寄らないで」

 割と本気で怒っていた。

 声色が冷たくて、純粋に怖い。


「それは流石にフォロー出来ないな……」

 神木先輩もお手上げのようだ。



「ちわー、生徒会執行部ってここですか?」

 さっそく1年生がやって来た。

 今になって見てもチャラそうな色黒男子。

 身長が高くて、イケメン属性強め。

 一ノ瀬の好みど真ん中の彼は池谷(いけたに) 正樹(まさき)君だ。


「あっ! 1年生!?」

 一ノ瀬が嬉しそうに飛びついた。

 おい、お前……。


「あー! ステージで歌ってた人!

 やっぱり可愛いですね、先輩に会いたくて来たんですよ」

 ぬうう……、やはり腹が立つな、この展開。


「えっ! 本当!? 凄い嬉しい!」

 真っ赤になって照れる一ノ瀬。

 そんな顔もするんだね、君は。


「ねえ、高木くん、先輩だって! 嬉しいねえ!」

 ……さっきまでの冷遇はどこに行った。

 はしゃぎ過ぎだ、お前。


「お前、名前は?」

 一ノ瀬の反応に対して、神木先輩は厳しかった。

 珍しく嫌悪感を表に出している。

 追い出してしまいそうな勢いだ。

 いいですよ、もっとやって下さい。


「あ、すいません! 池谷(いけたに) 正樹(まさき)です。

 神木先輩ですよね、よろしくお願いします!」

 気をつけの姿勢から丁寧なお辞儀を繰り出す。

 あー、それは神木先輩が好きなヤツ。


「うむ、よろしく頼む」

 それだけですか、先輩!


「もう少ししたら、他の人も来るからとりあえず座っててよ」

 そう言って俺はパイプ椅子を出した。


「あ、すいません、ありがとうございます」

 正樹君が嫌なヤツじゃないのはもう知っているからな。

 単純に、大器なのだ。

 後輩ながら、俺は彼に勝てない。

 悲しいけれど、これも現実だ。


 正樹君は他の人が来るまでの間、一ノ瀬とずっと楽しそうに話していた。

 一ノ瀬が楽しそうに話すのなんて普通のことなのに。

 彼には必要以上に嫉妬していたのを思い出す。


 俺なんかよりよっぽど面白い話をする。

 そして、一ノ瀬の話も良く聞くんだろうな。

 一ノ瀬は俺には話さないことも彼には話していた。

 俺は黙って見ていることしか出来なかったな……。


「おはようございます!」

 チャラさのかけらもない真面目な挨拶で入って来たのは、またも男子生徒。

 眼鏡に短髪、俺や大場とキャラが被っているが……、彼も身長が高かった。


鈴原(すずはら) 久志(ひさし)です、よろしくお願いします」

 うーん、好青年だ。

 正樹君とのギャップがまた凄い。


「よろしくね、久志君。とりあえず、中に入って。

 人が増えたら改めて自己紹介お願いするから」

 そういって、パイプ椅子を差し出す。

 何、この下っ端感。


「ありがとうございます!」

 うん、真面目でよろしい。


「おはようございます」

 そう言って入ってきたのは奈津季さんだった。

 ふっふっふっ、1年男子ども。

 見ていろ、奈津季さんと普通に話す俺のことを!


「おはよう、奈津季さん。今日も綺麗だね」

「あー、はいはい。そちらは1年生?」

 おお……、スルーからの1年生相手ですか。


「あっ、はい! よろしくお願いします」

 即答したのは久志君。


「よろしくお願いします」

 正樹君は一ノ瀬との会話を妨げないように上手に返事をした。


「こちらこそ、よろしくね」

 俺は黙って奈津季さんにパイプ椅子を渡した。

 うん、今日の俺はパイプ椅子係だ。



 しばらくすると沙希先輩、嘉奈先輩、中森に大場とほぼフルメンバーが揃う。

 平澤先輩と吉村先輩は部活中だ。

 なお、俺は全力でテニス部をサボっている。


「ありゃ、今年は女子が来ないな……」

 言ったのは沙希先輩だ。


 ……あれだけ美少女を前面に出していたのだ。

 女子の希望者にはハードルが高いだろう。



 ――チリンチリン。

 生徒会室の扉の鐘が鳴る。

 今日はもう終わりかな、と思ったところで女子ふたりが入って来た。


「あの……、ここ、生徒会室で合ってますか?」

 この辺りは史実通りだな。


「ああ、合っているよ」

 神木先輩が優しい声で答える。


「あの、私たち、神木会長に憧れてきました。私は宮西(みやにし) 麻美(あさみ)です」

 ショートボブで目尻が整った真面目そうな女の子。

 目が大きくて健康的な表情が可愛い。

 ついに黒髪ロングの時代に終わりが来た。


「あ、私は黒川(くろかわ) 美沙(みさ)です。(あさ)ちゃんとは同じ中学でした」

 奈津季さんと一ノ瀬と同じような関係かな、と思ったけど実は少し違う。

 ふたりは面識がある程度の仲だったそうで、それほど仲は良くない。

 美沙ちゃんはこの時、ウェーブがかかったツインテール。

 しっかりと化粧をしていて、目元がくっきりとしている。

 見るからに女の子、といった感じで可愛いよりも綺麗だと感じた。


「それは嬉しいな。それじゃ、そろそろ正式に挨拶をしようか。

 神木(かみき) 彩音(あやね)だ。川場高校34期、生徒会長をやらせてもらっている」

 貫禄のある声、態度、まさに絵にかいた生徒会長。

 去年の北上先輩の挨拶を思い出した。

 こうやって受け継がれていくんだな。


「さて、諸君。我が川場高校生徒会執行部について簡単に紹介させてもらう……」

 神木先輩のこの言葉が、世代交代を告げていた。


 ここから先は、俺達の時代だ。

 不思議と解散パーティーのようなものは行われない。

 ただ、当たり前のように、3年生になった神木先輩達は生徒会室に来なくなる。

 その代わりに、今度は俺達が先輩と呼ばれるようになるのだ。

 先輩が居なくなるのは寂しいけれど、後輩が出来るのは嬉しい。


 生徒会室の外では、まだ桜の花びらが舞っていた。

 出会いと別れは同時にやって来る。

 社会人になれば5年10年、下手をすれば30年以上も一緒に過ごす同僚がいる。

 けれど、中高生にはそんな仲間は居ない。

 先輩も後輩も、2年もすれば居なくなる。

 だから、1日が重いのだ。


 当時はまだ、別れの実感が無かった。

 でも今は、はっきりと分かる。今日、この日、世代が変わった。

 もう、先輩達とは今まで通りに過ごせない……。


 きっと、それは先輩達も解っていないだろう。

 後輩男子と楽しそうに笑う一ノ瀬。

 後輩女子ふたりに囲まれている神木先輩。

 それを取り巻く皆は楽しそうだった。

 

 そんな皆が、この日が境目だったと気がつくのはもう少し後の事になる。

 この先の日々の中でじわじわと、その現実を嚙み締めていくのだろう。


 だから、俺はたったひとり。

 生徒会室の隅で、この日を悲しんでいた。

 

 そして、このままに終わりにしたくないと思った。

 出会いはともかく、別れにはそれ相応の舞台が必要だ。

 俺は、静かに決意する。

 これは後悔から出た発想じゃない。

 ただ、今を悔いなく生きるために、考えたことだ。


 俺はこのまま、先輩達と別れたくない。

 一ノ瀬のことを胸を張って好きだというために。

 今回は史実には従わない。

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