表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ人生をやり直せるとしても俺は同じ過ちを繰り返す  作者: 大神 新
第3章:最大の過ちを繰り返す
45/116

第35話:失敗を繰り返さないように準備をした

 2学期の球技大会が終わった後はすぐに終業式だ。

 ロングホームルームが終われば冬休みが始まる。


 冬休みといえば、クリスマスに年末年始。

 恋人同士のイベントがある時期だが、俺は期待などしていない。

 一ノ瀬は家族とクリスマスを過ごすということは知っている。

 もちろん、大晦日からの初詣なんてイベントも起きない。

 アイツは親が厳しいから真夜中の外出とかは許さないだろう。

 年末年始は部活も休みなので、あらかじめ別の予定を仕込んであった。


 通知表を受け取って、ぼーっと考え事をしながら向かった先は生徒会室だ。

 今日も部活の練習はあるけど、少し一ノ瀬と話したい。

 何せしばらく会えなくなる。

 ……たったの2週間、今までの事を考えればあっという間だ。

 けれど、俺が気兼ねせずに一ノ瀬と過ごせる時間には限りがある。

 史実通りに進めばあと1年もしない内に中森と付き合ってしまう。

 少しでも残された時間を無駄にしたくない。


 いっそのこと誘ってしまおうかな。

 一ノ瀬は押しに弱いところがあるから強引に誘えばきっと相手してくれる。

 当時もそんな感じで何度か一緒に遊びに行ったものだ。

 ……ちょっと酷い考えかもしれない。

 でも、もう変な避け方はしないと決めた。


「おはようございます!」

 生徒会室の中に入ると今日はまだ奈津季(なつき)さんだけだった。


「おはよう、高木君。今日は部活ないの?」

「あるんだけどさ……」

 そう言いながら、ちゃっかり奈津季さんの隣に座った。

 うん、やっぱり今日も綺麗だ。


「高木君、どうかした?」

 浮ついた心を見透かされてしまったようだ。


「一ノ瀬をね、デートに誘うかどうか考えていたんだよ」

 すでに色々と知られているし、見られているので包み隠さずに話す。


「おおー、ついに告白するの?」

 やはり興味はあるみたいだ。

 なんか目がキラキラしている。


「いや、その予定はないよ。俺は今のままでいいし……」


 ただ、冬休みに一緒に出掛けたいだけだ。

 だけど過去に思いっきり失敗したのは記憶に残っている。

 正直言って黒歴史だ。

 まあ、初デートなんて大抵は黒歴史になるよね。


「いいじゃん、とりあえず誘っちゃいなよ!」

 奈津季さんは完全に他人事だ。


「でもアイツさ、断るの下手だから悪いかなーって」

「何言ってんの! 男は度胸だよ!」

 ……これは面白がっているだけだな。


「おはようございまーす!」

 そして、渦中の人が登場した。


「おはよう、梨香(りか)ちゃん」

「おはよう、一ノ瀬」

 同時に返事をしてしまった。


「ふたりとも何を話してたの?」

 もしも一ノ瀬を誘うのなら先輩達が来る前に勝負を決めてしまいたい。

 絶対に冷やかされる。

 そうなると一ノ瀬も返事をしにくいだろう。

 かといって、帰りがけを上手く狙うのも難しい。

 何せ、今日はこれといった生徒会執行部の仕事もない。

 部活が終わる頃には一ノ瀬は帰宅しているだろう。


 男は度胸、か。


「一ノ瀬!」

 立ち上がって一ノ瀬の正面に立った。

 一ノ瀬は身長が高く、俺と同じぐらいなので目線が合う。

 なので、詰め寄ってもあまり効果は無い。

 むしろこっちが緊張するだけである。


「なあに、高木くん?」

「俺と、映画を見に行って下さい!」

 気をつけの姿勢から頭を下げた。

 一ノ瀬は映画館が好きだということは知っている。

 大事なことだが、映画ではなく映画館が好きなのだ。


「何で敬語? 今日も高木くんは変だねえ」

 いや、問題はそこじゃないだろう。


「でもごめんね、私、映画はひとりで観たいの」

 それも知っている。


「なっちゃんと行ってきたら?」

 その返事は流石に寂しかった。


「俺は、一ノ瀬と行きたいんだ」

 ここは大事なことだからはっきりさせておく。


「うーん、じゃあ3人で……」

「梨香ちゃん、私を巻き込まないで」

 奈津季さん、援護ありがとう。

 俺と行きたくないわけじゃないよね?


「えー、困ったなあ」

 その言葉を言われると辛い。

 一ノ瀬の事は困らせたくない。

 やっぱり駄目なのか……。


「じゃあ、高木くんが奢ってくれるならいいよ?」

 意地悪そうな顔で笑いながらそう言った。

 よし、来た!

 学生の身分で映画のチケットは確かに高い。

 けれど、どうにかならないものではない。


「もちろん、構わないよ!」


「えっ!? 本気で言っているの……?」

 一ノ瀬にしてみれば冗談だったのかもしれない。

 けれど、こっちは本気なのだ。



 結局、戸惑う一ノ瀬に断る隙を一切与えずに、デートの約束を取り付けた。

 日付に場所、待ち合わせの時間。

 こっちは声をかける前から考えてあったのだ。


 初デートを成功させるのは至難の業である。

 だが、俺にとってこれは初デートではない。

 一ノ瀬が楽しんでくれるように、やれることは全部やろう。


 まず、最初にすべきことがある。

 何気に、一番ハードルが高い。

 ……お金が必要だ。



 ――帰宅後。


「母さん……」

 台所で夕飯の残りを片付けている最中の母に声をかける。

 おこずかいは貰っているが、今回の場合、それだけじゃ足りないのだ。

 一ノ瀬の分の映画のチケット代ならなんとかなる。

 だけど、それだけじゃ駄目なんだ。


「どうしたの、貴文(たかふみ)?」

 手を拭きながら振り返った母の眼を真っすぐに見る。

 こっちは背水の陣で行く。


「女の子とデートに行く約束をしたんだけど……。

 その時に着ていく服を買いたいんだ」

 普通の男子高校生なら母にデートの話なんてしない。

 それは解っているが、俺にはこの方法しか思いつかなかった。

 なお、過去の俺はもちろん、こんな話を母にはしていない。


「ちょっと待ってなさい」

 そう言った母はパタパタと台所から出て行った。

 そして、封筒を手に戻ってくる。


「ここに入っているお金は全部使っていいから。

 その代わり、ちゃんとしたものを買いなさい。

 一応、おつりは返してね」

 物凄く嬉しそうな顔で封筒を手渡された。


「ありがとう、母さん」

「いつか、連れてきてね!」

 ……それはハードル高すぎませんか?


 でも、実は母には一度、一ノ瀬を見せたことがある。

 その時は大場や中森、そして奈津季さんもいた。

 だけど一ノ瀬のことを指して「可愛い子ね」と言ったのを思い出す。

 ……奈津季さんが居たにも関わらず、だ。


 母には俺と一ノ瀬が一緒にいる未来を見せてあげたかった。

 本気でそんな風に思ったのを思い出す。


 ……止めよう、こんなことを考えるのは少し卑怯だ。

 居なくなってしまった一ノ瀬を責めるような気持ちは一切ない。

 上手くいかなかったのは誰のせいでもないのだから。


 部屋に戻って封筒を開けると5万円入っていた。

 母さん、マジですか?

 でも、これなら足りるはずだ。



 ――翌日。


 まずは美容室へ向かった。

 普段は床屋で髪を切っていた俺だったが、ここは本気を出すところだ。

 整髪料も買って、髪のセットも出来るようになった。


 次は比較的安めのアパレル店へ。

 俺は歌や踊りに加えて、服のセンスもない。

 そもそも洋服には全く興味が無かった。

 ……これは今も変わっていない。


 だからまず、センスの良さそうな店員を探した。

 正確に言うと、一ノ瀬が好きそうな恰好をしている店員だ。


「初デートに着ていく服を探しているんですが……」

 恐らくこの台詞は店員に対して、最大級のプレッシャーになるだろう。

 ともあれ、何とか洋服を買うことが出来た。

 コートと靴も買ったのでそれなりの金額になってしまった。

 母に感謝しかない。


 そもそも一ノ瀬は俺の事が好きなわけじゃない。

 俺がどんなに着飾っても一ノ瀬はそれだけで楽しいとは思わないだろう。

 でもせめて、一緒に歩いていて嫌だと思われないぐらいでいたい。


 ……なお、当時の俺は何を血迷ったか制服で待ち合わせ場所へ向かった。

 思い出したくない酷い過去だ。


 俺の下準備はまだ終わらない。


 映画館の下見と付近の喫茶店を見て回った。

 ネットがあれば評判などを調べることが出来るが今はそれが無い。

 雑誌を読み漁るなどという方法もある。

 だが、一番安心なのは実際に訪れてしまう事だ。

 外観や内装で一ノ瀬が好きそうな店をいくつかピックアップする。

 そして、そのうちの一店舗で実際にケーキを食べてみた。

 うん、これならきっと大丈夫。


 ……デートで大切なのは当日の行動だけではないと思う。

 当時の俺は、そんな発想なんて無かった。

 なんとなく、ふたりでどこかへ出かけれられればそれで良いと思っていたのだ。

 必死で下調べをするなんて、ちょっと格好悪いな、なんて思うところもあった。


 でも、そうじゃないよな。

 どうしたら喜んでくれるのか、それを考えなきゃ駄目だ。

 相手を想うというのはそういうことだ。


 デートの下準備は恰好悪いかもしれないけど。

 かけた労力はそのまま、愛情の大きさだと思う。

 誰にも負けないぐらい、彼女を好きだと思うのなら。

 やれるだけのことをするべきだ。


 でも、そんな理屈は後付けだったかもしれない。

 誕生日の時と同じだ、実は難しいことなんて考えてなかった。

 一ノ瀬のために出来ることは全部したかっただけだ。

 ただ一ノ瀬に喜んでほしい。

 強引に誘っておいて、こんなこと言うのはおこがましいかもしれない。

 でも、笑ってくれたらいいな、と思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この彼女の消極性、未だ、恋愛対象としては全く評価されていない感じですね。 初デート、1周目は酷い内容・結果だったようですが、果たして、彼女の心からの笑顔を引き出すことができるでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ